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48話 ペンダント。

 レストラン街にたどり着くと、ルーティはようやく落ち着いたのか、小さく咳払いをして呟くように言った。


「……こほん、お見苦しい所をお見せしたのであります」


「ん、もうへいき?」


「はい、その、大丈夫であります」


 ラブコメなら、『平気?』なんて聞かずに『えー、私の事好きなのー?』とか堂々と聞いてるシーンだよね、多分。

でも、実際そう聞いて顔を赤らめられ(ほんきのはんのうされ)ちゃったら、その後どうすれば良いのよ……とか思っちゃうと、間違ってもそんな言葉を私から出す事は出来ない。


はあ、とルーティに気付かれないように小さくため息、リッカちゃんの時といい、ヘルべティアの時といい、強い感情が来るかもしれない可能性に対しては気弱なのよ私、ごめんねルーティ。



 西区の冒険者街から一般住宅街である南区寄りの方面へ向かうと、レストラン街と呼ばれる通りがあるが、流石にレストラン街と呼ばれるだけあって、ここにはさまざまな料理店が並んでいる。


アリエスでよく見る料理だけでなく、ぽつぽつと郷土料理のようなお店も見かけるから、エレスベルは国としてそこそこ大きいのかもしれない。

別の国の料理かもしれないけどね。


 冒険者街から近いのもあって、この辺りは結構冒険者も利用していて、人気のある料理店だと『今一杯なんで入れないんですよー』と追い返されてしまう事もある。


冒険者が多いからか基本的に並ばないんだよね、埋まっていると次の店探しに行っちゃうし。


「どこいく?」


 聞いてみると、ルーティも頬に指を当てて首を傾げた。


「そうでありますな、前回入ろうか悩んでいた所はどうでありましょう?」


「ん、おっけー」



 レストランでは二人用の席に座って、食事を終えた後に、私はルーティに記録の確認を取られる。


「えっと、ではトート殿が今月行ったのは、ケイネステラが二回と、ベルガーの横穴でありますね」


「ん、けいねすてらは、ひとりで、べるがーのよこあなは、れてぃたちと」


ルーティは確認が始まると、スイッチが入ったかのように真剣にメモを取り始めた。


 ちなみにケイネステラと言うのは町の名前で、ルビエラとは逆方向にある、そこそこ大きめの町だ。

雰囲気はルビエラに似ているかな、中世的な町並みで、背が低めの家が立ち並び、きれいに舗装された石畳の道が入り口から出口まで続いている、店も多くて住み心地は良さそうだったね。


 今月はそのケイネステラ方面での依頼を二回受けたので、ケイネステラの宿屋を利用する事になったのだ。


「ケイネステラの方では他の冒険者と何か情報交換等したのでありますか?」


「あってないよ、たいへんないらいじゃ、なかったし」


 お酒を飲めないから酒場に行く気も起きないしね、大変な依頼だったら酒場に赴いて情報交換するのも良いと思うけど、道具や薬草の入手とかだとヘルべティアに聞いた方が早い事もあって、あんまり他の冒険者と情報交換はしないかな。


 受けた依頼は『オークの牙の納品(Dランク)』と『ウムル山に原生している薬草ウムルの採取(Cランク)』、モンスター討伐でポイントを稼げないとなると、どうしても採取系が多くなっちゃうのが問題だよね。


一応、表記が《討伐》ではなくて《納品》だとポイントは入れてもらえる。倒したモンスターから素材を得る方法も知っておいた方が良いとのバニルミルトさんの有難いお言葉ゆえだ。


討伐でも依頼達成の証明としてそのモンスターの一部分が必要になるから、あんまり違いはないと思うんだけどね、やっぱり《どこが素材として使えるか》ってのが大事になるのかな。


どの部位が素材になるか知っていれば、討伐依頼を受けた後にそのまま素材を売れるし、その方がお互い嬉しいもんね。


「ふむ、ではケイネステラでは特に問題は発生しなかったのでありますね」


「うん、はなしたのも、やどやのひと、くらいかな」


「では次に、ベルガーの横穴の方でありますな、何かあったでありますか?」


「んー」


 私は目を閉じて思い出す、何かあったかなあ。


「でもるーてぃ、いまさらだけど、これひつようなの?」


 思い出している途中でふわりと浮かんできた疑問をつい口にする、ルーティが私の監視員だからと言うのは納得はしているんだけど、ギルドでの活動って騎士団の方には報告が行かないのかな。


 私の疑問に一度小首を傾げたルーティだったが、ちょっと考えて私の言いたい事を把握してくれたのか、頷いてから言う。


「そうでありますね、あくまで自分はですが、確認は必要だと思っているのであります。トート殿が冒険者ギルドで受けた依頼の大まかな情報はバニルミルト殿の方へ行くのでありますが、詳細については全く情報が入らないのであります」


「うん」


「そこで、自分が詳細を確認するのであります、ただ、トート殿は隠し事が苦手でありますから、このような場で尋ねるだけで充分なのであります」


「うへぇ」


 隠し事をする気は無いけれど、面と向かって隠し事は苦手だって言われると、少しだけ恥ずかしい、って、それ言っても良いのかな、信頼関係がしっかり出来てるから直接教えてくれているんだろうけどさ。


まあ、ヘルべティアにも『お前は思っている事がすぐ顔に出るな』とか言われているから、私も自分で認識してるんだけどね。


 でもそういう事ならちゃんと報告しないとね、ベルガーの横穴か、知らない冒険者に情報もらって、ゴーレムと戦ったくらいかな。


「ん、とね、ぼうけんしゃと、はなしたよ、ないようは――」



 とりあえずベルガーの横穴で起きた内容を一通り話したけど、そこで『サングエスのゴーレム』とヘルべティアが言ったのを思い出した。

あの時は勝手に地名かなと思ったけど、結局なんなんだか知らないんだよね。


「るーてぃ、さんぐえす、しってる?」


「サングエス、でありますか?」


 メモに文字を書く手を止め、首を傾げるルーティ。


「自分は聞いた事は無いのであります、なんでありましょうか」


「わからない? わたしも、わからない」


 そう伝えるとルーティは目を点にして、頭の上にクエスチョンマークをたくさん浮かべた。


 うーん、これも後でヘルべティアに聞いてみようかな、あのゴーレムを知っている風だったし、まあ間違いなくサングエスは何か聞けると思う。

でも、困ったらとりあえずヘルべティアに聞いてるね、ウィキべティアさんだね。


 近いうちに感謝の気持ちを伝えるべく物を送りたいけど、体は私のものだから、食べ物とかあげようにも渡す事ができないんだよね、どうしようかな。


「ん、ごめん、なんでもない」


 目を点にしたままのルーティに小さく首を振って否定する、すると、ルーティはメモにちらりと目を写してから訊いた。


「自分も調べておきましょうか?」


「あ、ううん、だいじょぶ。ちょっと、きになっただけ、だから」


「そうでありますか」


 あんまり納得はしてないけれど、私がなんでも無いと言っているので追求はしないみたいだね、でも、さりげなくメモにとても短い単語を書き記していた、あれは『サングエス』かな。

まあ、ちょっと気になったら調べるよね、多分大した事無いと思うんだけどな。


「それより」


 私がぼーっとルーティの手元を眺めていると、ルーティが声を出して顔を上げるが、さっきまでとはわずかに雰囲気が違い、彼女は柔らかく微笑んでいた。

こうなるとお仕事モードは終了だ、ルーティはとってもオンオフが分かり易い。


「その首飾りが、先ほどの話に出てきた《ゴーレムの目》でありますか」


「ん、そう」


「とっても似合っているであります」


 にっこりキラキラ、擬音を入れるならそんな感じだろう、思わず『う、ルーティかわいい……』って思っちゃうくらい良い笑顔をしている。


「あ、ありがと」


 なんだかちょっとだけ恥ずかしいので、目を見る事ができずに俯いて返事をする、思わずキュッと身を引き締めた自分に驚きだ。


「さて、この後はどうするのでありますか?」


「あ……えっと、どうぐやで、しょうもうひん、ほじゅうしないと」


「では行きましょう、少し長居しちゃったでありますからな」


「ん、そだね」


 ぽん、と椅子から飛び降りて出口へ向かう、料金は料理と交換だったので、もう後は出て行くだけだ。

歩いている時、わずかに下を向いた時にちらりと視界に入ったペンダントを見て頬が緩む。


 この世界で見た目を褒められた事ってほとんど無いから、似合っているって言われてすごく嬉しかったよね。

私もこのペンダントは気に入ってるし、かなりアバウトな制作依頼をしたのに、凄くきれいなペンダントを作ってくれた細工師に感謝だ。


 ペンダントトップの魔石をゆるく握って嬉しい気持ちを落ち着けると、私はルーティと再び冒険者街に戻った。

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