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69話 紅茶は数秒で消える。

『――まず、頂点に魔王がおる。魔族の中でも一番力を持つ者がその座に着くことになる』


「いちばん?」


『うむ、今までも何度か伝えておったと思うが、魔族には力ある者が偉いという社会通念が存在しておる。であるから一番力のある者が魔族の頂点に立つのは必然であるという話じゃな』


「なるほど」


 リッカちゃんとルーティが冒険者ギルドに行き始めてから二ヶ月経った。

私は昔からずっと赤目だったし当たり前のように街を闊歩していた事もあって、あんな事があっても街の人たちに警戒とかはされておらず、みんな今まで通り接してくれる。

 私と違って元々は普通の瞳の色だったリッカちゃんとルーティの二人は、赤目を隠すためにバニルミルトさんが貸してくれた魔道具の眼鏡をかけて外に出るようにしているみたいだ。

 リッカちゃんはアリエスに来た時から赤目だったから別にどうって事はないのかもしれないけれど、あんな襲撃があった後だから見知らぬ赤目が居るとまずいだろうという事で、ルーティと同じく眼鏡を掛けさせられている。


 バニルミルトさんは眼鏡を渡しに来てくれた時、『王様が感謝を伝えるために招待しようとしている』なんて伝えてきたけど、襲撃を仕組んだ犯人(マリウス)も私も赤目(アンデッド)である以上大々的に感謝をするわけにもいかないだろうし、エレスベルという国の大半が襲われ、街や村の復興に莫大な費用が必要になるはずなので金品を要求するわけにもいかない。

それに一番大切な所だけれど、なによりも私は当然ながら礼儀作法に疎い。


 なので、丁重に断っておいた。バニルミルトさんも『陛下の誘いを断るなど』なんてぶつくさ言いながらも私と同じような考えを持っていたようで、私はお城に呼ばれることはなく、バニルミルトさんが後日国王のカルネリウスさまが直筆した書状を持ってきてくれた。ある程度の周辺国ならば、困った事があったらこれを出せば大抵はなんとかなるらしい、ちょっとパワーがありすぎて怖い。


 さて、そんなこんなでちょこちょこと問題は発生したりしたけれど大した事はなかったし、二人に合わせるために私も冒険者ランクを上げるわけにはいかないから最近毎日のように暇を持て余している。


 そんなある日の正午を少し過ぎた頃、二人がギルドの依頼を受けに行ってしまって暇になった私は、リビングのテーブルでまったり紅茶を飲みながら一人ヘルべティアのお話を聞いていた。


 内容は魔族の上下関係って言えば良いのかな、以前訪ねた『魔族って何』という問いを更に深く答えてくれている感じだ。


『そのすぐ下には《四つの王》が存在する、各々得意とする能力を示す異名で呼ばれる事が多いな。例えば、妾の下には剣の王や人形の王などが付いておった』


 四天王が居るのか、確か私のことも側近ならば力の王だったかもしれんとか言ってたね。

 剣の王はきっとそのまま剣術が得意な人だよね、多分。人形の王はあれかな、ファンタジーによくいる人形を手足のように操って戦えるタイプの人なんだろうか。


「おうって、けんとにんぎょうと、ほかには、どんなひといたの?」


「その代ですと、他には知略の王と法術の王ですね。あ、わたくしにもお茶をいただけますか?」


「ん、ちょっと、まってね」


 ……あれ? 今の声誰。


 あまりにも自然だったから普通にキッチンまでカップを取りに行こうとしてしまったけれど、椅子を降りて少し歩いた所で今この家には私とヘルベティアの二人、実質私一人しか居ない事を思い出す。


 バッと振り向いてテーブルを見ると、白い忍者のような装束に身を包んでいる少女がさも当たり前のように椅子に座って無表情のまま私を眺めていた。

 頭巾はフードのように背中側に垂らしているため長い銀色の髪がよく目立ち、思慮深く私を眺める緑色の瞳は爬虫類のような縦に細長い瞳孔が異彩を放っている。


『白蛇か』


「しろへび?」


 おうむ返しに聞くと、椅子に座っている少女は目を細めて静かに怖い声を出した。


「その名を口にして良いのは我が主であるワルプルギス様だけです、決してその名で呼ぶ事は無きよう」


「う、うん」


「そうですね、では、わたくしの事はコスタラータとお呼び下さい」


「はあ」


 クエスチョンマークを浮かべつつもとりあえず頷いておく私、コスタラータさんが何をしに来たのか分からないけど椅子に座ったまま動く気配はない。


『《知略の王》、ワルプルギスの腹心じゃな。正直な所、妾も直に会うのは片手で数えられる程しかない、コスタラータなどという名も偽名であろうな』


「かたてで、って、そんなものなの?」


 部下の部下ともなると会わなかったりするものなのだろうか、魔王が全ての魔族を束ねているっぽいし、それくらいの大組織ともなると部下の部下くらいまでは普通に会いそうなものだけど。


『うーむ、と、いうよりは知略の王が少々特別なのだ。彼奴はちと分からん奴でな、大兵団を治めていた剣の王や彼女の技術に憧れて集った技術師団のおった人形の王と違い、この白蛇一人しか部下がおらん』


「ふーん、ちりゃくか、どんなひとなんだろ」


「……こほん」


 ヘルベティアと話しているとテーブルの方で咳払いをされてしまったので、私は慌てて紅茶を用意してテーブルへ向かう。


『まあ、そういうわけで妾も此奴の事はほとんど分からん。十中八九知略の王の差し金であろうが、あの隠密技術を持ちながら先制攻撃をされておらん以上敵対の意思はないと見て良かろう』


「そっか」


 コトンとテーブルの上にカップを置いてコスタラータさんに差し出すと、彼女は特に毒物なんかを気にする様子もなくカップに口を付けた。

 忍者っぽい格好をしているのにちょっと驚きだよね、心配そうに見てたら『大丈夫、毒なら効きません』とか言い出しそうだ。


 と、変な心配をする私を尻目にコスタラータさんはカップを静かに置いてからちらりとこちらを見て声を出す。


「先ほどの呟き、ヘルベティア様との会話でしょうか」


「わかるの?」


「ええ、アリエスが襲撃された際に貴女と同一の姿をしたヘルベティア様を発見してから、少し貴女について情報を集めさせていただきましたから」


 少し、か。彼女が現れた時、私が全くその場に居たことを不思議に思わないほど自然に現れるくらいだから、やっぱり見た目通り忍者みたいな人なんだろうな。そういう人の『少し』ほど信用ならない言葉はないね。

でもそうなると、リッカちゃんとルーティがいないこの時間に現れたのも狙い通りなのかな。


「調べた結果、貴女がよく分からない存在であることが判明しました。一般的な人間の両親を持つ人間であるにも関わらず、その異常なほどの身体能力や不死者(アンデッド)特有の赤い瞳など通常では考えられないことが多いように見受けられます、一体どうなっているのでしょう」


 う、その辺りは私もよく分かってないから情報が手に入らないのは仕方ないかも。


「ですがそれは今この場において必要ではない情報なので良いとして、貴女に宿るヘルベティア様はこの状態でも会話は可能なのでしょうか、聞こえてはいるのですよね?」


「うん、えと、でも、こたえるのは、わたしがはなさないと、むりかも」


『だのう、やはり魔族でも妾の声は聞こえぬか』


 ヘルベティアも腕を組んで私の隣に立っているけど、コスタラータさんは一切そっちに視線を向けることはないので、やっぱり見えてもいないみたいだ。

ヘルベティアが言って気付いたけど私にとって初めて会う魔族なんだね、思っていたより普通に人間っぽい。


「そうですか」


 ため息をついて面倒臭そうな声を出すわりには、表情にあまり変化がなくて本当はどう思っているのか想像できないな、なんて考えていると彼女は視線をカップに移した。


「あ、紅茶のおかわりをお願いします」


「のむの、はやっ!」

以前よりどうしようか悩んでいて表記がぶれまくっていたアンデッドの瞳に対する『あか』ですが、今回から『赤』に表記を統一します。もし以前のもので気になるような事があれば、お手数をおかけしますが誤字脱字報告より連絡を頂ければと思います。

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