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49話 ポンコツゴーレム。

『《栄光の》サングエス、かつて魔法を極めた人物が建国したとされる魔法国家じゃな、国民の大半が当たり前のように上級魔法を使い、その二つ名の通りサングエスは栄華を極めたのだろうと言われておる』


「へぇ」


 ローマ帝国みたいな感じなのかな、過去形だし、きっと滅んでるんだよね。


『が、一夜にして滅んだ。原因は妾が存命だった頃でも判明しておらなんだが、今なお分かっておらんじゃろうな、妾が知る限り三百年以上続く、永遠の謎だ』


 わー、アトランティスだったかー。


「くにのあと、そんざいしないの?」


『あるぞ、あるが、立ち入れん』


 頭の上にクエスチョンマークがぽこんと浮かぶ、どういう事だろう。

そんな私を見て、ヘルベティアは続けた。


『つい先日ゴーレムと戦っただろう、あれはな、ポンコツじゃ。サングエスにはあれ以上のゴーレムが当たり前のように闊歩(かっぽ)して居ってな、外から来る生物を排除するのだ。未だかつてサングエスの都市まで辿り着き、無事に戻った者は居らん』


「あれでぽんこつ?」


 信じられないくらい硬かったし、まともに攻撃受けたら弾き飛ばされるしで相当強かったと思うんだけど、そうか、あれでポンコツなのか……。


『うむ、いくら体を穿ったとは言え、本来ならあの攻撃一発で動かなくなるような代物では無い、恐らくもう既にどこか破損していたのであろう』


「うへぇ」


 ……と、これがしばらく前にルーティと食事をした後に聞いた『サングエス』について、だ。

サングエス自体はエレスベルから離れているから、今の所は私が足を踏み入れる可能性は無いらしいけど、できれば今後も近寄りたく無い所だね。



 それはさておき、私は冒険者ギルドで久しぶりにヴィルジリオさんを見かけた。

闘技大会以来だから、二年ぶりかな?

私を覚えてるかなと思ったけど、私は印象的だったから覚えていたらしいね、どすどす歩いてきて、


「トートか、久しいな」


 と、挨拶された。

前見た時と変わらず背中に《魔法剣》を付けて、旅用の道具袋だろうか、左手にボンサックの口紐を引っ掛けて背中に垂らしている。

やっぱり近くで見ると凄くでかいね、ぐっと上を向かないとヴィルジリオさんの顔が見えない。


「ん、ひさしぶり」


「冒険者になったと聞いたが、もう慣れたのか?」


「うん、だいぶ。まだ、らんく、ひくいけどね」


「ふん、貴様の年齢でCランクなど他に存在しないだろう、誇れ。だが、あの強さでCランクとは引っかかるな、あまり依頼を受けていないなんて事はあるまい?」


「あ、えっと、ばにるみるとさんに、せいげん、かけられてて」


 私が色々覚えられるように、モンスターの討伐だとランクアップのポイント貰えないんだよ、と伝えると、なるほどと頷かれる。


「確かに出来る事は多い方が良いな、腐らずに励め」


「ん」


 なんかこう、親戚のおっちゃんって感じだ、上から目線な感じでちょっと苦手。

結局そのままどすどす歩いて行っちゃったから、エレスベルに何をしに来たのか聞けなかった。


まあ、依頼色々受けているうちに戻って来ただけなんだろうけど。

魔法剣を見てみたいからパーティ組んでみたいとは思うけど、依頼の間あの上から目線を受けると思うとちょっとなあ……。


「トートさんトートさん」


 ヴィルジリオさんの後ろ姿を眺めていると、受付のお姉さんに手招きされたので、なんだろうとカウンターに向かうと、一枚の依頼票を取り出して私に見せた。


「トートさん、幽霊(ゴースト)行けましたっけ」


「むり」


 いつぞやの時のように即答である。

依頼票には『幽霊屋敷の調査(Bランク)』と書いてあった、そう、私もヘルべティアに文字を読んでもらっているうちに少しなら読めるようになったんだよ、やっぱり実践って大事だよね。


「あー残念、やっとトートさんが探しているタイプのBランク依頼が来たので、丁度いいと思ったんですけどね」


 この辺りだと、険しい地形や危険な場所がたくさんあるわけでも無いので、Bランク以上の採取系や探索依頼があんまり見つからない。

討伐依頼だと、複数のはぐれワーウルフの討伐で既にBランクだからちょこちょこ見るんだけど。


 で、私は幽霊の類は苦手だ、初めてヘルべティアの影を見た時もそうだったけど、物理でどうにかならないような相手には凄まじい恐怖を覚えるのだ。

なんだかんだで鬱蒼と茂る暗い森や、何にも無い夜の草原なんかに一人で居る事も多いけど、そういう時は大丈夫なんだよね、いざ《見ちゃう》とダメなんだと思う。


「おしえてくれて、ありがと。でも、ごーすとは、むり」


「無理なら仕方ないですね、でもトートさんにもダメな依頼あったんですね」


「うん、とくいなの、ぶつりだけだから」


 多分百パーセントダメって事は無いのだろうけれど、基本的にはやめて欲しいよね、ゴースト系は魔法で対処するのが基本みたいだし、今の所私は戦った事がない。


「ではまた今度ですね、またタイミングが合えば教えますよ」


「ん、おっけー」


「それでは、今日は依頼どうします?」


「どうしよ、ちょっとみてくる」


「はい」


 トコトコ歩いてボードの前まで向かい、貼ってある依頼票を眺めるが、今日はあんまり依頼がない。


「うーん、きょうは、やめかな」


 ボードの前から、またカウンターに戻ってお姉さんに伝えると、お姉さんは肩をすくめてから笑顔を見せた。


「そうですか、ではまた、次回のお越しをお待ちしておりますね」


「ん、またね」


 カウンターから離れて今度はテーブル席を眺めてみるも、いつも情報交換をしている冒険者は見当たらず、居るのはほとんど交流のない人か、かなり低ランクの冒険者だけだった。


「んー、だれもいないや。きょうは、そういうひ、なのかな」


『うむ、稀にあるのう』


「るーてぃも、きょうはしごとだよね」


『じゃな、休みでは無かったと思うぞ』


 どうしよ、急に今日一日暇になっちゃったね、あ、そうだ。

ぴこーんと電球が頭の上に浮かぶような電撃的閃き、ヘルべティアに日頃の感謝を伝えるべきでは。


「べてぃー、なにかほしいの、ある?」


『なんじゃ藪から棒に』


 私が訊ねると、ヘルべティアは腕を組みつつ怪訝な顔をして聞き返した、突然すぎたかな。


『ふむ、しかし欲しいものか』


 でもきちんと考えてくれるようで、拳で口元を隠して小さくそう呟いた。

私はこのテーブル席の見える位置に立ち止まって居ると下手に目立ちそうだったので、歩いて冒険者ギルドを出る。


 ヘルべティアはしばらく考え込んでいたけど、最近はあまり見せなかったニヤニヤ笑いの悪い顔をすると、いきなり爆弾発言をした。

 

『うむ、ではそうじゃな、妾はお前の身体を所望しておる』


「わ、わたしの、からだ……?」


 ぼん、と顔が爆発した、何を言いだすんだこの魔王様は、今まで全然興味ないふりをして、実はこの人も《類は友を呼ぶ》に分類されてしまう人だったのか。


『待て、今凄まじい誤解が生じた気がするぞ、違うからな、身体の主導権の話じゃぞ』


 慌てて右の手のひらを私に向けて、止まれのポーズをするヘルべティア。


「あ、そ、そっちか、よかった」


 それを見て私は特大の汗を垂らしながら安堵のため息をついた、同一体であるだけに、違う意味だったらシャレにならない所だったね。


『まあ、要らん気を回すな、今の妾はそれくらいしか興味がない』


 そう、なんかごめんね、と声を出そうとした瞬間、さっきのような悪い顔ではなく、昔一度だけ見た邪悪な顔を一瞬だけ浮かべたので、私は思わず口をつぐむ。


『それに、それならばもうすぐ……いや、何でもない、気にするな、とにかく、妾に気を使う事はない』


「う、うん、わかった」


 背筋に冷たいものが走った。ヘルべティアの性格はこの二年でだいぶ分かったつもりでいたけれど、あの金色の瞳が鈍く輝く邪悪な笑みを見ると、私の知っている性格はあくまでも表面上だけなのかと考えさせられる。


 珍しく口を滑らせたのか不穏な言葉も聞こえたし、ヘルべティアは逃げるように姿を消してしまった。

こうなると、きっと呼んでも姿を現してはくれないだろうし、もしヘルべティアが本気で私の身体を乗っ取ろうとしているなら、きっと私はどうしようもないだろう。


「うそだといってよ、べてぃー……」


 いっそ別の意味で私の身体を所望してくれた方が良かったよ、なんて、しばらくその場にとどまった後、私は足取り重くとぼとぼと家に向かった。

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