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未だ返らぬという駅員を探して単身馬で飛び出して行ったヴェインだったが、彼女が帰って来る様子は一向に無い。リーファはヴェインが消えた小道をただ見つめている事しか出来なかった。
リーファがヴェインの心配をするなんて滑稽な話であるのは自覚していた。無事でいてくれと願うような間柄ではないし、如何にも武人然としたヴェインの力量がひ弱なリーファ如きにその身を案じられる程度ではないのもこの目で見て知っている。それでも何故だか、リーファの心は不安に曇っていた。
宿の一階はざわざわと騒ぐ客達の声で溢れ返っている。一人一人が何を言っているのかまでは聞き取れないが、皆総じてこの状況に気が揉めている。此処がついさっきまで穏やかに落ち着いていた場所だったとは思えないくらいだった。
上着の裾をぎゅっと掴んでリーファは森を見つめ続ける。早く、無事に帰って来て欲しい。そう思ってしまうのは、先日亡くした馬とその死を悼んでいたようなヴェインに対する拭い去れない罪悪感からだろうか。
ごめんなさい、と。リーファは馬の亡骸に背を向けたあの時に、消え入るような小さな声でヴェインにそう謝った。ヴェインは無言だった。聞こえなかったのかも知れない。聞こえていて無視されたのかも知れない。確かなのは、謝罪を口にしたからといってこの胸の重苦しさが少しも無くならなかったという事だけだ。
両手を祈りの形に組み、光の神に守護を乞う聖句をそっと紡ぐ。腐樹の這い出て来る森へ入ったヴェインと彼女が探しに行った駅員の無事を、今は祈らずにはいられなかった。
「ヴェインの事、心配してるの?」
風にさざめく水面へと更に小石を投げ込むように発せられた、笑み混じりの言葉。含まれた揶揄と嘲笑の匂いがざわめくリーファの心に幾重もの波紋を呼び起こす。
彼女の心配をする事の何がいけないのだ。その死を願っているのならばまだしも、たった一人で他人の命を救いに行ったヴェインの無事を祈る事の何処が悪いのかと、問い質すようにリーファはゼラをきつく睨んだ。しかしゼラはほんの少したりとも怯みはせず、後ろ手に腕組みをして蠱惑的に微笑する。人を小莫迦にしたその微笑み方に加え、彼がこつこつと爪先で床を叩いている音が酷く癇に障った。
「…あなたはアルトナージュの皇子でしょ?すぐ近くで自国の民が危険に晒されているのに、あなたは助けに行かないの?」
少なくともリーファはそう教わってきた。それが上に立つ者の務めであると。まず守るべきは民の命であり、生活であり、王族の権威とはその為にこそ用いられるべきである。其処に苦しんでいる者があれば、自ら進んで手を差し伸べる事こそが王族たる者の務めなのだ。幼い頃、リーファは父からそう教わった。
「皇子の癖に何もしないなんて、そんなのどうかしてるわ」
有りっ丈の非難を込めてリーファは言った。ゼラはまた笑う。何故か、にっこりと。
「素敵な綺麗事だね。じゃあ訊くけど、貴女はこれまでにどれだけの人々を助けてあげたのか、教えてくれる?」
「……それは…」
「あなたが王城の奥で安穏と過ごしている間に城下では何人の人が苦しんでいるのかな。病に倒れて苦しんでいる人に薬を届けてあげた事はある?親を亡くして誰にも頼れず、自力で生きていかなければならない子供達の世話をしてあげた事は?たかが城下程度のほんの身近な所でだって他にも色々と苦しんでいる人がいる思うけど、そういう人達に貴女が何かしてあげた事ってある?」
「っ!」
笑んで返された痛烈な皮肉にリーファは抗弁しようとして、それが出来ない自分に気付いて胸を突かれた。反論の言葉が何処を探しても見付からなかった。愕然とする。今まで自分は民の為に何をしてきたのか。改めて問われれば、挙げ連ねられるような事柄など何一つとして無い。
「口だけでは何とでも言えるんだよ、世間知らずのお姫様。耳に心地好い綺麗な理想論だけじゃなく、現実もちゃんと見ないと。ね?」
リーファは強く唇を噛んで顔を伏せた。教えられた王族としての理想を覚えただけで偉そうに解った気になって、実践などまるでやって来なかった自分が今更ながら恥ずかしくなった。久方振りに生まれた完全な金髪金瞳の王女として庇護され、碌に城の外へ出してもらえなかった事など、この場合言い訳にもならないだろう。こう在るべきを知っていながら、それでも何もやろうとしてこなかったのは、他ならぬリーファ自身なのだ。
少しだけ教え諭すようなゼラの口調が耳に、心に痛かった。何も言えなくなったリーファに、ゼラが目線を正面へと戻す。
周囲の喧噪に沈み込むようにリーファは瞑目していた。言い返せなかった自身への悔しさが膨れ上がるように込み上げてきたが、爪が食い込むくらいに拳を握り固めて堪え忍んだ。
香めいた甘い香りが外から流れ込んでくる。結界に触れた腐樹が焼かれたのだろう。この結界を構築したのはゼラだ。彼は、何もしていないリーファとは違う。此処にいる人々を立派に守っているのだ。リーファは反感から子供染みた言い掛かりを付けた事を恥じたが、どんな顔で謝ればいいのかが判らなくて、結局黙りを続けてしまう。
次第に腐樹の燃え落ちる匂いが薄くなってきていた。宿を囲んだ腐樹はその数を減らしつつある。固唾を呑んで成り行きを見守っていた人々は漸くほっと息をつき掛けたが、小道の奥から猛烈な速度で駆けて来る影があるのに誰かが叫んで其方を指を差すと、皆吐き出し掛けていた息を呑み込んだ。
しかし駆けて来たのは魔物の新手ではなく、栗毛のあの軍馬である。けれどもその背にヴェインの姿は無い。馬に乗っていたのは駅員の男のみで、彼は後ろから追って来る腐樹を気にしながら馬ごと宿に飛び込んで来た。
馬に蹴られぬよう人々が慌てて端へと避ける。急制動を掛けられて後肢立ちになった馬からずり落ちるように駅員が床へ転がった。同じ駅員達が彼に駆け寄り、仲間の無事に涙を流して喜び、良かった良かったと抱き合う。
「あの人は…?」
誰に尋ねた訳でもないリーファの囁き。辺りの人達は魔物の犇めく森から生還を果たした駅員にばかり気を取られていて、それに答えたのはゼラだけだった。
「――不味いかな」
真剣な声に引かれたリーファがそっと窺い見ると、ゼラはずっと床を叩き続けていた爪先を上に向け、踵の方で一度、より強く床を打ち鳴らした。
「あっ!?」
長靴の踵と床石が触れ合い、硬く乾いた音が奏でられる。その響きは一瞬にして空間全体を変質させた。肌で感じたその変化にリーファはやっとゼラの行動の意味を理解した。
ゼラが爪先でずっと床を叩いていたのは退屈だったからでも苛立っていたからでもない。彼は危急の事態に際し、最も範囲の固定がし易い『自身の周囲一定』に結界を張り巡らせていた。その結界をそのまま『指定した地点の周辺範囲』へと、解除する事無く移行させる為に術式に働き掛けていたのだ。
結界の変質を敏感に感じ取ったリーファに、ゼラが少しだけ感心した風な表情をした。
「腐樹に全身の血を抜かれてからからに干涸びて死にたくなかったら、絶対に外には出ないでね」
嫌な言葉を残してゼラが宿の外へと駆け出す。ヴェインの救援に行くのだ。リーファはゼラの頼り無く華奢な背中を不安げに見送った。どうか無事で。心の中で、思わずそんな風に祈りながら。
腐樹の襲撃も一段落したようで、辺りは大分静かになった。このまま腐樹がいなくなってくれればいいのだが。リーファばかりではなく此処にいる人間皆がそう思った事だろう。
ゼラが森に消えてから暫し。いつしか香を焚くような匂いもしなくなり、結界に焼かれて灰と化す腐樹もいなくなったように思えた。だがゼラもヴェインもまだ戻っては来ない。黒い軍服の少年がいなくなっている事に駅員を始め他の客達は今頃になって気付いたようで、彼の側にいたリーファから事情を聞くと一様に心配げに森の方を眺め遣った。
「探しに行った方がいいかも知れませんね。森の中で怪我をして動けなくなっていらっしゃるのかも知れませんし」
徽章を付けた駅長がまだ緊張を孕んだ面持ちで提案する。同意して頷きはしたものの、駅員の男達は心身共に恐怖から立ち直れていないらしい。ならば自分がと武器を帯びた旅装の客達が何人か手を挙げる。
ふと、他の客等と一緒にそれを見守るリーファの胸にある考えが浮かび上がる。
このまま、あの人達に付いて行く振りをして出て行けば――そうすれば、上手く逃げ出せるのではないか。監視役の人間は二人揃って不在であり、近くにリーファの逃走を阻む者などは誰もいない。何なら、其処にいる馬を拝借して行けばいい。あの二人が気付いて後を追って来る前に、その手の届かない場所にまで逃げてしまえばいいのだ。そうすればきっと、帰れる。
一刻も早く故国に帰って、あの子に会いたい。私が傍にいない間に酷い事になってはいないだろうか。無事だとしても、きっと寂しい想いをさせてしまっているに違いない。
別れ際の、幼いあの子の縋るような瞳を想えば、早く帰って安心させてあげなければと心が逸った。仲間と合流を果たすまでの道中は辛く厳しいものになるだろうが、そんな事はあの子の為だと思えば苦にもならない。
ごくり、と唾を飲み下して、リーファは徐に一歩を踏み出した。ヴェインとゼラに向けた心配は嘘ではない。だがそれよりも、あの子が無事であるかどうかの方が気に掛かって仕方が無かった。
先日犯した失態が脳裏を過ったのは、ほんの一瞬。言い付けを破った結果、また同じ過ちを犯すかも知れないとは考えた。だが反省や後悔よりも、故国に残してきたあの子を――幼い弟を想う気持ちの方が遙かに強かった。
森へ向かおうと数人の客達が建物を出る。口の中がやたらと乾いて、呼吸が喉に絡むようだ。体中が脈動するような動悸がする。後に続こうと踏み締めた床の感覚がやけに不確かだった。心許無い足下に眩暈がしたが、リーファは決死の覚悟で進み出る。
「…っ!?」
突然腕を捕まれて、熱に浮かされたような状態から全身の血が引くように我に返る。どくどくと煩い鼓動に急かされて捕まれた腕の方を見ると、駅長がリーファを引き留めるように首を振っていた。
「まだ危険が去ったとは限りません。心中はお察し致しますが、安全の為にどうか此処にいて下さい」
「あ…」
まだ魔物がいるやも知れぬ外へと丸腰で出て行こうとするリーファを引き留める女の誠実な目。危ないから、どうか止めて下さい。心からリーファの身を案じているのがありありと判る表情に毒気を抜かれる。さっきまでの思い詰めたような覚悟が霧散してしまい、リーファが曖昧に返事をして未練げに外を見遣った、その矢先――、
「うわあああっ!!」
今し方森に入った者達が慌てふためいて木立の陰から飛び出して来た。がむしゃらに武器を振り回して此方へ走って来る彼等の後ろからは何体もの腐樹が現れ、触手めいた枝を伸ばして彼等を捕らえようとしていた。
際どいところで腐樹の魔の手から逃げ延び、何とか結界の内に逃げ込んだ客達が肩で息をしながら床に倒れ込む。彼等を追って森から出て来た腐樹は結界に触れて焼かれたが、襲撃はまだ終わりではなかったらしい。それを知って堪え切れなくなったのか、前掛け姿の女駅員がその場に泣き崩れ、辺りは悲愴な空気に支配されてゆく。
森には後どれくらいの魔物がいるのだろう。腐樹は後から後から湧いて来るように思えた。「この辺りはもっと安全な場所だった筈なのに…」誰かが呟く。つと床へと零された「どうしてこんな事に?」という問いに答えられる者はいない。
重い沈黙が流れる。誰も彼もが憔悴したような雰囲気を漂わせて表情を暗くさせていたが、それはリーファも同様だった。
結界が維持されているという事は少なくともゼラは無事なのだろうが、彼が戻って来る気配は未だ無い。このまま結界の内で腐樹の襲撃が収まるのを待つべきなのだろうが、終わりが見えないのは辛かった。一度事態が収束したかのように思えたから尚更だ。
小道の先や木立の向こうに彼等の姿を探して、リーファは森へと視線を彷徨わせる。一見した限り腐樹などいないような森の景色は静けさに包まれていた。幹の薄茶と常緑の葉の緑を背景に、荷馬車に繋がれた引き馬が森へ顔を向けて落ち着かなげに鼻を鳴らす。もう瞼を閉じても実物と寸分違わず思い描けるくらいにその風景ばかりを見つめ続けているリーファの視界の隅を、不意にそれまで存在しなかった影が駆けた。
「あっ!?ぼ、坊や!待ちなさい!」
先程リーファにクッキーを勧めたあの少年が駅長の制止にも駆ける足を止めぬまま振り返り、叫ぶ。
「おれ、村にもどる!」
これ以上に無い真剣な表情を湛えた幼い顔立ちに滲む不安の色。焦りを帯びた声音ながらもはっきりと告げられた短いその叫びには家族の身を案じる必死さが込められいて、リーファにはそれが身につまされるくらいだった。
彼を止めようと伸ばされた誰かの腕をするりと躱し、少年は外へと飛び出して行く。少年の身体が視えない結界の境界を越える。その機会を心待ちにしていたかのように森から腐樹がのそのそと姿を見せ始める。
前に立った腐樹は一体だけ。だが戦う術など持たない少年の足は、道を塞ぐ魔物にたじろいで止まった。魔物を間近にした少年はまるでその場に両足を固定されてしまったかのように一歩も動かない。いや、怖くて動けないのだろう。仮令家族を想う気持ちがあったとしても、実際に恐ろしい魔物を目前にしては足が竦んでしまうのは当たり前だ。
「く…来るなよ……来るな…っ!」
迫り来る魔物に対して彼が出来る唯一の抵抗。少年の震える怒鳴り声を聞いた途端、考えるよりも早く身体が動き出していた。
全力で駆け、身体全体で少年に体当たりする。少年を半ば下敷きにしてリーファが地面へと倒れた直後、しなる腐樹の枝が頭上を通り過ぎた。
リーファは少年の上から直ぐ様退き、残念だと言うように風が唸る音を発する腐樹と相対する。
―――どうしてこんな事をしているの?
頭の中にいる冷静な自分が問い掛けてくる。リーファは自身に対して答えた。みすみす見殺しにする事など出来ないだろうと。知った顔をしてあれだけ偉そうな口を叩いておきながら、すぐ其処でで危険に晒されている少年一人助けようとしないでどうするのだ。それこそ愚の骨頂ではないか。
それに、リーファはいつの間にか、遠く離れた場所にいる弟の面影をこの少年に重ねてしまっていた。尚更見捨てられる訳が無い。
年の頃は違う。顔も声も、何もかもが彼女の弟とは違っている。それでも先刻見せられた少年の屈託無い笑顔が、大切な弟のあの笑顔をリーファに思い起こさせていた。
触腕である枝をうねらせる腐樹に逸らしたくなる視線の焦点を合わせ、がちがちと歯の根が合わないままにリーファは体得している魔術を必死に紡いでゆく。
二、三、言葉を交わしただけの無関係の少年の為に身体を張るなど莫迦げていると、心の何処かが囁く。もしも此処で死んでしまえば、もう二度と弟とは逢えなくなってしまうのだ。腐樹が虚の口から洩らす風音が、リーファを嘲笑っているように聞こえる。それでもリーファは少年を助ける事を選んだ。此処で彼を見捨てたら、私はきっとその事を後悔し続けるから。
腐樹の枝が再び振り上げられるのとリーファが詠唱の最後の一節を唱え終えたのは、ほぼ同時。突き出したリーファの掌から生じた火球が、生き血を求めて繰り出された悍ましい枝を呑み込み、一息の内に腐樹そのものを焼き尽くした。煙と共に濃密な甘い香りが立ち上り、炎に焼かれ狂ったように枝を振り回す腐樹が黒焦げになり、尚収まらぬ火勢にそのまま灰と化してゆく。
「…や、やった……?」
さらさらとした灰が、頬を撫でる冷たい風に散る。地面にぺたりと座り込んでリーファは確かめるようにそう呟いた。自分の両手をぼうっと見つめ、次にのろのろと後ろの少年を振り返る。
少年もリーファと似たような有様で呆然と彼女を見つめ返してきた。どうやら何処も怪我はしていないようだ。リーファはその事に安堵して、知らない内に詰めていた息を深く吐き出した。
リーファは少年を安心させようとして微笑んだ。とにかく、無事で良かった。家族が心配なのは解るけど、此処はまだ危ないかも知れないから一旦宿の中へ戻ろう?そう言おうと口を開き掛け、ふと背後から差す影に気が付いた。
駅員か誰かが、リーファ達を中へ連れ戻しに来てくれたのかも知れない。実を言えば少々腰が抜けていた。自分から飛び出して行った割には情けない事だが、手を貸してくれるだろうか。
おずおずとリーファは影の方を振り向き――慄然とした。
見た事も無い女が背後に立っている。正しくは、女の姿をしているように見えるモノ。艶めかしい曲線を描く上半身に、気色悪く蠢く無数の根を生やした下半身。木目を刻んだ肌は腐樹と同じ腐り掛けた樹皮の色。
〝女〟は輪郭の凹凸しかないつるりとした顔の中でただ其処だけがぽっかりと開いた口のような穴から、ひゅーっ、と高い笛の音のような声を出した。形だけならしなやかな腕が、抱擁を求めるように大きくリーファ等の方へと広げられる。
逃げなきゃ。
女の形をした腐樹から恐ろしさ故に釘付けになった視線を外せないまま、リーファは少年の手を握り締めた。だが足は虚しく土を削るだけで立ち上がる事が出来ない。一方少年は硬直してしまったかの如く動かず、引き攣った顔でただただ魔物を見上げている。
この窮地にあって冷静に術式を構成する為の精神集中などリーファに出来る訳も無く、最早魔術を行使するだけの気力は尽きていた。逃げなければ死ぬ。早く、ゼラの結界の中へ戻らなければ。しかし頭ではそう思うのだが、身体がどうしても動いてくれなかった。
なけなしの力で少年の腕を引く。少年の限界まで開かれた瞳が救いを求めてリーファを見た。
萎えた足で力無く土を掻くリーファのすぐ側で、〝女〟が動く。人を象ったその上体が獲物を喰らう喜びに震えるように反り返り、腕が高く掲げられる。腕は、人間であれば関節を無視した方向へと不穏にくねり、蠢動するその指先が贄を指し示すかのようにリーファ達へと向けられた。
リーファは咄嗟に少年を抱き込んで彼を庇った。すぐに訪れるだろうその時を恐れて固く目を瞑る。
闇に閉ざされた視界で音だけが風を切り裂く。近くて遠い所から上がる、名も知らぬ人々の絶叫が鼓膜を劈いた。