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34話 安定感抜群。

 次の日はまた馬で移動、今日はヘルべティアが姿を現したままのため、立った状態のままホバー移動のような動きで私の横を滑っている。

身体を動かさずに高速で動いているとなんだかゲームのバグっぽいね、バグべティアさんだ。


『それでは聞いてもらえるか』


 バグ、いや、ヘルべティアの言葉にこくりと頷いて、私は少しだけ上を向いて声を出した。


「ざんばらさん、ききたいことある」


「お、なんだ?」


「ふしがりってなに、いま、あんでっどそんなにいるの?」


「そうだな、まず、オレとハノの二人組で、強力なアンデッドをメインに討伐するパーティが《不死狩り》さ、相性がいいからアンデッドばっかり討伐してたらいつの間にかそう呼ばれててな。で、アンデッドの討伐依頼は年々増えてるぞ、この国(エレスベル) の方じゃ全然聞かないんだけどな」


「まおうって、だいがわりした?」


「魔王? いや、聞いてねえな、というより、停戦協定が突然破られた頃から魔族の動向は掴めてねえのが現状だ」


 ザンバラさんの言葉に、ヘルべティアが眉間にしわを寄せて首を傾げ、私も違和感を覚える。

確か、ヘルべティアの話だと百年くらい平和が続いてるんじゃなかったっけか、今の魔王は協定を破るような人では無いらしいし、何か情報に齟齬があるなあ。


『やはり、妙じゃな。トート、聞いてくれ、今は星託暦何年だと』


「いま、せいたくれきなんねん?」


「んーっと、何年だったかな、千二百二十五年だったか? 悪いな、その辺はハノのが詳しいんだ、後で聞いてくれ」


『せ、千二百二十!? 最低でも四十年は経っているというのか!』


 隣で驚きのあまり口元を押さえているヘルべティア、もしかして、転生する時に時間間違えたとか?


『そうか、エレスベルは魔族領から遠い、変化に気付かぬのもあり得ぬ話ではない、となると、魔王が代わったのは三十、いや二十年ほど前か? 違う、そもそも何者かが妾の転生陣に手を加えたとしか思えぬ、裏切り者がいたのか? しかし、それにしてはあまりにお座なり、あやつの精神内に閉じ込められこそしたものの、妾が転生に成功するのはおかしい、まさか全て何らかの意図があるのか、知略の王の仕業か?』


 隣でヘルべティアがぶつぶつ呟いているけど、情報を整理する為か声にあまり抑揚がないので私には内容が入ってこない。

言葉の端々を拾ったけど、裏切り者って、やっぱ魔王ほどの人にもなると寝首をかかれるとかあるのだろうか。


「どうした、なんか気になる事でもあんのか?」


「ん、だいじょぶ」


「そっか、いい加減移動も飽きてきただろうけど、今日中に着けるはずだから、もうちょい我慢してくれよ」


 私が小さいからなのか、ザンバラさんに寄っかかって座っているこの体勢はとても安定感があって心地いいんだよね、だから必然的に眠くなるわけで。


「わかった、ねる」


「あいよ、おやすみ」


 馬を走らせてくれているザンバラさんには悪い気もするけど、風景を眺めるのも五日目ともなると飽きるし、この抗いがたい眠気はどうしようもない。

未だ姿を消さずホバー移動しながら考え込んでいるヘルべティアを横目で見てから、私は意識を手放した。



◇とある地下室――――――



 地下への階段を降りて鉄のドアを開けた所で、レブナント卿はあまりの腐臭に顔をしかめ、ポケットから金の刺繍の入ったハンカチを取り出して鼻と口を塞いだ。


(研究所、か、初めて足を踏み入れたが、まるでここは地獄だな……)


 嫌そうな顔を隠す事もなく、目当ての人物を探して地下室を歩いていく。

地下室はかなり広く作られているだけでなく、入り口の部屋から更にいくつかの部屋に分かれているため、少し歩かなければならない。


 作業台の上には何に使うのか様々な薬品が置いてあるが、床や作業台には大量の血がこびりつき、臓物のような赤黒い物体や人間の骨のようなものまで散見され、この地下室で行われている惨劇を物語っていた。


「おや、こんなところまで来てどうしたんだい?」


 突然背後から声を掛けられてレブナント卿は飛び跳ね、声の主が探していた女性である事を認識すると、こっそり胸を撫で下ろした。


 首に大きな傷跡のある紅い瞳の女性、どうやら彼女はこの部屋にある薬品を取りに戻って来ただけらしく、作業台の上の薬品を小さく揺らしながら中身を確かめている。


 レブナント卿が口を開こうとした瞬間、悲鳴のような叫び声が先ほど彼女が出て来たであろう部屋から聞こえ、レブナント卿は思わず身をすくめた。


「……その、我が領民を……玩具にするのは、やめてもらえないか」


 恐怖から思わず絞り出すように声を出したレブナント卿に、女性はクスクス笑う。


「なあ、きみは王になるんだろう? もっとハッキリと自信を持って意見して良いんだよ、それにね、別に玩具にしているわけじゃない、これは大事な研究だよ。同時に兵士も《作れる》、実に有意義じゃないか」


「本当に、貴女は私が王になれると思っているのか……?」


「なんだい、きみにしては珍しくネガティブだね。もちろん、思っているとも、この私が付いているんだよ? 国を落として王となる、素晴らしいね、最高の英雄譚じゃないか。異を唱える者は黙らせれば良い、きみにはその力がある。私は復讐さえ出来れば良い、私を無下にしたエレスベルに、復讐をね。きみはその後を見越して出資した、素晴らしい判断だ、違うかい?」


「そう……ですな、うむ、そうだ」


 女性の言葉を聞いて、レブナント卿は口角を上げる。

この恐怖の満ちる地下室で、自分が、自分たちだけが安全だと確信させる状況がまた彼を狂わせる、何も間違ってはいない、おかしな事は無いのだ、と。


「所で、なんの用だい、わざわざ苦言を呈しに来たわけじゃないだろう?」


「うむ、そうでしたな。例の件は冒険者に依頼する事にしましたぞ」


 その言葉に、珍しく女性が反応して手を滑らせ、手に持っていたフラスコを地面に落とした。

カシャン、と音を立てて割れたガラスからは赤色の液体が床へ流れ出しているが、女性は気にする事なくレブナント卿を睨みつける。


「大丈夫なのかい?」


「も、勿論、ギルドへは私からの依頼だと絶対に知られないようにしてある、依頼内容も稀にあるような内容だ、私が疑われる心配はない」


「……そう、それなら良いんだけどね」


 自分が取り乱した事など無かったかのように、女性は再び作業台の上にあるフラスコを持ち上げる。

その様子をレブナント卿が眺めていると、女性は今まで以上に冷ややかな声を発した。


「もう報告は終わったんだろう、いつまで居るんだい? きみも実験を見ていきたいのかい?」


「い、いや、邪魔をしましたな、それでは失礼しますぞ」


 そそくさと逃げるように地下室を出ていくレブナント卿を見送ってから、女性はフラスコを作業台の上にゆっくり戻して腕を組む。


「冒険者に依頼、か、成功率だけ見たらきっと高いんだろうね、でも果たして上手く行くのかどうか……」


 その呟きは誰が聞くでもなく、地下室の闇に吸われて消えていった。



◇――――――



「トート、起きろ、ちょっと後ろのやつの相手してやってくれ」


 ザンバラさんに揺さぶられて目が醒める、ぼーっとした頭のままザンバラさんの後ろを見ようとして馬から落ちかけるも、ザンバラさんの素早いキャッチにより事なきを得た。


「あっぶねえ! おいおい、馬の上だって忘れてたのか?」


「……あんていかん、あったから」


「そいつは悪かった、んで、後ろのやつらどうにか出来るか?」


 今度は気をつけて後ろを見ると、三匹のシャープウルフが追いかけて来ていた。狼を一回り大きくしたようなモンスターだね。


「おいはらう、だけでいい?」


「ああ、いいぜ」


「ん、ちょっと、ささえてて」


「あいよ」


 ザンバラさんにお腹のあたりを支えて貰いつつ、ぐっと身を乗り出しながら狙いを定める。この体勢ちょっときつい。


「キャン!」


 私が放った空気弾をもろに食らって、ウルフは子犬のような鳴き声を出して離れて行く。

幸い群れで行動しているような集団ではないようで、三匹に一発ずつ空気弾を当てると、もう追いかけて来る事は無かった。


「ありがとな、馬やられちまうと面倒だったから助かったよ」


「ん、おやすいごよう」


 私は満足げに頷いてから定位置に戻る、どれくらい寝ていたのか分からないけれど、風景はあまり今までと変わらず、近くに雑木林が見えたり丘が見えているだけだ。


「あの丘登り切ったら、そろそろ見えてくるかもな」


「まち?」


「おう」


 目の前のなだらかな坂を指差してザンバラさんが言う、どうやらそこそこ時間が経っていたようだね、太陽の位置はまだ高いから、お昼を少し過ぎた頃だろうか。

む、そんな事を思ったらお腹空いてきた、でも食べ物は馬の道具袋に入っているから我慢するしかない。


 はあ、お腹空いたと思ったら余計お腹空いてきた、早く町に着かないかな、なんて、私はお腹を押さえてため息をついた。

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