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53話 術者。

 木製の床は相変わらず、歩くといつ抜けるかヒヤヒヤする様な軋み音を立てて私を怖がらせる。

廊下は一本の道で先が見えず、周辺にはドアも無いのでまっすぐ進むしか無いんだけど、一体こんな隠し通路何のために作ったんだろ。


 うー、喉がイガイガしてくる気がする。服で鼻を隠してはいるけど、普通にカビの臭いが鼻につくし全然意味がない。


「ねえ、じゅつしゃって、このおくに、ひとがいるの?」


 歩きながら後ろにいるヴィルジリオさんに尋ねると、頷いた気配がする。


「そうだ、だがおそらく人では無いな、このアンデッド達のボスとなるアンデッドが潜んでいるのだろう」


「わかるの?」


「と、言うよりは、思考能力の高い相手では無い、と言うべきか。本来結界に入れば術者に伝わるはずだが、明確に我々を狙ってくるアンデッドは少なかった、アンデッドに指示を出している人物が居る訳では無い。となれば、結界を張る事の出来る高位のモンスターが存在する、と考えるのが妥当なのだ」


「なるほど」


「結界を張る仕掛けのみが存在する可能性も無い事はないが、その場合は何らかのガーディアンが存在すると考えられるので、戦闘は避けられないだろうな」


 ガーディアンと聞いて思わずゴーレムを思い出したけど、流石にここには居ないよね。

それより、ここにたどり着くまでに生きてる人と出会わなかったな、私たちより先に冒険者が一組来てるはずなんだけど。


「ぼうけんしゃ、であわなかったね」


「む、そうだな」


 ヴィルジリオさんは答え、しかし、と続ける。


「入ったのはDランクの冒険者らしいからな、後から入ったが出会う事はなかったし、生きている可能性も低いぞ。どちらにせよ、この広い結界内を探し回るのは得策では無い、まずは結界の破壊を優先すべきだ」


「わかった」


 それにしても、まっすぐ進むにつれてだんだん空気が重くなっている気がする、蝋燭の火は変わらず等間隔に並んでいるのについさっきより薄暗く、蝋燭の作り出す熱気なのか妙な生暖かさが嫌に肌に張り付き、不快感を募らせる。


「そろそろ警戒しておけよ」


「ん」


 さらに少し進むと、ピリピリとした殺意と、見られているような気配を感じ、私は即座に対応できるよう重心を落とした。


 直後、ふわりと私の目の前に青い人魂が浮かび上がる。驚いたけど、私に向かってくる事も逃げる事もなく、ただその場に留まっていた。


よく見ると私の目の前の人魂だけでなく、そこから先にもポツポツと人魂が存在している。


「戻れ、そこから離れろ!」


 後ろからヴィルジリオさんが叫んだ、咄嗟にバックステップからバク転をして距離を離すと、つい先ほど私の目の前に現れた人魂が轟音を響かせて爆発した。


「わっ!」


 爆発は凄まじいものだったが、床も壁も無傷で、爆発に巻き込まれた形跡がない。

ビリビリと地面が揺れる程の振動もあったが、壁や床はわずかに傷つく事も無く、何事もなかったかのようにその場に存在している。


「ルインスペクターか!」


 さっきの爆風で見えた影に反応して、ヴィルジリオさんは敵の名を叫んだ。

ゴーストが白いフード付きローブだったのに対して、ルインスペクターは漆黒のフード付きローブに身を包んだモンスターだった、ゴーストと同じように宙に浮いていて、顔や手など見える部位は全て骸骨である。


「トート、気をつけろ、やつはAランクモンスターで魔法を使う! 青い炎は近くに寄ると爆発するぞ!」


「ん、おっけー!」


 道具袋に手を突っ込んで、取り出したのはビー玉サイズの鉄の玉、備えあれば憂いなしってね。


『む、おい』


 鉄の玉を左の手のひらに乗せて、照準を合わせると右手で弾いて飛ばす、使う機会は無かったけど練習だけはしていたんだ、手のひらに乗せてから撃ち出すまでに一秒掛かっていないだろう。


 だが私の撃ち出した玉は、まるで幻影に向かって放ってしまったかのようにルインスペクターをすり抜けて、はるか彼方へ飛んで行った。


『スペクターは上級モンスターじゃ、ゴーストとは違い物理は全く効かぬぞ。お前の場合は遠距離攻撃ではなく、魔法を弾けるほどの魔力が籠った、いつもの近距離攻撃でないとダメージは出せぬ』


 うへぇ、あの人魂を避けて近付かないといけないのか、どうしよう、なんて考えていると、ヴィルジリオさんが歩いて横に並んだ。


「魔法剣で一気にカタをつける、援護しろ」


「え、でも、ぶつりきかない」


「青い炎を撃て、あれは本来生物にのみ反応するが、直接刺激を与えればその場で爆発する」


「わかった」


 即座に鉄の玉を取り出して進路上にある人魂を撃ち抜く、まだ十五メートル以上離れた人魂は鉄の玉が通過すると爆発し、消滅した。


「良い腕だ、次戦う時は遠距離でも気を払う必要があるか」


 言いながらヴィルジリオさんは背中の鞘から魔法剣を引き抜き、眼前に構える。

……次いつ戦うのよ、来年の開国祭にでも来るの?


「行くぞ、もし奴が怪しい動きをしたらその玉で撃て、少しでも奴の気を引く事が出来れば十分だ」


「ん」


 ヴィルジリオさんは片手で魔法剣を一度振って切っ先を地面に向けると、ルインスペクターに向かって走り出した、巨体に見合わず速くて、すぐにでも敵の目の前に辿り着くだろう。


 それに反応したのか、ルインスペクターは頭蓋骨の顎を開けたり閉じたりしてカタカタ鳴らし始めたので、私はすぐに鉄の玉を放つ。

しかし、鉄の玉が通過しても全く反応せず、変わらずに顎を動かしている。


「ごめん、はんのう、しない!」


「想定済みだ、気にするな! 《魔法剣》よ!」


 叫ぶと、剣が呼応するかのように淡く緑色に発光し、ヴィルジリオさんは剣を肩に担ぐように持ち上げ、飛び上がって上空に浮遊しているルインスペクターに斬りかかるべく床を踏み抜いて声を張り上げた。


「喰らえ、我が魔法剣を、おお、おおおぉっ!?」


 文字通り踏み抜かれた床はその衝撃が起点となったのか、バリバリ凄まじい音を立てながらどんどん穴が広がっていき、ヴィルジリオさんは床に飲み込まれていった。


「え、えぇ……」


 状況が全く理解できずに一瞬思考が停止してしまった、ルインスペクターも目標が予想外の消失をしたからか、カタカタ動かしていた顎が止まる。


 音を拾うと、ヴィルジリオさんは落ちた先でモンスターに囲まれているようだ、音だけだから詳しい状況は想像するしかないが、そんなに困ってもいないようなので、きっと今までと同レベルのモンスターばかりなのだろう。


 ルインスペクターはしばらく床の穴を見て固まっていたが、やがて今更私に気付いたかのように、ぐりん、と頭を回して顔を向けた。


「とつげきして、いいのかな」


『うむ、今までと変わらん、走って殴れば終わる程度の相手じゃ。やつの二の舞にならぬよう、床にだけは気をつけよ』


「ああ……うん」


 床を蹴りつけて走り出すと、再び周囲にふわりと青い人魂が浮かび上がり、私は思わず立ち止まった。


『何をしておる、ああ、爆発が気になるか?』


「ん、ちかづくと、ばくはつするし」


『魔力量だけで見るなら、以前闘技場で()ったバニルミルトとか言う小僧の方が凄かったぞ』


「え、じゃああれ、のーだめーじ?」


『大方、視界が悪くなるだけじゃろうな』


「なんだぁ」


 私が立ち止まっている間にルインスペクターの詠唱(あごカタカタ)が終わり、足元にひやりとした感覚が現れたが、私は気にせず前に向かって走り出す。


 私を追うように尖った氷柱が何度も突き出してくる、当たっても私自身は突き刺さることはなさそうだけど、ブーツはそうもいかないのでできるなら避けたい。


それと、人魂の爆発は思ったより精度が悪いらしい、私が駆け抜けた後ちょっとしてから爆発するので、私が爆発に耐えるも耐えないも関係なかったようだ。


 氷柱の追跡が終了した直後、トン、トンと壁に飛び移りヴィルジリオさんの開けた穴を避けると、ルインスペクターに向かってパンチを繰り出した。

薄い布を殴ったような手応えのない感覚の中、ルインスペクターが断末魔のような金切り声をあげる。


『丁度いい、トート、魔石をやつに当てろ、魔力を根こそぎ貰うぞ』


「おっけー」


 服の下に隠していた魔石を引っ張り出して、手早く首から外して消滅しかけているルインスペクターに当ててみると、魔石に吸い込まれるように消えていった。

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