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7話 王都到着

◇とある手紙――――――


(ようや) く対象を捕捉しました。

年齢、特徴、ほぼ間違い無いでしょう。


しかし、報告とは大きく異なる点が多数存在致しました。


彼女には親が居るようです。

出会ったのは母親でしたが、雰囲気や表情、仕草など類似点が多いので実母の可能性が高いです。


また、感情が豊かで人語を解します。

適当な会話に混ぜ、ある程度有益な情報を得ることができました。

会話の内容は別紙に詳細を記しておきますので、ご確認下さい。


食事の際、同行した冒険者が食事前の祈りと称して唱えた祝詞に一瞬顔をしかめたものの、ダメージを受けた様子はなく、特に変化した点も存在しませんでした。おそらく、真剣に祈ろうとしたものだと推測されます。


以上の情報から、人間である可能性が極めて高いです。

今後はどう動くべきか、指示をお願いします。


◇――――――



 前の町を出てから七日、お昼をちょっと過ぎた頃にやっと王都に到着した。

馬車の中でハノさんに教えてもらって知ったけど、出発した町の名前が『ルビエラ』、王都の名前が『アリエス』らしい。

お母さんも会話に参加して、私の住む村は『フルーカ』だと十年経って始めて知った。

当然お母さんも町の名前は知っていたけど、そういえば町の名前って気にしたことなかったから聞いたこともなかったな。


 馬車の中ではあんまり動き回れないし護衛の二人とお母さんと話すだけで暇になるかなと思っていたけれど、私のような小さい子は珍しいようで、一緒に乗っていた皆が次々に話しかけてきたため、暇ではなかったけど逆に疲れた。


「おうとだ!」


 石畳広い道やレンガ造りのそれなりに高い建物がずらりと立ち並び、まるでいつか写真で見たヨーロッパの風景を思い出させる。

ルビエラもそうだったけど、こっちは今お祭りの最中だし活気があって屋台なんかも立ち並んでいるから静かで美しい街並みって感じだったルビエラとはまた少し違う印象を受けるね。


 馬車を降りて喜んでいると、ザンバラさんとハノさんが近くに立っていた。


「それじゃ、オレたちはこれで。またな」


「じゃあね」


「ばいばい」


「道中ありがとうございました」


私は大きく手を振って、お母さんは軽くお辞儀すると、すぐに護衛の二人は雑踏の中に消えていった。


しかしさすが王都と言うべきか、本当に人の数がすごい。

前世の有名なお祭りみたいにイモ洗いってほど混んではいないけど、よそ見して歩いたらすぐ人にぶつかってしまいそうだ。


「さ、トート、泊まる宿を探すわよ」


「ん」


 考えてみれば、予約とか便利なシステムはないのか。

歩き回るのは面倒だけど仕方がない、私は出されていたお母さんの手をきゅっと掴んだ。


結局、三件目の宿に空きがあったのでそこに泊まることになった。

この世界では高級っぽい雰囲気の宿だ。部屋の中にシャワーっぽいのが付いてるし、きちんとベッドメイクまでされている。

他の宿に比べて値段が高かったから、部屋が空いていたんだろうな。


「西区、宝石宿。覚えた?」


「にしく、ほうせきやど……うん」


「私とはぐれたり、迷ったら、誰かに聞いてすぐに戻ってくるのよ」


「わかった」


 まあ、はぐれてもこのお祭りの間は治安も良さそうだし大丈夫かな。ただでさえ人通りは多いし、さっき宿を探して歩いている間にも兵士っぽい人を両手で数えきれないくらい見たし。

歩きながらキョロキョロしてて思ったけど、今いる『西区』は冒険者用の宿なんかが多い、町の入り口に当たるような場所なのだろう。だから冒険者風の人を見かけたら聞いてみればすぐに戻れそうだ。


 お母さんの注意を受け、再び外へ。


「とりあえず、お昼ご飯ね」


「あれたべたい」


即座に指差したのは、宝石宿に入る前からいい匂いがして気になっていた屋台。

お母さんも同じらしく、頷いて私の分も買ってきてねと硬貨を渡してくれた。


この世界でお金を扱うのは初めてだけど大丈夫、ちゃんとお母さんにレクチャー受けてきてるからね。


「くし、ほしい」


「あいよ、一本でいいのか?」


「にほん」


「ほい、っと、二百四十グリスだ」


「ん」


「毎度あり」


ざっとこんなもんだ、任せてほしい。

グリスというのはこの国の通貨単位だそうだ。


 購入したステーキ串をお母さんにも渡して、二人で近場のベンチに腰掛けて食べる。意外と肉が厚くて食いでがある。


「ちょっと肉が硬いわね……トート大丈夫? 食べ……」


「おいしかった」


なんか、ごめんなさい。


「……」


「……」


「もう一本食べる?」


「べつの、たべたい。つぎいこ」


そう言うと、お母さんは驚いた顔をした。


「本当に大丈夫、疲れてない?」


「うん」


「別に焦らなくてもしばらく王都に居るから、時間はあるのよ?」


「だいじょぶ」


と、頷いてから思った。むしろ私に付き合わされてお母さんが疲れているのではないかと。

「つかれてる?」 と尋ねると苦笑いで肯定してくれた。


「久しぶりだったから、少しだけね」


「じゃあ、ひとりでみてくる」


「え」


お母さんが悩むような仕草をしている、一人は流石に無理かな?

この世界がどうこうではなくて、単純に小さい子が見ず知らずの土地で一人歩くのはまずいよねって話。


お母さんは片手で肘を持ち、さっきのステーキ串を外側に向けながら手の甲を頬に当ててなにやら深く考えている。


「大丈夫かしら、はしゃいで宿の場所忘れるような子じゃないけど……何事も経験かしらね」


小さく呟いた後、お母さんは首を振った。


「決して一人になるような場所には行かないこと」


「うん」


「知らない人に……ってまず知らない人よね。兵士さんじゃない人に付いて行かないこと」


「うん」


「何かあったら、大声で叫びなさい。この時期は冒険者が多いから、確実に助けてもらえるわ」


「わかった」


冒険者、便利。前世だとそういう厄介ごとには首を突っ込みたく無いって人が多かったと思うけど、この世界は違うのかな。

確かに冒険者って厄介ごとに喜んで首を突っ込むイメージだけどさ。


「それと、これ」


言いながら手渡されたのは、小さな懐中時計。蓋を開けて時計を見ながら、お母さんは続ける。


「今から三時間ね、遅くても五時にはちゃんと宿に戻りなさい」


「わかった、がんばる」


「場所は判るわよね?」


「にしく、ほうせきやど」


「よし、じゃあ行ってらっしゃい」


「ん」


最後にお金を少しもらって、私はテクテク歩きだした。

街の広さが判らないから三時間だとどこまで行けるか不明だ。戻る時はどんなに遠かろうが、いざとなったら屋根の上でも飛び移って急いで戻れば五分と掛からないだろうけどね。

まあ、屋根の上を走るなんてヘタするとこの国の兵士に睨まれそうなこと、出来ればやりたくはないから最後の手段かな。



 出店を回りながら歩いている時にちょこちょこ尋ねているけど、私は未だに西区に居るらしい。

西区を出たら街の雰囲気も変わる、と十分ほど前に辿り着いた出店の兄ちゃんは教えてくれた。

冒険者用の宿とか、道具屋とか、荒くれを受け入れるような安っぽい酒場なんかが西区には多いらしい。


そして私は、ちらっと目に入ったお菓子が気になった。


「おっちゃん、これたべたい」


「はは、お嬢ちゃんこれは食べもんじゃないよ」


「え、じゃあなに」


私が指差したのは、最中(もなか) みたいな焼き菓子……っぽいんだけど、食べられないなら何なのだろう。


「これは癒しの柔箱さ。中に回復魔法が入ってるから、手で外側の箱をもみ砕いてやれば、少しだけ疲れが回復するって道具だよ」


「きず、いえないの?」


「これはそうだな、肩こりとか、腰痛とか、お年寄りが使うものさ」


ふーん。すっごく便利な幸せアイテムだけど、持ち運びどうするんだろ。見た目的にはそれこそ最中みたいにサクッと崩れちゃいそうだけど。


「いっこちょうだい」


「ええ、要るのかい? お嬢ちゃんじゃあまだ早いんじゃないかな」


「おかあさんに、あげる」


「なるほど、親孝行だねぇ。五百グリスだよ」


「ありがと」


 思ったより高かった、やっぱり魔法が使われているからだろうか。

持ち運びはどうするのかと思ったけど、おっちゃんが硬い箱の中に入れてくれた。箱の中の箱……。



 そんなこんなで一時間ほど歩いていると、駐在所のような大きな窓がある建物が見えてきた。その先は建物の雰囲気がガラッと変わるから、ここが西区と別の区の境なのだろう。

こっちは商業施設って感じで、この先は煙突が多い、工業施設って雰囲気だ。


駐在所があるのに素通りするのはまずいかなと思って窓に近寄ると、中にいた女の子が窓に近づいて来た。

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