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63話 怒り

「るっ……るーてぃ!」


 路地を駆け抜けると、見た事の無いアンデッドから伸びたレイピアのような針がルーティを貫いている場面に遭遇した。

ルーティは全身の力が抜けたようにぐったりして動かず、地面には凄まじい量の血だまりが出来ている。あれは流石にまずいんじゃ……!


 とにかくあの針からルーティを助けるべく走り出すと、真横を何かが私より速いスピードで通り、驚いてたたらを踏んだ。


 何事かと振り向いて、私はさらに驚いた。

今まで一回も見た事がないヘルべティアの怒った顔、彼女の力か周囲に纏った風により黒く長い髪がふわりと浮かび上がり、まるで意思を持ったかのようにゆらゆらと揺れている。

片手を突き出して開いたままで、きっと何か魔法を使ったのだと分かった。


「キサマは許さん、妾の、いや、トートの友人に手を出しおって。浄化などせん、永遠に果てぬ悪夢を見るがいい」


 開いていた手をぐっと握り込むと、背後でさっきのアンデッドが崩れ落ちる音がしたので慌てて向き直る、ルーティがあの状態で落ちちゃうと傷が開いちゃう。


 上半身が白い鎧のような骨と下半身が骨の蛇のようなアンデッドは、どうやったのかヘルべティアの手によってバラバラに切断され復活する気配はない、ルーティは未だに胸の辺りに針が刺さったままだったが、ゆっくりと浮遊しながら地面に寝かされた。


「るーてぃ!」


 駆け寄り状態を確認する、未だに血は流れ続け地面を赤く染め続けていて、ルーティの顔は急速に血の気を失い白くなってゆく。


「これは、まずいな」


「はやく、かいふくまほう、かけて!」


 テレポートの要領で真隣にやってきたヘルべティアに、私は叫んだ、リッカちゃんは後ろの方から控えめに駆け寄ると、少し離れた場所から様子を見ている。


「……すまぬ、妾ができるのは小さな傷を癒す程度、ほぼ死人を復活させるような奇跡は使えんのだ」


「なんで!」


 怒りのままヘルべティアに掴みかかろうとした腕は、テレポートで後ろに下がられて空を切る。


「馬鹿者、お前の力で摑みかかられたら妾は死ぬぞ」


「っ」


「それより、まだギリギリだが息がある、早くキスをしろ」


「きす?」


 ハッと気付いた、リッカちゃんの時のように不死状態にすればまだ助かるのかもしれないんだ。

私はルーティの頭を抱き抱えて強引にキスをした、生暖かく気持ち悪い感触がして、私の全身を血で汚す。


「おいトート、この針を極めてゆっくり引き抜いてくれ、妾では力が足りん」


 ルーティをゆっくりと下ろすと、ヘルべティアが隣にしゃがみ込んで針の近くに両手を当てた。


「わ、わかった」


 ルーティを押さえつつ針を持ってゆっくり引っ張ると、ルーティはびくんと跳ねて口から更に血を吐き出す。


「ちょっと、だいじょうぶなの!?」


「良いからはよせい! 傷を塞ぐのだ、死者を蘇生させる奇跡は使えんでもそのくらいは出来る。もし今のキスで不死になるのならこれを抜いておかんと一体化するし、最悪この針の影響を受けて変質するぞ!」


「う、うん」


 針はルーティの心臓を貫いていたらしい、凄まじく気持ち悪い感触に堪えながら抜ききると、ヘルべティアの魔法により傷跡が残らないレベルで綺麗に修復されていた。


 だが、ルーティは目を開けない、息もせず、ただそこに横たわっている。


「だめだった……?」


「いや、成功したようだな、魔力はきちんと流れておる」


「トートちゃんのキス……」


 突然小さな呟きがリッカちゃんから漏れる、リッカちゃんはルーティを無表情で眺めていた、ちょっと怖い。


 と、そんな時、城の方で大きな破裂音がしたかと思ったら、黄色い膜が城の方向に作られた。球体状になっているのだろうか、見える限りだが城を囲んでいるように見える。


「結界だと、一体何が起きた」


 ヘルべティアが目を細めて口を開く、結界って、私が幽霊屋敷で閉じ込められたようなやつだろうか。


「トート、行くぞ、お前の力は必要になるかも知れん」


「いくぞ、って」


 お城に結界って大変な状況っぽいのは分かるけど、流石にこの状況でルーティを置いて行くわけにはいかないし、連れて行くわけにもいかない。

どうしよう、とルーティを見て悩んでいるとヘルべティアが首を傾げた。


「既に強力なアンデッドは残っておらん、リッカに見てもらっておけば良かろう?」


「え、わ、私? どうして見ず知らずの人を……」


 突然名前を出されて狼狽えるリッカちゃん。

確かに外のアンデッドは大体ヘルべティアの大魔法で倒してるみたいだし、強いアンデッドが居ないのなら連れて行くより安全だ。


 幸いここから私の住む家は近いので、リッカちゃんにはルーティと待っていてもらおうか。


「ごめん、りっかちゃん、おねがい!」


 パンっと両手を合わせて頭を下げると、リッカちゃんは口をへの字に曲げたまま両手の指の先をトントン当てる。


「トートちゃんが言うなら、いいよ」


 若干頬が赤いのは気のせいじゃないよね、なんだか利用しているようで気が引けるけど、あんまりもたもたしていられないし、リッカちゃんに任せよう。


 ルーティをお姫様抱っこで抱えて私の家にまで走り、血まみれだったので私のベッドの上に寝かせる。意識がないのに血まみれのままルーティのベッドの上に寝かせちゃったら血がついちゃうし可哀想だ。


「じゃあ、りっかちゃん、おねがいね」


「うん、トートちゃんも気をつけて」


 リッカちゃんに見送ってもらって、私たちは王城へ向かって駆け出した。



◇王城にて――――――



「テレポートジェム、一度行った事がある場所に一瞬で行けるんだ、便利だよね。まあ、あの一個で最後だったんだけどね」


 マリウスがカルネリウスに向かってゆっくりと歩きながら呟くように喋る。

周囲にはバニルミルト含む騎士団の人間が居たが、結界が邪魔をして近寄る事が出来ないだけでなく、結界の効果なのかうまく力が入らず、結界の破壊を試みる事も出来ない。


 突然現れたマリウスは騎士団が反応するよりも早くドーナツ状に結界を作り出し、自分とカルネリウスだけを結界の外側に置いた。


「しかしトリオラ、きみは随分若返ったね、だから私が必要なくなったのかな? ちょっと面白くないよね」


 カルネリウスの手前で立ち止まると、マリウスはその顔を眺めて怒りのこもったような、それをどうにか抑え込んでいるかのような無理な笑顔で王の名を呼ぶ。

トリオラと呼ばれた事に、カルネリウスは眉根を寄せて返した。


「トリオラは私の父だ、私はカルネリウス・フォーア・エレスベル、別人だ」


「へえ、面白い事を言うね、そうだね、確かそんな名前の王子が居たな。でもそんな事はどうでも良いんだよ、どうせみんな殺すからね。死ぬ前に聞いてくれよ、私の怒りをさ」


 両腕を大きく開いて、マリウスは仰々しく話し始めた。

この隙にどうにか出来ないかとバニルミルトは思案するが、力の入らない腕では剣を持つ事も叶わず、魔力が抜けて行く感覚もあり魔法も使えそうにない。


「くそっ!」


 彼はどうしようもない状況を見ているしか出来ないのかと腕を無理やり振り上げ、重力の勢いのみで結界に叩きつけた。


『今どうなっておる』


 その時バニルミルトの脳内に突然聞き覚えのある声が響く、声色はトートのものらしいとすぐに分かったが、どうにも様子の違うその喋り方に疑問が浮かぶ。


『あなたは誰ですか?』


 今脳内に響いている声は魔力を用いて指定の相手と通話を可能にする、いわゆるテレパシーだろう。だが本来それは高度な魔法であり、知る限りトートはそんなものを使えるはずがないと感じたバニルミルトは、声の主に問を返した。


『妾を誰何している暇があるのか? 簡単に伝えるならば妾はトートの友人だ。お前とは面識がないが、お前の実力を知っておる故、今尋ねておる。結界の内側、外に居るのはマリウスと王で間違いないか?』


 トートの友人と聞いてバニルミルトは警戒を緩めた、今結界の中で全ての力を失っている彼を欺く必要は全く無いからだ。


『ええ、その二人で間違いないです』


『では結界を破壊した直後、そこにトートを飛ばす。恐らくトートはそのままマリウスと戦闘になるであろう、王はお前がなんとかできるか?』


『それが、結界の効果で力が入らず魔法も使えないのです』


『それはまやかしだ、現にお前は今妾のテレパシーを受けて居られるじゃろう? 本当に魔法が使えぬのなら、このテレパシーも無効に終わっていた。魔法を詠唱してみよ、何ら問題なく使えるはずだ』


『……なるほど』


『では、二度合図をしたら結界を破壊する、詠唱が必要なら一度目の合図で詠唱を開始せよ』


『分かりました、お願いします』

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