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70話 驚愕の事実。

「貴女たちは近々街を出る予定ですよね」


 紅茶のおかわりを受け取って一口つけると、コスタラータさんは小首を傾げて私に訪ねた。私が首肯すると、彼女は続ける。


「でしたら、ベルングラストへ向かっては如何でしょうか」


「べるんぐらすと?」


エレスベル(ここ)から北西の方へとだいぶ離れた場所に位置する国の名であろうな。そこそこ大きな国だったと認識しておる、この国と同じくらいか』


「へえ、でもなんで?」


 何か目的があるのだろうか、国の名前を出されても私は全然地理なんて判らないし、どんなものがあるのかも知らない。

 そんなクエスチョンマークがいっぱい頭の上に出ている私に、コスタラータさんは言葉をかさねた。


「剣の王が居ます、まだしばらくは滞在を続けるでしょう」


 その言葉で、更にクエスチョンマークが増える私。剣の王が居るからベルングラストへ向かった方が良いって、どういう事だろう。


『ふむ、あてのない旅であるから、会いに行くのも良いかもしれんな』


「あうの?」


『うむ、彼奴も妾と同じで人間寄りであるからな。少々生真面目で面白みのない奴ではあるが、会うことが出来れば聞きたい事も多い。妾の都合でお前を連れ回すのは不本意ではあるがな』


「なるほど」


『それよりトート、聞いてくれ、ピコの居場所はわかるか、と』


「う、うん。ぴこのいばしょ、しってる?」


「……いえ、ピコ様の所在はわたくしも存じておりません」


『で、あろうな。まあ、期待はしておらなんだが』


 はあ、とヘルベティアは大きくため息をついた。ピコって誰なんだろう、なんて私は首を傾げていたけれど、そんな私を気にすることなくコスタラータさんが喋り始めた。


「ですが、わたくしに答えられる質問であれば、今この場で答えます。暫く会うこともないでしょう、遠慮なくどうぞ」


「といっても……」


『うむ、ならば聞きたいことは多い。トート、頼むぞ』


「わかった」


『では早速だが、妾亡き後どうなったのか聞せてもらおうか――』



◇――――――



「やはり、あまり訓練にならないでありますね」


 サクン、と槍を地面に突き立ててルーティは大きくため息を吐いた。隣で椅子になる程度の大きさの岩に腰掛けて気怠そうにルーティを眺めていたリッカは、その言葉にこくこくと頷く。


「そうだね、トートちゃんが武器持たないのも判るかも」


 トートの場合、単純に簡単に壊れてしまい全力が出せないので武器を持たないだけなのだが、リッカはそんなことを言いながら視線を虚空に向けた。


 二人は実戦経験の少なさから、ずっと討伐依頼を中心に依頼を受けている。

リッカは薬草やモンスターの知識が凄まじく、ルーティは防御寄りであったものの一定以上の戦闘技術を身につけていたため、お互いの苦手を補うことで二人のランクは一気に上がり、はやくもDランクに到達していた。


 しかし、トートほどの力は出ないものの、どちらもトートの力を得ているのでDランク程度のモンスターでは全く相手にならず、『訓練にならない』のである。


「ですが、ようやく自分もこの力に慣れてきたのであります」


 グッと両手を握って微笑むルーティに、リッカはぽんと両手を合わせて反応した。


「あ、わかる。私もキスされた直後は制御きかなくて、お母さん誤魔化すの大変だったな……」


「え、リッカ殿、今なんと?」


「お母さん誤魔化すの大変だった、って」


「違うのであります、その前でありますよ」


「キスされた直後は制御きかなかったよ、ってところ?」


「キスとはまさか、トート殿とでありますか!?」


 地面に突き刺した槍はそのままに突然駆け寄るルーティ、その剣幕に驚いてリッカはわずかに身を引いた。


「う、うん、そもそも私たちの力の源はトートちゃんのキスに寄るものらしいから、ルーティもそうなんだけどね」


 リッカは引いた体勢のまま言うと、ついその状況を思い出してしまい、「目の前で見せられたし」と音にならない程度の声で呟いて口をへの字に結んだ。


「なっ……!?」


 そんな言葉に雷のエフェクトが見える程にショックを受けているのがルーティで。

 ルーティは狼狽えたまま二歩ほど後ずさり、膝をついて項垂れた。


「全然知らなかったのであります」


 しかしリッカも自分はキスの感覚を覚えているからといって優越感を覚えるわけでもなく、むしろ思い出したルーティに対するキスはトートの焦りもあったからか随分と情熱的だったな、なんて思いもよらぬ方向に被弾して、座っていた岩の上で膝を抱えて落ち込む。


「私の時は、一瞬だったな」


 ずーん、と周囲がネガティブに侵食され、辺りに散らばるモンスターの死骸と、その近くに突き立った槍と、すぐ隣の岩の手前と上でものすごく落ち込んだ少女が二人ととても異様な空間が出来上がった。



「そういえば、リッカ殿はどうしてトート殿のキスを?」


 やがて立ち直ったルーティが尋ねる。リッカを知ってから二ヶ月経った今、リッカもトートが好きなことは十分判っているのだが、見る限り恋人と呼ぶような間柄ではないし、トートの性格からすると余程のことがなければキスなどしないだろう。


「んー」


 そのちょっとした疑問に、リッカは悩むように指を唇に当てて視線を上に向けると、慌ててルーティは両手を広げて振った。


「もし言いにくいのなら、聞かなかったことにして欲しいのであります」


「あ、ううん、そうじゃないんだけどね。私は生まれた時から不治の病にかかってて、ベッドで寝てることが多かったんだ」


「不治の病、でありますか」


「そう、お医者さんも治すのは無理だーって。それで、七歳の頃だったかな、もう起き上がれないくらいにまで病気が酷くなっちゃって、『私はこのまま死んじゃうのかな』って思ってた時に、突然トートちゃんがキスしてきたの。もうびっくりしたよ、凄く苦しかったのに、いきなり楽になっちゃってね」


 指を組んで思い出すように目を閉じ、少しの間黙る。

 目を開くと、それ以降はあまり必要のない情報だったと考えたのか、リッカは微笑すると短く言った。


「それから、いろいろあって……とにかく、トートちゃんは私にとって大切な人なんだ」


「なるほど、そういう経緯(いきさつ)があったのでありますね」


 そう聞いてルーティは大きく頷くと、ニッコリ笑った。

 リッカもここ二ヶ月ほどルーティと一緒に居て、彼女がトートを恋愛対象として見ていることがわかっているのだが、


恋敵(ライバル)なハズなのに、あの笑顔でなんか毒気抜かれちゃうなあ)


なんて思いながらもルーティの笑顔に笑い返した、全く悪意がないだけに邪険にできない。


 小さく息を吐いて大きく伸びをしてからリッカは立ち上がり、ズボンについた汚れを叩き落とす。


「さてと、休憩はここまでにしよ。さっさとあのモンスターの剥ぎ取りを終わらせて、今日はあと一個くらい依頼受けとこ」


「ええ、団長殿に言われた手前あまり目立ちたくはないのでありますが、早くあと一段階ランクを上げなければトート殿の足手まといになってしまうのでありますからね」


「そうだねー、時間的には二、三個くらいすぐ終わらせられそうだけど、悪目立ちしちゃうだろうし、さじ加減が難しいよ……」


「今でさえ『期待の新人か』と、ごく一部には注目されているみたいでありますよ」


「はあ、憂鬱。街の中歩く時、あの視界がぐらんぐらんするメガネを掛けないといけないのが更に憂鬱だよ」


「Cランクになるまでの辛抱でありますね、きっともう少しでありますよ」


「だと良いけどねー」


 などとぶつくさ呟きながら、二人は自らが倒したモンスターの方へと歩いていった。

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