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60話 アリエスへ

 私とリッカちゃんは、アリエスへ走りながらヘルべティアの言葉に耳を傾ける。

リッカちゃんはヘルべティアの声は聞こえているけど、姿までは見えていないらしい。


「トートちゃんと同じ声だけど、これは不思議な感覚だね」


 なんて言って笑っていた。


 さて、ヘルべティアが言うには、元々昔はヘルべティア自身の力の一つとして『自らの能力を与える』能力を持っていたらしい。

トリガーはキスで、あの日私がキスしたことにより、リッカちゃんに私の能力と言っていいのか、『不死属性』と『体内能力超強化』が備わり、病気が気にならなくなった(・・・・・・・・・)のだ。


 そう、ヘルべティアがリッカちゃんを見たときに呟いた『やはり死んだか』は、病気が今まで通り進行していて、身体が限界を迎えた事に対しての呟きだったわけだね。

それで、リッカちゃんは私と同じ不死属性を持っていたから、そのままアンデッドとして生きていられたみたいだ、まあ、生きているって言っていいのか微妙な所だけど……。


 昔、私に話しかけた日は私が精神的に大きく動揺していて、他の日よりチャンネルを合わせやすかったらしく、それで姿だけでなく声も聞こえたみたいだね。


『あとトート、お前も気になっておるであろう、一つ付け加えておくが、妾のキスに心酔させるような効果は無い、そのせいで妾もこの能力を使う事は無かったのだからな。見知った仲だとしても、制御の出来ぬ他者に自らの能力を与えるなど魔族では考えられん』


 と、いつぞやのようにホバーしながらヘルべティアが教えてくれた。

もしかするとあの時のキスでリッカちゃんの人生を狂わせてしまったのでは、なんてうっすら思っていたけど、それなら安心だね。

でもヘルべティアにそう言われて、リッカちゃんが現れた時に告白された事を思い出した。

ジャイアントと戦っててすっかり忘れていたけれど、思い出すと顔がだんだん熱くなってくる。


『そもそも、妾の能力がトートのやつも使えるのか定かでは無かった故、結果的には運であったがな。そう言う事があって、リッカ、お前は今生きておるのだ』


 ヘルべティアが話し終えると突然リッカちゃんがブレーキしたので、私も立ち止まって様子を見ていると、私の前でぺこりとお辞儀した。


「本当に、ありがとうございます」


『よい、気にするな、結果的には運だと言ったであろう。感謝をするのであれば、トートと自らの運に感謝をするんじゃな』


「トートちゃん、ありがとー!」


「わぷっ」


 久しぶりのボディーアタックを正面から受け、顔面がリッカちゃんの胸の辺りに埋まる。また背が伸びたね、私は少ししか伸びてないのに。


むぎゅー。


 でも今はまずい、告白が嬉しいのか自分でも分からないまま抱き返してしまいそうだ、ちゃんとした返事も考えていないのに、どうしよう。


 軽く押し返すと、リッカちゃんは私に熱のこもった視線を向けている。

ちゃんと告白の返事をした方が良いのかな、でもなんて言えば良いんだろ。確かにリッカちゃんは好きだけど、恋人にしたいとかの好きでは無いし、友達としてーって元々友達だし……。


『止まっていてどうする、王都に向かうのではないのか?』


「そ、そうだね、いそごう」


 私が考えていると、ヘルべティアが助け舟……じゃない、疑問を投げかけたので、私は振り向いてまた走り出した。

どっちにしても、そう遠くないうちに何らかの答えを出す必要がありそう、どうしたら良いんだろ。



 馬車で三日かかった道も、途中ちょこちょこ短い休憩を挟んだけれど一日で走り抜く事が出来た、リッカちゃんもだいぶ速いね。

 もうこの丘を抜ければ王都だと小高い丘を登りきった所で、遠くに見える王都を見て、私たちは言葉を失った。


「な、なにあれ」


「うわあ、あれ全部アンデッドなの、街は大丈夫?」


 まるで虫の死体に群がるアリのようにアンデッドが群がっている状態の街を眺めて呟く、所々煙も上がっているようだし、かなり危険な状態なのではなかろうか。


『トート、突然になってすまんが、身体を貸してくれぬか。この数なら妾がやった方が早かろう』


「む、できるの?」


『分からぬ。理論的には出来るはずだが、なにぶん急であるからな、結果が悪くとも変われぬだけのはずじゃ』


「わたし、いしき、きえたりしない?」


『それは妾が調整しよう、妾と同じポジションになるだけじゃな』


 うーん、ちょっと怖いけど、ヘルべティアには前からずっと助けられてるし、ここで渋るのは違うよなあと思う。

ヘルべティアの声だけ聞こえているリッカちゃんは、私が入れ替わると聞いてあっちを見たりこっちを見たりと落ち着きがなくなっている。


「わかった、いいよ」


 そう言ってから、ぎゅっと目をつぶって入れ替わりを待つ、が、一向に変わる様子は無い。


『待て待て、その首飾りにしている魔石に手を触れて欲しいのだ。実はこれには毎日ごく僅かにだが妾も魔力を注いでおってな、精神の入れ替わりもこれを見て思いついたのじゃ』


「そっか、わかった、これでいいの?」


 首飾りを握りしめてヘルべティアに尋ねると、ヘルべティアは『うむ』と大仰に頷いた。


『魔力を調整するから、少しそのままでおれ』


「ん」


「わっ、トートちゃん、光ってるよ」


 リッカちゃんがそう言うから私も下を見ると、確かに全身が発光している、これが魔力の調整なのだろうか。


 しばらく光が強くなったり弱くなったりしていたけれど、だんだんより光が強くなっていったと思ったら、突然体から何かが抜け落ちた感覚があった。


「と、トートちゃんが、二人……?」


 目の前ではリッカちゃんが目を丸くして私を見ている、正確には、私の後ろ?

振り向くと、いつものドレスワンピースや金の瞳は間違いなく彼女のものであったが、確かに私が立っていた。

いつも見ている幻ではなく、しっかりと質量を感じる存在として。


「ど、どういうこと」


「予想以上にその魔石の効果が強かったようだの、まあ妾もお前の身体を使わなくて良かった、結果オーライじゃな」


 私たちの前で偉そうに腕を組んで、どん、とふんぞり返るヘルべティア、私がやっても似合わないだろうそのポーズは、見た目が同じなくせに彼女がやると妙に様になってカッコよくてずるい。


「え、っと、ヘルべティアさんって、トートちゃんだったの?」


 リッカちゃんは混乱しているようで、私とヘルべティアを交互に見ながら自分でもよく分かっていないだろう発言をする。


「そんな訳が無かろう、移動前にも軽く説明したが、妾は第十二代魔王ヘルべティアじゃ」


「ですよね」


 リッカちゃんは胸に両手を当てて深呼吸をすると、ようやく落ち着きを取り戻したのか、敬語で返して頷いた。

リッカちゃんとヘルべティアはちょっと距離感があるかな、初対面だし仕方ない気もするけど。


『トート、リッカ、まずは超広範囲魔法で外の奴らを消し飛ばす。だが街の中は人が多い、なので基本的に中はお前らに任せる、もちろん妾も付いて行くがな』


「ん、おっけー」


 ヘルべティアはもの凄い速度で人差し指を動かすと、指先の軌跡が赤い光を放ち文字になる。

ぶわっと膨大な量の文字を刹那のうちに書き切ると、周囲に魔力の煌めきが舞い、足元には巨大な魔法陣が出現した。


『盟友、雷帝よ、遥か彼方より我が願いを叶えよ』


 一言詠唱し、空いた空間に数式のようなものを書き記す。


『その槍、雷光となりて、我等が敵を討ち滅ぼさん』


 更にまた一つ、今度はついさっき書いた文字の隣に、これまた長い文字。

すると、だんだん上空を黒い雷雲が覆い始め、僅かながらに肌寒くなり、地面の魔法陣は時計回りに一度回転すると、今まであった魔法陣の外側にもう一段魔法陣が追加された。


『盟友、水帝よ、遥か彼方より我が願いを叶えよ』


 既に王都の辺りでは雷がゴロゴロ鳴り始め、魔法の完成を待っているようにも見える。

これ、範囲は大丈夫なのだろうか、ヘルべティアは魔法のエキスパートらしいし疑う訳じゃ無いんだけど、王都までしっかり黒い雲覆われてるんだけど。


『その盾、慈愛の雨となりて、その全てを洗い流さん』


 魔法陣が光り出して魔力の煌めきがヘルべティアに集まる、全身をキラキラ輝かせながら不敵に笑うヘルべティアはとても神秘的だった。


『《テオロギア・トニトルス!》』


 詠唱が終わるのとほぼ同時に轟音が鳴り響き、アンデッドの一群が巨大な落雷の直撃を受けて消し飛び、現場では何が起きたのか気付いていないだろううちに、次の落雷がまたアンデッドを消し飛ばした。


「さあ行くぞ、今雷が落ちている辺りは危険じゃ、今回は壁を飛び越えて入るとしよう」


「ん、わかった」


 視線の先では、大雨が落雷でダメージを受けた地形を洗い流し、その場でまるで早送りのように雑草が再び生える様が見えていた。

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