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44話 ゴーレム

 洞窟内部は大人が十人くらい手を横に伸ばしたまま横並びで歩けそうなくらいには広いね、槍を振るのも問題はなさそうだ。

しばらく進んで外の明かりが無くなった頃に周囲を見回すと、誰もランタンのような光源を持っていないのに、なんとなく判別できる程度に明かりが灯っている。


『ダンジョン探索では《星屑石》って呼ばれる石を道に撒いて行くんだよ』


なんて道具屋さんでフェリシーに教えられて、こんもりと積んであったゼリービーンズをふた回りくらい大きくしたような、石とは思えない軽さの星屑石をざらざら買ってきたものだけど、暗闇でうすぼんやりと光って皆を照らしているのを見ると、なるほど、と思う。


 冒険者によって道のど真ん中にザラザラ撒いて行く人と、通路の端っこにぽつぽつ置いて行く人が居るみたいだけど、入り口で見かけたあのパーティは端っこに置いていくタイプみたいだね。


「トートちゃん、ずっとこんな感じで暗いけど、大丈夫?」


「ん、だいじょぶ、そこそこみえる」


 私の前を進むフェリシーが心配してくれたけど、これくらいなら余裕かな。

でもこれはどれくらいの光量なんだろ、豆電球の半分くらいかなあ、本当に、うすぼんやりと周囲が把握できるくらいだ。

ただ、その光源がずっと先までぽつぽつ続いているので存外視界は悪くない。


「らんたん、つかわないりゆう、あるの?」


「ないよ」


「ないの?」


「うん、えっと、モンスターが多くて手が塞がっちゃうと困るから星屑石に頼ってるだけだしね。あ、でもランタンの明かりで星屑石の位置が分からなくなると迷っちゃうかも」


「そっか」


 その程度の理由なのか、全員が戦闘に参加するようなパーティじゃなければ、明かりを持つ人が一人は居るのかな、星屑石の明かりだけじゃ高速で動くモンスターとか居たら見失ってしまいそうだ。

そんな事を考えながら歩いていると、フェリシーがちょっとだけ離れていたので駆け足で近寄る。


 赤い斜線の入った星屑石を確認しつつ進んでいると当然モンスターとエンカウントするんだけども、案の定私の出番は無く瞬殺されていた。

道中出会ったのは、巨大な蜘蛛とか蛇とかコウモリとか、洞窟に入る前に聞いた通りって感じだね。


 岩肌が見える場所を歩くと、コツコツとブーツの音が反響する。

しかし静かだね、私たち以外に人の気配が無いからダンジョンは結構広いのかな、私たちの他に数パーティ居るはずだもんね。

 たまにゴソゴソ私たち以外の音がするんだけど、


「正面右寄り、岩の陰に敵!」


「らじゃー」


 と、レティとカナが一瞬で索敵して倒してしまう、背後も警戒はしていたけど、別に何が現れるでも無く平和そのものだ。

そんなこんなで、ほとんど戦闘らしい戦闘もなかったからか一時間ちょっとで下の層へ続く階段が見えてきた。


「おおー、はやーい」


「情報提供してくれた人に感謝しないとね」


「この先にゴーレムが居るんだね」


「ん」


 カナが喜びの声を上げると、レティが満足そうな笑みを見せ、フェリシーが緊張した声を出したので、私もいちおう一言だけ発しておいた、もちろん、特に何も考えてない。


 階段を降りると急に景色が変わったので、私は驚いてキョロキョロ辺りを見回した、起伏のない草原に晴れた空、まるで外に出たかのような景色だ。

階段はまるで崖の中にできている洞窟の入り口のようになっているけど、さっき階段を降りてきたという事実である上向きの階段が、ダンジョンの内部なのだと教えてくれる。


でもこの空間、とても高い崖の中といった感じだろうか、周囲は岩肌に囲まれているようで、きっと円形に空間が存在しているのだろう。

この空間自体広すぎて、私の目でも奥の方が見えないから想像でしかないんだけどね。


 正面には西洋風の柱がずらっと横並びになっている大きな建物と、その数歩手前、建物の手前にこちらに頭を下げて跪くように座る銀色の鎧、所々に青く輝く文様が入っているね。

大人と同じくらいのサイズだろうか、《ゴーレム》と呼ぶにはずいぶん小さく見える――それと、死体。


「……無謀にも挑んだ人が居たようね」


 ここから見える死体は六人分、一つのパーティだとしたら、撤退の合図がうまく伝わらなかったのかな、気配を探っても誰一人生きてはいないみたいだ。


「あれ、攻撃方法打撃じゃあないねぇ」


カナが死体を指差して呟く、驚愕の表情を貼り付けたまま胴体が真っ二つに切断された冒険者だ、確かに打撃じゃこうはならないよね。


「近寄るわよ、カナ、迎撃準備して、最悪撤退の場合は指示を出すわ、聞き逃さないようにね」


「あいさー」


「ぼくも準備できてるよ」


「わたしも、いつでもへいき」


 全員で歩き出して、ゴーレムとの距離が二十メートル程度になった頃だろうか、突然『ピピッ』とこの世界に来てから全く聞く事のなかった、機械が起動するような音が響いた。


「来るわよ!」


レティが叫ぶと同時に、ゴーレムが一メートルと五十センチほどもあるでかい両手剣を構えながら物凄い速度で突っ込んで来る。


『む、まずい』


 その走る鎧に反応したのか、いきなり私の横にヘルべティアが現れて、そんな不吉な発言をする、やめてよ。


「なるほど、警告は一度目(・・・)だけね……っ!」


 レティはバックラーでゴーレムの剣を受け流そうと試みるも、想像以上の威力だったのか弾き飛ばされて後ろに転がる。

その隙を追撃されないように、後ろからカナが槍のリーチを活かして突きを入れ、更に奥からフェリシーがファイアーボールを放った。


「うわっ」


 しかし槍も魔法も全く通らず、ゴーレムは押された事による衝撃で一瞬止まるも、すぐに身を捻って槍から抜け出すとカナに向かって剣を振った。


『トート、今すぐ奴らと変われ、奴らではあのゴーレムは荷が重い』


 カナが大振りの剣をバックステップで回避しているのを見ながら、ヘルべティアが私に告げる、うへえ、あのゴーレムそんな強いの、私戦えるかな。


「ん。れてぃ、かな、ちょっとさがって」


「ごめん、お願い」


 走って二人の前に出ると、自動的にゴーレムはターゲットを私に変更したようだ、近い人を狙うのだろうか、なら都合が良いかな。


前に出た速度のまま、全力でゴーレムを殴りつける、金属に金属を叩きつけたような素手では考えられない音が響いて、ゴーレムは地面を数回回転して倒れるが、一切ダメージを受けていない様子で立ち上がった。


「かっ……たい!!」


 硬すぎでしょ、何でできてるのあれ!?

私だって全力で殴ったのに、普通のモンスターなら弾け飛ぶくらいの威力はあるのに!


『やはり、サングエスのゴーレムか』


 ヘルべティアはそんな状況を腕を組みながら冷静に観察していた。

何か知ってるなら教えて欲しいなあ、この硬さじゃ私でもダメージ与えられないと思うよ?


 ゆらりとおよそ機械らしからぬ動きで動いたゴーレムは剣を構え直す事なく、いきなり片手で正確に両手剣を振るう。


(げ、油断してた!)


構え直してから攻撃をするものだと予想していた私はその剣をもろに受け、弾き飛ばされる。

一応腕を出して受け流すつもりだったのだが、予想以上に剣が速かったので腕で受け切った形になった。


「トートちゃん!?」


「だいじょぶ」


 防御力は信じられないくらい高いけど、攻撃力はそんなに高くないみたいだね、腕にはかすり傷ひとつ付いてないようだから延々と殴り合う事もできそうだ、うん、絶対やりたくないね。


十メートルくらい派手に弾き飛ばされた私は一回転して地面に着地してから無事を告げるが、その隙にターゲットがレティに変更されてしまう。


「ふっ!」


 ただ、彼女も二度目ともなるとしっかり対応できるようで、刃を軽くいなしてから、できた隙を利用して数歩下がった。


 再び走ってレティの前に出ると、やっぱりゴーレムは自分により近い人間をターゲットにするようで、レティの方を向いていた頭が突然私の方に捻られる。


「ごめん」


「トートちゃんでもほとんど傷付かないなんてね、撤退する?」


「うーん、ちょっと、まって」


 そのまま剣を振って来るが、予想外の攻撃もあると身構えて対峙するとゴーレムはそう強力なものでなく、動きが速くても十分に対応できるものだった。

物理以外の攻撃方法を持たないようなので、まともにやりあっていれば私ならダメージを受ける事はない筈だ。


……私もダメージ与えられないけど。

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