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46話 拍子抜け。

「うーん、まさかこうなっているとは……」


 建物の中を覗いてレティが呟き、みんなも同じ気持ちだったようでうんうんと頷いた。


 外見は沢山の柱が並んでいる大きな神殿のような建物だったが、いざ扉を開けてみると、再び洞窟のような岩肌の壁と地面の小部屋が存在するのみだった。


部屋の中央には、月のような輝きを放つピンポン玉程度の球体が一つだけ空中に浮かんでいる、あれがダンジョンの『コア』なのかな。


 この世界のダンジョンにそんなものが存在するのかは分からないけれど、これがコアだとすると、さっきのゴーレムがこのダンジョンのボスだったんだね。


「これは小さいねぇー、やすそー」


「ほとんど労力無しで手に入ったんだから、文句言わないの」


 ダンジョンコアを眺めながら唇を尖らせるカナを短く咎めつつ、レティはコアを回収して道具袋に入れる。


「ん、やすいの?」


 聞いて見ると、苦笑いをしながらレティが手を小さく振った。


「残念ながらね、あと一層分くらいあればもうふた回りくらい大きかったんだろうけど、思っていたより浅かったわね」


「じゃあ、そのぶん、わたしはいらない」


「良いの? トートちゃんせっかく来たのに」


「わたし、これもらうから、おあいこ」


 そう言って道具袋からゴーレムの目――魔石を取り出すと、レティは「なるほど」と納得して頷く。


「よし、じゃあ帰る前に念のため隠し扉を探しましょう。フェリシーはあの冒険者たちを燃やして浄化を」


「わかった」


「トートちゃんはフェリシーの護衛に付いててくれる?」


「ん」


「カナは私とこの建物の外側を調べるわよ」


「えぇー、めんどくさーい」


 いつも通り面倒臭がるカナをチョップしてから連行するレティを見送り、私とフェリシーもゴーレムの辺りまで戻る。


 人は死んだまま放置されると蘇るらしい。

それは現世においてもう会えなくなった人と再び会える、なんて甘い話ではなく、モンスターとして心を支配され、生前の姿など思い出せなくなるほど全身に酷い損傷を持つ、《不死者(アンデッド)》として。


なので、火で浄化をしなくてはならない、そうした遺体はアンデッドに囚われる事なく、安らかに眠る事ができるのだそうだ。


 『火は神聖なもの』ってこの世界でも思われているんだよね、どこまで効果があるのか分からないけれど、もしアンデッドになったとしても骸骨(スケルトン)だろうし、直接『本人だ!』って分からなくなるだけでも大きな効果だろうね。


私自身、火の塊であるファイアーボールを掴んで問題なかったし、バニルミルトさんの光魔法っぽい技の方が強烈だったから火に対する神聖性はあんまり信じてない。

んまあ、私の場合はすでに魂入っているから、アンデッドとは呼べないのかも知れないけれど。


「じゃあ、もらうね」


 遺体の前で手を合わせて道具袋を取り上げると、使えそうなアイテムをピックアップして自分の道具袋に移す。

『死んだら道具袋を使えなくなるのだから、後から来た人が自由に使って良い』と、『道すがら力尽きた冒険者を見かけた時は弔う』は冒険者暗黙の了解だね。

冒険者をしていれば誰も彼も似たような経験はきっとあるだろうし、これで恨む事はないはずだ。


でも、大抵のパーティーには魔法使いが居るから問題ないのだろうけれど、私のような前衛タイプだけで冒険をしていた場合はどうすれば良いんだろうね、今まで考えた事無かったな。


「ん、ふぇりしー、おわったよ」


 道具袋からアイテムを貰いつつ、遺体を一箇所に集めてフェリシーを呼ぶ、故人の道具袋は道具屋さんも買い取りたがらないので、一緒に燃えてもらう事にした。

冒険者は特に縁起とか気にするからね、意志を継ぐとかそう言う目的が無ければ、基本的に故人の道具は扱わないのだそうだ。


「うん、ちょっと離れててね、《炎よ、来たれ!(フレイム・ペタル)》」


 ぶわっと凄まじい勢いで炎が吹き上がり、あっと言う間に遺体を焼き尽くす、火力が凄いね、あの調子だと骨すら残らなそうだ。



 こっちの作業が終わったのでレティたちの方に目を向けると、ちょうどあっちも確認が終了したらしく、手を振りながら二人が歩いてくる。


「隠し扉の類は無さそうね、コアが小さいから二つに分かれているものだと思っていたけど、やっぱり今回はこれだけみたい」


 レティは自分の道具袋から、今回手に入れたダンジョンコアを取り出して皆に見せると、フェリシーがにっこり良い笑顔で言った。


「ちょこっと冒険に出て貰える臨時収入としては、十分だよ」


「まあ、そうね」


「ごーれむのぱーつ、どうする、もってく?」


 バラバラにしたゴーレムを指差して尋ねると、レティは腕を組んでちょっとだけ考えた後、頷いた。


「少しだけ持っていきましょう、あの凄まじい防御力は魅力だわ」


「ん、おっけー」


 二本の腕を拾って抱える、関節部分で折りたたんでいるけど思ったよりかさばるね、丸太のような腕が二本、あんまり重くはないんだけど、これ以上抱え込むのは難しそうだし、持てる量としては限界って感じ。


「その二本持って帰れば良いかしらね、トートちゃん、それ持つの代わって欲しい時はすぐに言ってね」


「ん、おもくはないけど、たいせい、つかれるから、なんどかおねがいする、かも」


「もちろーん、トートちゃんだけに持たせるワケにはいかないしねぇー」


 カナはここぞとばかりに私の肩をぽんぽん叩いてから一歩前に出た、肩をぽんぽんした時、ほんとコンマ数秒だけフェリシー羨ましそうに目を見開いたのが見えたけど、私みたいなあんまり出るトコ出てない子を触っても嬉しいものなのかね。


まあ、それは置いておいて、カナが私より先に向かったのは帰る時も同じ陣形だからかな。

私は相変わらず最後尾だけど、一層のモンスターは弱いし、この腕は投げ捨てて壊れるようなものでもないし、歩く速度自体は変わらないだろうから問題はないはず。



 さて、行きと同じくあっさりダンジョンを抜け出て、草原を歩き、外で一日過ごして、やっとアリエスに帰ってこれたのはお昼頃。

モンスターの素材やらをギルドに売ってパーティ内で精算するより先に、荷物になっているこのゴーレムの腕を片付けてしまおうと言う事で、北区の工房までやって来た。


「で、コイツを加工できねえかってか?」


「そ、細かい要望は後で伝えようと思っているのだけど、モノがモノなだけにね、取り敢えず加工できるか聞いておこうと思って」


 もじゃもじゃのヒゲを蓄えたスキンヘッドで背が高く、ぱっと見プロレスラーみたいな工房長は、レティから話を聞くと、唸りながら手の甲でゴーレムの腕をノックするように叩いた。


「無理だな。聞いた限りだが、こんなモン加工できる技術はねえ、ウチだけじゃあねえ、ここら一帯そうだろうよ。いや、そもそもエレスベルで加工できるかすら怪しいぜこりゃ」


「えぇー? そんな珍しい技術なのー?」


当たり前(ったりめぇ)だろが、魔力を加工に使うなんて今の今まで聞いた事ねえぞ。そもそもなあ、俺ら工房の人間が、加工に使えるほど魔力も魔法の知識も持ってるかっつー話よ」


「あ、あはは……確かに」


「でも加工できないんじゃ困ったわね、この腕、どうしましょうか」


「先に言っとくがウチじゃ買い取れねえぞ。初めて見る金属だから色々試してみてえし、置いてく分にゃ構わねえがな」


「その場合、加工できるようなら優先的に回してもらえるのかしら?」


「ああもちろんだ、でも期待はすんなよ」

 

「そこは仕方ないわね、じゃあ進展があったら冒険者ギルドの方にお願いね」


「おう」


 工房長が短く返事を返し、話がまとまったので私たちは西区の冒険者ギルドに戻る。


ギルドの売却カウンターにモンスターの素材とダンジョンコアを渡してお金を受け取ると、テーブルの方まで移動してちょっとした軽食と飲み物を頼んでから精算作業だ。


「今回は特に道具を使う事もなかったし、モンスターの素材分は均等に配分すれば良いわね?」


「ん」


 数枚の銀貨と銅貨がじゃらじゃら、まあ敵弱かったしこんなもんだよね。


「で、ダンジョンコアの分はトートちゃんは抜きね」


「ん」


 金貨がじゃらじゃら、え、ダンジョンコア高くない?


「あのおおきさでも、それなりに、たかいんだね」


「そりゃー、一つのダンジョンから大抵一つしか取れないからねぇ」


「なるほど」


 カナの言葉に納得、基本的には狙って取れるようなものじゃないだろうしね。


 その後は特にする事も無いので、食事を終えたら解散だ。

魔石の使い方は後でゆっくりヘルべティアに聞いてみようかな。

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