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47話 外食の日。

「そろそろ、不味いかもしれませんな」


 いつものように軽い足取りで薄暗いレブナント卿の執務室へ立ち入ったマリウスに、彼は突然一言だけ告げた。


「まずい、何がだい?」


 体を軽く横に曲げるほど首を傾げながらマリウスは問うが、その瞳は赤く煌々(こうこう)と輝き、ふざけた仕草からは考えられない視線の圧に、レブナント卿はわずかに萎縮する。


「この前来た二人組の冒険者、どうにも我が領が探られている気がしましてな……」


「ふむ、殺さないのかい?」


 レブナント卿は小さく首を振り、無意識ながらも手に力を込めながら言った。


「確証は得られて無いのですが、どうやら実力もさる事ながら、裏でそこそこ権力のある貴族とも繋がっているようでしてな、無闇に襲う訳にもいかんのですよ」


「そうかい、厄介だね」


 肩をすくめ、『厄介』となど全く思っていないような抑揚のない声を出したマリウスに、レブナント卿は眉をひそめた。


しかし、彼女は口元に拳を持っていくとゆっくりと部屋の中を歩き始め、他者には聞こえない声量でぶつぶつ呟き始める。

彼女が深く考える時に必ず行うその癖を見て、レブナント卿は若干の安堵を覚えるが、次に発した言葉は彼が望むものでは無かった。


「あと二ヶ月か、三ヶ月。それくらい頑張ってくれないかな、そうすれば全ての準備が整うんだ」


「な、長い……ですな」


 今まで彼女が特に指示もなく《頼む》事など一度も無かったので、レブナント卿は片腕を机に置いたまま、首筋に冷や汗を浮かべて呟く。


マリウスは、物思いにふけるように壁の蝋燭を眺めてから口を開いた。


「きみは、のらりくらりと躱すのは得意だろう? カードの大半は揃ったんだ、後は決定打となる一枚、あの忌々しい騎士団を無力化させる一手がもう少しで完成するんだよ、五年もかけた最高の切り札がね」


「……最善を尽くしましょうぞ」


(本来なら冒険者など恐れるものではない、不安は残るが、最悪追い返してしまえば時間は稼げる。……三ヶ月、今まで潜んできた時間に比べると、ごく僅かでしかない。マリウス殿がああ言うからには、これが本当に最後なのだろう、やるしか無いのだ)


 そう考えて、レブナント卿はしっかりと頷いた。



◇――――――



 今日はルーティと一緒に外食の日だ、初めから予定が決まっていると好きな服を着てオシャレ出来るから嬉しい。

今日の服は半袖の猫耳パーカーにスラックス、冒険者ギルド用にカーゴパンツを使ってたら、パンツルック結構気に入っちゃったんだよね。

それと、細工師に頼んで紫色の魔石を銀の枠に入れ込んだペンダント、完璧だ。


 一週間前、この世界だと十日ぐらいだね、レティたちとダンジョンから戻った次の日、ヘルべティアに魔石の使い方を聞いてみたんだけど、魔石の用途はあまりにも多岐に渡るらしく、『お前なら肌身離さず持っておるだけでよい』と投げやりに言い捨てられてしまった。


一応、そうする事で私の魔力を吸収して、身体能力を更に上昇させられるって教えてくれたから、私が使う場合はそれが一番なんだろうね、武器や防具にはめ込んで性能を上昇させるって方法もあるらしいけど、私は武器や防具使わないし。


 でも私、『外の魔力を持たない』んじゃなかったっけ、内の魔力は自分の中で作られる事もあんまりないって確か言ってたし、魔力、吸収されて大丈夫なのだろうか……。


いや、ヘルべティアに聞いても全然問題は無いみたいな返しをされるし、実際身体が軽くなってる印象はあるから平気なのかな。


「トート殿、お待たせしたのであります」


「ん、じゃあいこ」


 さて、なぜ外食の日を設けているのかと言うと、名目上は一ヶ月に一回の活動報告だね、私も依頼を受けて数日家にいないって事が多いし。


同じ家で過ごしているのだから、わざわざ外で確認しなくても良いんじゃ無いかなと思ったけど、『仕事と自分の時間はしっかり分けた方が良いのであります』とハッキリ言われてしまったので納得の活動報告時間だ。


 でも言うほど仕事って感じでも無くて、二人で適当に街をぶらぶらしてからご飯を食べて、適当な雑談を交えながら私が依頼を受けている間の話なんかをするんだよね。


毎回《外食の日》はルーティも気合い入れて可愛い服装してるし、昔から活動報告をしているわけではなくて、半年くらい前にルーティが突然言い出した事だから、正直言って『活動報告』としての役割はあんまり無い気もする。


もしかすると、新しく効率の良い方法を考えついたと言うだけなのかもしれないけど。



 街へ繰り出して適当に商店街を見て回る、特に何が欲しいってわけでも無いから、ウィンドウショッピングだね。

小物とか細工物とか、一ヶ月に一回見に来るぐらいのペースだと、新しい商品が並んでいる事が多いので結構楽しめる。


私は雑貨とか日用品とか見てるだけで満足しちゃうから滅多に買う事はないけど、つい買っちゃうタイプだったら、私の部屋ごちゃごちゃで凄い事になっちゃってたんだろうな。


 と、ふと視線を感じて横を見ると、手のひらサイズの狼なのか犬なのか、そもそも動物なのか疑問が生まれる《四足歩行の目が飛び出た大きく口を開ける犬っぽい何か》の細工が目に入った。


「トート殿、何か気になるものでも……」


 モチーフがあまりにも謎すぎて、謎作者は何を考えてこんなものを作ったのだろうとか考えながらじっと見つめていると、ルーティが近付いて来て私の視線の先を見て同じように固まった。


「なんだとおもう?」


「犬……でありますかね」


「おやルーティじゃないかい、そいつはバクバクだよ」


 二人して首を傾げていると、店番のおばちゃんが歩いて来て教えてくれた。

ルーティの知り合いなのかなと思ったけど、ルーティは騎士団に所属しているし、街の人たちなら知っている可能性は高いのかな。


「バクバクでありますか?」


「そ、モンスターみたいな見た目だろ? その見た目で厄を怯えさせて食べるから、バクバクって言うのさ」


 へぇ、となるとこのモチーフはそこそこ知られてるんだね、何処かの神様の使いみたいなポジションの生き物なのだろうか。


「ああでも、あたしが勝手にデザインして作ったやつだからね、ご利益は無いよ」


 無いのか……そりゃこんな目玉飛び出した謎の生物が神話に出て来るわけ無いか。

私が肩を落として、ルーティが苦笑していると、突然おばちゃんがルーティに尋ねる。


「それより、そんなきれいな格好して今日はデートかい?」


 その言葉に、ルーティは凄まじい速度で後ずさって顔を赤らめながら手を振った。


「そそ、そんな事はないのであります、ちょっと、その、お仕事の、そう、お仕事であります!」


 私もどちらかと言えば恋愛に関して鈍感だと思っているし、前世でも全然興味はなかったけれど、そう言う反応をされると私に気があるのではないかと疑ってしまう。


まあ、違ったら自意識過剰だよねって思っちゃうと、結局私からは何もしないと言う選択に落ち着いちゃうんだけどさ。


 しかし、もし私に対して恋愛感情を持っているのであれば、レティたちと言い、私の周りにはそう言う人が集まりやすいのかな、と思わざるを得ない。


 考えてみれば、前世と今の人生で合わせてもファーストキスはリッカちゃんだったから女の子だったんだよね、もしかして、私も《そう言う人》、類は友を呼ぶに分類されてしまうのだろうか。


うーん、リッカちゃんの事を思い出したら気になって来るね、彼女は今どうしているのだろう、出て行く時に嘘つきって怒られちゃったし、もう忘れられちゃってるかな……。


「えっと、その、邪魔したのであります!」


 そんな事を考えている先で、ルーティは狼狽えたままおばちゃんに敬礼をすると、左右の手と足を同士に出しながら店を出て行ってしまったので、私も慌てて追いかける。


 その後レストラン街に到着するまでルーティは落ち着かずに先をずんずん歩いていたので、私は苦笑しながら追いかける事になった。

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