37話 王都だー。
馬で走る事二日、本当に町はだいぶ近かったようで、お昼前には以前見た高い城壁が目に入った。
わー、王都だー! ……約一ヶ月ぶりの。おかしいな、予定では一年は来るはずなかったんだけどなあ。
門に近寄ると、騎士団の人が私に気づいて駆け寄ってきた、あの人見覚えあるね、闘技大会で私に参加証渡してくれた人かな。
「失礼、トートさんですね、団長より話は聞いています。えっと、後ろの方は……」
「おくってくれた」
「了解です、それでしたらそのままお通りください、騎士団詰所の場所は分かりますか?」
「大丈夫だ、オレが知ってる」
「ではこちらで来訪は伝えておきますので、適当な頃に詰所までお越しください」
「あいよ、真っ直ぐ向かうわ」
ザンバラさんが答えて兵士さんが頷いて、門を通されると見覚えのある大通りに入った。
ここは西区だね、冒険者向けのお店とか宿屋とか酒場とかが多い場所だ。
ザンバラさんと馬に乗ったまま大通りをパカパカ歩いているけど、もうお祭りは終わったようで露天の数もかなり減ったし、あの時みたいな活気は無いね、ちょっと寂しい。
きょろきょろ見回してみると冒険者らしき人はそこそこ居るから、冒険者ギルドみたいなのもこの辺にあるのだろうか。
しばらく歩いていると、今度は闘技場の大きな壁が目に入った。
懐かしいねって一瞬思ったけれど、よくよく考えると一ヶ月程度しか経ってないんだから別に懐かしいって程でも無いんだよね。
でもこのまま行くと闘技場行っちゃうんだけど、どこに騎士団の詰所があるんだろう。
「とうぎじょう、いくの?」
「ん? ああ、違う違う、騎士団の詰所が闘技場に隣接してんだよ」
「そっか」
なるほど、広い街だからどこへでも咄嗟に動きやすいように詰所は街の中央にあるのかな?
闘技場に到着して、外周をぐるっと周って行くと大きな建物が見えてきた、あれが騎士団の詰所みたいだね。
そう言えば、ルーティが騎士団の訓練所として闘技場を使うって教えてくれた気もする、建物は闘技場の壁とくっついているから詰所からそのまま闘技場内部にいく事も出来そうだ。
「よし、ここで良いか」
ザンバラさんが騎士団の詰所の前、観音開きになっている大きなドアのある所で降りて、私を持ち上げて馬から下ろしてくれながら言い、直後再び馬に飛び乗る。
「あれ、ふたりは、こないの?」
「オレらは別に用無いしな」
「それに、ちょっと面倒な仕事が待っていますから」
「そっか、ありがと!」
またね、とひらひら手を振るハノさんと、じゃあなと大きく一度手を振ったザンバラさんの二人に大きく両手を振って見送る、やっぱりデルさんから受けた依頼はかなり面倒みたいだね。
私は詰所のドアを一度ノックしてから開けて中に入る、大きなカウンターがあって、受付待ち用の長椅子がいくつか並んでいる、なんとなく病院の診療室を思い出す作りだ、ノックする必要無かったかな。
と、受付っぽい人と目が合ったので、会釈して近づく。
「こんにちは、なにかご用ですか?」
「ん、こんにちは、えと、ばにるみるとさん、いる?」
「あ、もしかして、トートさんですか、お話は聞いてますよ、少々そこの席でお待ちくださいね」
「わかった」
私が長椅子に向かうと同時に受付の人は席を立ってすぐ後ろのドアを開け、中にいる人に私が来た事を伝えていたみたいだ。
少し待っていると、バニルミルトさんではなく副団長のアンセルさんがやって来た、今日は詰所内だからなのか兜は被っていなくて、金色でクールなショートカットが目立つ。似合っててカッコいいし、動きやすさ重視って感じだね。
「すまない、今団長は雑務に追われていてな、案内は私がする事になった」
「だいじょぶ、おねがい」
「うむ、では早速住宅地に向かうか。すぐに借りられる物件はいくつかあるんだ、その内から好きな場所を選んでもらおうと思う」
「あ、そういえば、それより、おかね」
なんかすっかり忘れていたけど、賞金貰ってないよ私、いつの間にかもらえる権利消失してるよーとかやめてよね。
「お金? ああ、賞金か、君は冒険者になるんだったね?」
「え、うん」
「ならば、ギルドカードを作ってからの振込で構わないかな、こちらとしてはその方が都合が良いのだが」
「もらえるなら、なんでもいい」
「はは、助かるよ」
「かーど、いつ、つくれる?」
「そうだな、先に家を決めて貰って、そこからギルドに出向いてもらおうかと思うので、だいたい五日から七日くらいか」
「そっか」
うへえ、冒険者になるのってそこそこ時間かかるのね、前もすぐにはギルドカード発行できないって言っていたけど、なりたい! はい、これがきみのカードだよ! じゃないのかあ。
「さて、では行こう」
「え、いいの?」
出て行こうとしたアンセルさんを引き止めて首を傾げられる、だって私だけで家決めるわけには行かないでしょう?
「いっしょにすむ、だんいんは?」
すっかり忘れていたのか、もともとこの場に呼ぶつもりはなかったのかは判らないけれど、アンセルさんはポンと手を合わせて頷いた。
「ああ、そうだ、正式にルーティ・エスタ・アリエス団員見習いが監視員として採用された。とは言え、彼女もまだ成人していないので、困った事があればいくらでも騎士団の方へ相談して欲しい」
「わかった、いえ、いっしょにみないの?」
「む、一人で決めにくいなら呼ぶが」
「いっしょに、みたい」
「分かった、呼んでくるので少し待っていてもらえるか」
「ん」
なんだか知り合いだからってルーティの名前を出してしまったせいで仕事を増やしてしまった感あるね、私に構ってくれる分の特別手当はちゃんと出るのだろうか、今度バニルミルトさんに聞いてみるかな。
ロビーの長椅子に座って待っていると、十分くらいでアンセルさんがルーティを連れて来てくれた。
「るーてぃ」
「トート殿! お久しぶり……でもないでありますね」
「うん」
ルーティの様子は前と変わりなく、水色のボブカットを揺らして複雑そうに笑った。
次出会うのは一年後かなとか言ってたのに、まさか一ヶ月ちょっと後に出会うとは思わないよね、私も全く思わなかったよ。
「るーてぃ、わたしとくらすの、へいき?」
「入団してからはずっと寮で一人でありましたから、誰かと一緒に暮らせるのは楽しみでありますよ」
「こまったことあったら、えんりょなく、いってね」
「自分もなるべく迷惑かけないよう、気をつけるでありますよ」
そっか、ルーティまだ幼いのに寮で一人暮らしなのか、それはちょっとかわいそうだね、バニルミルトさんがオーケー出した理由が分かるよ、楽しく過ごせるような良い話し相手になれれば良いな。
「さて、挨拶も済んだようだし、行くか」
「ん」
アンセルさんに連れられてまず行ったのは、西区と南区の境にある土地斡旋所なんて呼ばれる、家の販売やら賃貸やらをやってくれる場所だった。
南区が一般住宅街なんだね、きっと。
話はこっちの方も既に終わっているらしく、カウンターに居た男性にアンセルさんが一言二言会話をすると、奥から鍵の束持って来てアンセルさんに合流し、丁寧に家の場所を記した地図も一緒に渡される。
お昼頃から家を見て回って、日が沈み始める頃には無事家も決まった。
ちょっと決断早くないかと思わなくもないけど、部屋が二個あって広いリビングとキッチンがあるなら私は文句なかったし、ルーティも「どの部屋も寮より広くて嬉しいのであります」なんて喜んでいたからきっと良い物件だよ。
「では、トート、君にはちょっとお金を渡しておこう、これは自由に使って貰って構わない。これから修繕や基本的な家具を発注するから、それらが片付くまではどこか宿屋に泊まって欲しいが、大丈夫か?」
「もちろん」
まあ本来なら十歳の子供に何言ってんだって感じなんだろうけど、アンセルさんも私が冒険者を目指している事を考慮して大丈夫だと思ったんだろうね。
アンセルさんが鎧の下から硬貨入れを取り出し、私はそれを受け取った、手荷物増えるならいつものショルダーポーチ持って来ておけばよかったな。
「作業が終わったら伝えるから、泊まる宿屋が決まったら後日で良いので教えてほしい、また、その金が無くなるようなら私や団長に伝えてくれ、それ以上は君の賞金から事前に渡す形になるが、用意はできる」
「わかった」
「では、西区まで送ろう、南区に宿屋は無いからな」
「るーてぃも、つきあってくれて、ありがとね」
「いえ、自分の意見も汲んでくれて嬉しかったのであります」
そういえば、と冒険者ギルドの事を聞くついでに軽く談笑しながら、私達は西区へ向かって歩いて行った。




