チュートリアルバトル
私の名はシャルル。
すでにカローリング帝国に滅ぼされたメロヴィング王国の第一王子である。
そして私が腰に下げた聖剣ジュワイユーズは亡き父から託された最後の希望であり………辺境に逃げ延びた私は数少ない味方とともに最初で最後の戦いを挑もうとしていた…。
「まずは辺境都市を帝国の手から解放し、帝国の本拠地を攻め落としましょう」
戦装束を身にまとい、背に大剣を背負った騎士団長の娘であり、私へ剣などの技術を教え込んだ戦闘技術の師匠でもあるミシュリーヌが大剣を天へと掲げて言った。
「ああ、これが祖国奪還の狼煙となり散り散りとなった仲間も我らのもとへと集結するだろう」
私がそういったとき唐突に頭の中にこれから起こるであろうことや膨大な知識が流れこんできた。
そして思い出したのがここは”聖剣ジュワイユーズ”というタワーオフェンス型リアルタイムストラテジーシミュレーションのソシャゲの世界であるということ。
いろいろやっていたソシャゲの中でも特に気に入っていたゲームなので印象深いが、なぜこんなことになっているのか原因は不明だ……。
「王子? 顔が悪いけど大丈夫?」
そう聞いてきたのは私のそば仕えのメイドであり、戦装束を身にまとい二本の小剣を左右の手に持ったカロル。
「いや、それを言うなら顔色だろう」
「あ、そ、そうだね、ごめんね王子。
顔色悪いけど大丈夫?」
カロルはいわゆるドジっ子メイド枠の軽戦士で戦闘力も高くないが、その代わりコストが安いので使い勝手は悪くはない。
「ああ、やはり初の実戦だからな、緊張もするさ」
前世ではごく普通に電気系の会社の会社員をしていて、それなりに独身生活を謳歌していたはずだが詳しいことは思い出せない。
まあ前世の詳細な記憶があっても現状ではおそらくほとんど役に立たないだろうし、これからの闘いを生き残るためにはゲームでのノウハウや攻略法、敵の出現場所や種類などのデータのほうが大事だろう。
「まずは状況を再確認するか。
ステータスウインドオープン」
私がそういうとホログラフのタッチパネルのようなモニターが中空へ現れデータを示した。
王子シャルル
王子レベル:1
マナ量:500
マナ回路範囲:50
ああ、このゲームでは俺自身は戦えない代わりに部下の戦装束と魔力回路をつないで魔力を提供することで、彼女らを無敵の戦力として扱うことができるのだったな。
そしてその届く範囲が決まっているのは某汎用人型決戦兵器のアンビリカルケーブルみたいなものかな。
どちらかといえば某機動戦艦に搭載されている人形兵器の重力波ビームかもしれないが。
そして彼女たちのステータスもでてきたのでそちらも眺めてみた。
カロル
レアリティランク:R
クラス:双剣使い
レベル:1
攻撃力:200
移動速度:50
攻撃速度:40
足止め数:2
必要マナコスト:200
ミシュリーヌ
レアリティランク:R
クラス:大剣使い
レベル:1
攻撃力:1400
移動速度:30
攻撃速度:80
足止め数:1
必要マナコスト:500
攻撃力や移動速度、足止め数は大きいほうがいいが、攻撃速度や必要なマナコストは小さいほうがいい。
攻撃速度は一度攻撃した後、再度の攻撃までにかかる時間を示しているので、カロルが2回攻撃するあいだにミシュリーヌは1度しか攻撃ができない。
ただ敵には耐久力と防御力が設定されていて防御力が高い敵にはカロルはあまりダメージを与えられないので総合的な攻撃力は同等というでもないのだが。
そして思い出したが初期状態だとマナが少なすぎるのでカロルかミシュリーヌのどちらかしか最初は出撃ができない。
最も時間経過とともにマナはたまるので時間が経てばどちらも出すことはできるようになるのではあるが。
ソシャゲRPGの場合は最終的に能力が高くなる高レアユニットのキャラ以外は要らないことが多いが、タワーディフェンスやタワーオフェンスでは出撃に必要なコストが多いと、最初の迎撃が間に合わなかったり、出せるユニットの数が結果的に少なくなり、敵への対応が間に合わなくなることも多いので、強くなくともコストの低いユニットも大事で、コストのバランスは重要なので低いレアリティのユニットも馬鹿にできなかったりする。
とはいえ弱すぎると二軍落ちすることも多いけども。
MAP
本道道道道村道道道道敵
今回は自分たちの本拠地と敵に本拠地は一本道で途中に村が一つあるだけのチュートリアル戦闘だからそこまで考えなくても勝てるはずではあるが。
「カロルが先に出撃、手前の村を抑えて中継器を設置しつつ、帝国の先発部隊を足止め。
ミシュリーヌが出撃できるだけのマナがたまったらすぐ後を追わせる」
私がそう言うとカロルは微笑んでうなずいた。
「うん、わかったよ」
ミシュリーヌはいささか不満な様子だが指示には従うようだ。
「了解しました。
そのほうが無難でしょう」
「じゃあカロル。
魔力回路を接続するぞ」
「うん!」
私がカロルの手の甲に口づけをすると魔力回路が接続されくすんだ灰色だった戦装束が色彩をまとい真っ赤に染め上げられた。
マナが充填され色彩をまとった状態であれば戦装束はほぼ無敵の防御力と持久力、そして高い攻撃力や速度を装着者に与えることで、並の兵士をはるかに上回り単独で魔物などと戦えるようになる。
「準備完了、いつでもいけるよ!」
「よし、カロルは出撃だ」
「よし、行くよ!」
腰に二本の短刀を下げたカロルがものすごいスピードで走り去っていき、目の前に展開されている戦闘マップの道を敵の本拠地に向けて移動する様子が見えた。
そして戦闘マップなどでは現状見えないが敵ユニットは、味方ユニットから一定の距離内にいるものだけが表示されるので、少し厄介だ。
もっともどんなユニットがいつくらいにどちらへ向けて出撃してくるかのデータは覚えているし、このステージでは最初であることもあって敵は弱く意地の悪い移動方法も取ってはこないが。
しかし、ステージが進めばそういった見えない敵が、いつの間にか味方本拠地近くに表れて味方を本拠地まで戻す間もなく敗北になりかねなかったりもするから気をつけなければならない。
「村を解放して中継器を設置したよー」
カロルからの連絡が入ってきたので指示を出す。
これで魔力回路も延長されて先にすすめる様になるな。
「了解だ、カロル。
そろそろ敵の先遣隊のゴブリンが見える場所までたどり着くはずだ。
ミシュリーヌを向かわせるからそれまできっちり足止めをしておいてくれ」
私がそういうとカロルは能天気に返事をしてきた。
「足止め? 別に倒しちゃっても構わないんでしょ」
「そうやってさらっと死亡フラグ立てるのはやめてくれないか」
「とりあえず足止めするのは了解だよ」
時間の経過と村の開放によりミシュリーヌが出撃するために必要なマナはたまっている。
そして私がミシュリーヌの手の甲に口づけをすると魔力回路が接続されくすんだ灰色だった戦装束が色彩をまとい青く染め上げられた。
「では、こんどは私の出番ですね」
「ああ、頼むぞ」
「わかっています、出番が遅れたぶん暴れさせていただきましょう。
ミシュリーヌ出ます!」
背中に大剣を背負ったミシュリーヌも走り出し、戦闘マップを敵の本拠地へ移動する様子が見えた。
その間にカロルが敵の先遣部隊と接触した。
「ゴブリン2体と接敵したよ!」
「わかった。
攻撃して足止めをしてくれ」
「任せて! ええい!」
ゴブリンの武器は戦装束をまとったカロルの肉体を傷つけることはできず、カロルが双剣でゴブリン達へとチクチクとダメージを与えつつ、ゴブリン2体をその場に足止めしている間に、ミシュリーヌが追いついたが、視界の範囲に敵側も一体増えている。
「だがこちらのほうが早いな」
ミシュリーヌが大剣を振りかぶって、それをゴブリンへと振り下ろす。
「それ、一刀両断!」
「グゲェェッェ!」
あっさり一匹ゴブリンは倒されて、後続のゴブリンもミシュリーヌがサクッと始末し、もう一匹のゴブリンもカロルがとどめを刺した。
「よし二人でボスを倒しに行ってくれ」
「了解だよ!」
「任せて」
敵の本拠地にはゴブリンリーダーがいて流石にゴブリンよりは多少体力はあったものの、ミシュリーヌとカロルの二人がかりの攻撃によって撃破された。
”ステージクリア”
「敵を倒したよ、やったね」
カロルが笑顔でそう言うと、ミシュリーヌは真面目な顔で
「ようやく第一歩です。
ここを足がかりとして他の地域も早く帝国の手から開放してゆきましょう」
「ああ、そうだな。
ここからが本当の戦いだ」
そしてこの土地を解放したことで、新たに一人仲間に加わった。
「魔術師のアナです。
攻撃魔法はあまり得意ではないですが、鈍足魔法が得意です」
「いやそれは助かるよ。
これから宜しくな、アナ」
「はい、こちらこそ」
この手のゲームの場合は足止め能力が高いユニットは意外と強いからな。