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67話 ひと段落

 さて、あれから一週間経った。

ひと段落ついた所で聞いた限りだと、王都での軽傷者は一万弱、重傷者は五百ちょい、死者は四十三人、あの規模の襲撃でこの数は奇跡だそうだ。


 私たちがアリエスに到着した時、まだまだ大量に居たアンデッドを雷の魔法で一掃したのが良かったみたいだね、あれがなければ物量で負けていた可能性もあるって門の辺りの冒険者達は言ってたし、タイミングも良かったんだよね。


 ちなみに、他の街では壊滅した所もあるらしい、マリウスが潜んでいたレブナント領は既に生きている人間は一人も居ないという惨状で、そこからアリエスに向かって直線で向かった先にある街や村は同じように壊滅させられてしまったようだ。


 他にもいろんな街にアンデッドが出没したようだけど、そっちは自警団とか冒険者とか、その街に駐在している騎士さんとかがどうにかしてくれたみたいだね。

私の生まれ育ったフルーカ村は、レブナント領から見ると王都のずっと先にあるので酷い事にはなっていないはず、お母さんも居るし。

一応、今のバタバタが終わったら顔を出さないとかな、多分お母さんもお父さんも心配しているだろうし。


 で、フルーカ村と言えば、話を聞く限りリッカちゃんは家出同然で出て来てしまったらしい。

私を強く想ったら位置が分かったんだと、ヘルべティアもリッカちゃんの位置は認識していたようだ、むしろ何故キスで力を与えるっていうヘルべティアの能力を受け継いでるのに、私の方にその位置の認識能力が付かなかったのか不思議で仕方がない。


 それはそれとして、流石に家出はまずいよなあと私もちょいちょい小言を言っておいたけれども、あんまり気にしていない風だったし、今度顔を出す時に連れて行こう。



 西区の冒険者街はやはり主戦場だったせいで石畳は壊れて剥げ、建物も壊されて潰れてしまっていたり傷だらけでボロボロになっていたりで復旧作業が続いている。


 ヴィルジリオさんとアルスさんの二人は襲撃が終わって特別手当がギルドから出されると、さっさと別の街に向かってしまった。


「さぎょうとか、てつだわないの?」


 そう王都を出て行く前に出会ったヴィルジリオさんに聞いてみると、


「手伝わん。だいたい、こういう類の臨時依頼は低級冒険者の有難い臨時収入源なのだ、私たちのような上級冒険者が受けるべき依頼では無い」


 と、返された、納得である。

私? 私はこの街の住人だから手伝うよ。


「あらトートさん、お久しぶりですわね」


「ん、ひさしぶり」


 ヴィルジリオさんとアルスさんが出て行ってから六日後にエトワールさんがやって来た。どこで聞いたのか分からないけど復旧作業を手伝いに来たらしい、さすがは《喜捨姫》だなあと驚く。


「わたくしも戦闘に参加できれば良かったのですけれど、聞けばアルスさんやヴィルジリオさん、エレスベルの三人娘と不死狩り、なんてAランク冒険者が沢山いたようですし、わたくしは必要ありませんでしたわね」


 ふふん、と自虐的に鼻で笑った、あの状況だとAランク冒険者が多いに越した事は無いと思うけどね、エトワールさんはそういう戦闘にはあんまり出会わず、たいてい復旧だったり復興だったりの作業を手伝うだけである事が多いらしい、ちょっとタイミングが悪い人なのかな。



 一週間経ってもルーティは未だに眠ったまま。

鎧は脱がして全身にこびりついた血は洗い流し、申し訳ないなと思いつつもルーティの部屋からパジャマを拝借して着せている。


 ルーティの身体を洗う時は相当恥ずかしいものだったけど、何か気に障ったのか突然リッカちゃんも脱ぎ始めて、待ってなんで脱ぐのと一悶着あったので、あまり恥ずかしい気持ちを引きずる事なく『友達とお風呂に入った』くらいの感覚で洗う事ができた。


 しかしリッカちゃん、私と分かれていた事で鬱憤が溜まっていたのかちょっと引くくらいグイグイ来る。

いつぞやのジャイアントと戦った時の告白に対する返事は、


「ほ、保留で……?」


 って凄く情けない上に申し訳ない返事を返しちゃったけど、リッカちゃんはあんまり気にしていないらしい、嫌いじゃないなら好きになってくれる努力をすると面と向かって言われてしまった。

昔と比べてハッキリ物を言うようになったね、病弱だった頃の気弱なリッカちゃんから考えると驚くほど変わったと思う。



 それから、最近やっと落ち着いて来たのかバニルミルトさんが話を聞きにうちにやって来た、ルーティの事とか連絡しておいたからね。


 リビングのテーブルに私とバニルミルトさんが着いて、リッカちゃんが紅茶を入れてくれる、私がやるから良いよと言ったけれど固辞されてしまった。

リッカちゃんは三人分の紅茶をテーブルの上に出して、自分も椅子に座る。


 バニルミルトさんは初めて見るリッカちゃんも私と同じように目が赤くて驚いていたが、私に魔王が宿っている事、その魔王の力により自身の特性を他人にも与える事ができる事、リッカちゃんは既に生まれついての病気により死んでいる事、を教えると、首を傾げながらも納得してくれた。


「つまり、ルーティ・エスタ・アリエスは既に死亡し、トートさん、貴女の能力でアンデッドとして復活している、という認識で宜しいでしょうか」


「ん、たぶん。でも、こんなにおきてこないのは、なぞ」


「危険は無いのですか?」


「んー……」


『無いぞ、これは間違いない、お前の力を与えているわけじゃからな、普通のアンデッドとは大きく異なる』


「『絶対に危険は無い』と魔王様は仰っています」


「なるほど」


 リッカちゃんが魔王様(ヘルべティア)の秘書みたいになってる!


『だが、ここまで目覚めぬのは妾にも分からん、魔力は巡っておるし呼吸もしておるのだが、どうなっておるのか、もしかすると、消耗が激しかったから回復を優先しておるのかも知らん』


「回復を優先しているため目覚めない可能性がある、とも仰ってますね」


「そうですか、しかしアンデッドとして目覚めるとなると、こんな事件もありましたし騎士団員としての継続は難しいかも知れません」


「なんで、るーてぃ、ずっとがんばってたのに!」


 椅子の上に立ち上がって身を乗り出す、せっかく生きてるのに目覚めたら騎士団員じゃなくなっちゃうなんて酷いよ。

バニルミルトさんは小さく首を振ると一言だけ口にした。


「ですが、瞳は赤くなるのでしょう」


 彼自身もどうすれば良いか考えているようで、眉根を寄せて机をじっと見つめている。


「まほうは?」


 首を傾げながら聞くと、再び首を振られた。


「勘の鋭い者にまで効くようなものになるとルーティ本人にも負担がかかりますし、ただ色を変える程度の弱いものだと、ある程度の実力者なら大抵見切れてしまいます。騎士団員だけならまだしも冒険者にも気づかれてしまうと、不必要な疑いが発生する可能性があります、あまり良い手ではありません」


「そうか、うーん」


「それに、騎士団内でも良くない顔をする団員は現れるでしょうね、トートさんを見ていれば安全だと分かりますが、見た目はアンデッドですから」


 騎士団も大きいもんね、未だに私が知らない人なんて結構居るし、アンデッドの襲撃があった以上、赤い瞳なんて見かけたら身構えちゃうか。

どうしたら良いんだろ。

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