表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/81

51話 幽霊屋敷。

 一泊宿で幽霊屋敷の詳しい場所を確認してから向かうと、そこは雑木林の中に潜む巨大な洋館だった。

木々が日光を遮っているのでまだお昼頃だと言うのに薄暗く、更に常に春のような気持ちの良い陽気の国の中だとは思えないほど周囲は肌寒く、おまけに周囲に霧まで発生している。


「もりの、ようかん……」


 放棄して良いサイズじゃないでしょ勿体ない、前世の頃写真とかで見た、使用人を十数人雇うような、とても広い洋館を思い出すような建物だ。

ただ、もう立派だったであろう頃の面影は全く存在しない、窓は大半が割れ、中は暗くてどうにも見えず、中央の扉は不気味にもうっすらと開いていた。


これは幽霊屋敷と呼ばれるのもよく分かる、普通の人なら間違いなく入ろうとしないだろう。


 帰りたい、もう帰りたい、ヴィルジリオさんも最初に失踪した冒険者も無かった事にして帰っちゃって良いんじゃ無いかな。


っていうか最初に入った冒険者、いくらタダだってこんな所入る? 信じらんないんだけど!


 さっきからずっと首筋がチリチリと焼けるような嫌な感覚が続いているし、冷や汗も首筋を伝って流れているのが恐怖で敏感になった感覚を通して認識できる。


「はあ……」


 怖さを紛らわすために大きくため息をつく、絶対に入りたくないけど、入らないとヴィルジリオさんの痕跡を探す事ができないし。


(サッと入ってガッと探してバッと帰る、よし!)


 意気込みだけは十分だけど、私はおそるおそるいつでも全力で逃げられるような体勢のまま、屋敷に近づいて扉を大きく開いた。


「だ、だれか、いませんかー」


 覗き込んで一言、人探しに来てるのに怖くて小声になってしまう。

ここから見えるのは玄関なのかな、シャンデリアがあって蝋燭に火が灯っている、奥には階段も見えるね、高さ的には二階建てなのかな。


 って、あれ、蝋燭に火がっておかしくない? ヴィルジリオさんが来たにしても、あんな几帳面にシャンデリアに蝋燭をつけて火を灯すだろうか、そもそも、いくらヴィルジリオさんの背が高いとは言っても、脚立なんかが無いとあの高さには手が届きそうにない。


 注意深く玄関を眺めていると、ふと外の音が何一つ聞こえていない事実に気がついてしまった、つい今まで木の葉が風で揺れる音がしっかり聞こえていたと思うんだけど……。


 ギギギ、と擬音がするような動きで振り返ると、周囲は暗闇に支配され、室内の灯りが届く足元だけがなんとかその存在を主張している。

サーっと血の気が引いて顔が青くなる、暗闇の方に向かうとどうなるか、なんて考えない、私は瞬間的に玄関に入り、しゃがんで頭を抱えた。


 ファンタジー世界ならありうる空間断絶を、私は完全に失念していた。

そんなものホラーの定番なのに、そもそもヴィルジリオさんが帰って来ない時点で想像するべきだったのに、あーもう、『ちょっと危険なモンスターでも出たのかな』なんて簡単に考えていた自分が憎い。


 こうなると、外観から内部の広さを想像するのはきっと無理だろう、空間が違うくらいだし、絶対と言って良いほど異常に広くなっているはずだ。


でも、この状況なら、ヴィルジリオさんはかなり高確率でまだ生きているだろう、六日経っているとは言っても、あくまで脱出の仕方が分からないだけで、まだこの屋敷を彷徨っているはずだ、Aランク冒険者があっさり殺されるとは思えない。


(当面は、ヴィルジリオさんとの合流を目指すべきだね……)


と、私の冒険者としての思考は働くものの、体はしゃがみ込んだまま動かず。


「よし、行こう」


 声に出して気合を入れ、結局動かず。


「……よし、行こう」


 変わらずしゃがみ込んだまま。


「…………よし」


 なんてやっていると、背後から大きく息を吐き出すような音と、実体の無いような不思議な気配が急に現れた。


「ぎゃー! でたぁー!!」


 叫んでとっさに走り出す私、何も考えずに、とにかく走りやすい真正面の廊下に向かって超高速で疾駆する。

足元の床は木造で、私の足が全力で床を蹴るたびにバリッと壊れるような音がした。


(なんで来たの私、なーんで来たの私!)


 半泣きで廊下を駆けるも、背後の気配は消える事なく、混乱した私の頭と廊下を破壊する音に紛れつつも、何故かハッキリと聞き取れそうな謎の言葉を、時々私に投げかける。


多分落ち着いていれば聞き取れたんだろうけど、恐怖でいっぱいいっぱいの頭は見事に言葉を拒絶し、理解を不可能にする。


 私はとにかく廊下を走り、直角の曲がり角に当たると速度を緩める事なく壁に飛びかかっては、壁蹴りの要領で数歩壁を破壊しながら走っては角を曲がり続けた。


 あくまで体感だけど、そこそこ長時間走ってだんだん落ち着いて来た頃、突然廊下の先からぬっと大男が現れたので、私は走ったままの勢いで殴りかかるべく飛び上がって拳を構えると、大男は私を見て目を見開いた。


「ぬうっ!?」


「うあ、よけてよけて!」


 結局、飛びかかったままの威力を落とす事ができず、私は大男――ヴィルジリオさんに体当たりをして、ヴィルジリオさんは弾け飛んだ。

こんな所に居るんだもん、アンデッドだって思うでしょ。




「……そもそも、モンスターの巣窟で平常心を失うなど、殺してくれと懇願しているようなものだ」


「はい、ごめんなさい」


「もっとも、貴様なら平常心を失い走り回るだけで凶器となりうるから問題は無いだろうがな!」


「あの、はい、ごめんなさい」


 ヴィルジリオさんを弾き飛ばした後、近くの小部屋に入ってからボロボロのヴィルジリオさんに私の道具袋から取り出した回復薬(ポーション)を使って、包帯を巻いて応急手当てをし、傷が癒え始めるとヴィルジリオさんの説教が始まった。


 突っ込んでしまった私は、大人しく正座で平謝りしつつヴィルジリオさんの説教を聞いていた。

なぜかヴィルジリオさんの隣でヘルべティアも怒っている風に腰に手を当てて立っているんだけど。


「でだ、貴様は何故ここに来たのだ、私が調査依頼を受けた事ぐらい聞いただろう?」


「え? あれ、びるじりおさん、きげんきれたのに、かえってこないから、みにきたの」


「なんだと、私の体感ではまだ二日と経っていないぞ、いや、もしや」


 ヴィルジリオさんは何かに気づいたかのように、自らの懐から懐中時計を取り出して「なるほど」と呟いた。


「貴様も見てみろ、珍しいものが見れるぞ」


「ん?」


 難しい顔のまま懐中時計を差し出してきたので、それを受け取って目の前に持ってくると、時計の針がぐるぐると行ったり来たり、おかしな回り方をしている。


「うへえ、きもちわるっ」


 手を伸ばして時計を顔から離してから、すぐさまヴィルジリオさんに返した。


「時間の流れがずれているんだろうな、貴様もここに長い間いると私と同じように長期間失踪してしまうのではないか?」


「それは、こまるね」


「うむ、私も一度体勢を立て直したい、戻るぞ」


「え、もどれるの?」


「……おい、もしかして、戻る方法を用意せずに来たのでは無いだろうな」


「……あははー」


 私が笑って誤魔化すと、ヴィルジリオさんは大きくため息をついた。


「覚えておけ、二次被害を防ぐためにも、探しに出る場合は必ず退路の確保はしておくものだ。確かに今回の場合は転移や壊界の珠玉(ジェム)が必要となるため少し難しいが、退路が確保できない場合は無理に立ち入ろうとしない判断も重要だぞ」


「ん、わかった」


「しかし、であれば、正規の手段で脱出しなくてはならんな」


「せいきの、しゅだん?」


「うむ、この《結界》を破壊する。そのために結界の元となる術者、もしくは仕掛けを見つけなくてはならん」


「うへぇ」


 術者って、ここに人を閉じ込める意思を持ってる何者かが居ると言う事なのだろうか、うーん。


「それより、貴様はアンデッドが苦手なのか?」


 ヴィルジリオさんは私に鋭い視線を浴びせながら聞いた、さっき思いっきり逃げ回ってたしね、こくりと肯定する。


「あんでっど、はじめて」


「ふむ、確かにこの国ではアンデッドをほぼ見かけんな。しかし丁度良い、今のうちに慣れておくと良い、冒険者を続けるなら嫌でも出会うからな。この屋敷のアンデッドはせいぜいCランク程度、貴様なら傷一つつかんだろう」


「わかった」


 ヴィルジリオさんがドアをゆっくり開けて廊下を確認すると、ゆっくり廊下へ出て行って、一度大きく手招きをすると、私を呼んだ。


「ゆくぞ、慣れるためにも貴様が先頭になれ、私は後ろで指示を出す」


「ん、わかった」


 姿を現したままのヘルべティアに一度視線を向けて首を傾げてから、私はヴィルジリオさんを追って部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ