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28話 護衛はあんまりおいしくない。

 八日間の長旅は特に何の問題もなくルビエラに到着し、護衛に付いていた三人は馬車から降りて伸びをする。

愚痴を言う二人を紫髮の少女が手を叩いて黙らせると、また帰路で必要な道具を買いに行くと去って行った。


『くくっ、しかしあのフェリシーとか言ったかあの小娘、なかなか面白い事に気付きよるな、ありゃ強くなるぞ』


 なんだかドッペルはドッペルであの去って行く冒険者三人組を見て上機嫌だし、どうしたんだろう、フェリシーってあの一番気弱そうだった茶髪の魔法使いの子だよね、一体何に気付いたんだろ。


「まあ、あの子たちも気付いたと思うけど、実際馬車の護衛ってあんまりおいしく無いのよね」


 そんなことを考えているとお母さんも気付いた系の話題に入る、でもドッペルゲンガーの声に反応してないし、聞こえてるわけじゃないよね。


「そうなの?」


「ええ、人にもよると思うけど、お金はそんなに貰えないし、拘束時間も長いし、人の目がある以上いい加減にできないでしょう、冒険者は信用もそれなりに大事なのよ。何より、往復依頼は受けちゃダメ、行きたいところに向かって行くついでに護衛の依頼を受けるならまだしも、往復は苦労に見合わないわ、一人で凶悪なモンスター倒してた方がまだマシよ」


「そうなんだ」


 お母さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている、体験談だねきっと。

王都でグリフレットさんと話してた時に聞いていたけど、昔は随分無茶するタイプだったみたいだし、護衛は特に肌に合わなかったんだろうな。


 あの三人を見てて、私も私には無理だと思ったね。

そもそも、一番最初にザンバラさんとハノさんってパーフェクトなお手本を見てしまっているから尚更なんだろうな。


 野営の準備だったり、道中ひょこっと現れたモンスターの対処だったり、手際が良くてすごーいってなってたし。


「とりあえず宿を取りに行くとして、トートはその後どこか見に行きたい所はある?」


「ん、だいじょぶ」


 もうリッカちゃんのお土産は王都で確保したし、特に行きたい場所は無いかな。


「そう、じゃあ今日は宿屋でくつろぎましょうか」


「ん」



 と、次の日もまた馬車である、フルーカ村への馬車は一ヶ月に一回出ているだけなので王都から戻ってきた場合は乗り継ぎがない。

なので、基本的には貸し馬車を使うらしい、前世で言うならタクシーみたいなものだそうだ。だいぶ割高だけど戻る足がないから仕方ないね。


 そこからまた二日で、ようやく生まれ故郷の田舎に帰ってきた私! 正直な話王都の数日間がなにかと便利すぎて今までの暮らしに耐えられるか怪しい。


「ただいまー」


「ただいま、帰ったわよ」


「ああ、お帰り、王都はどうだった?」


「たのしかった!」


 そう言って、お父さんにもお土産を渡す、お母さんと一緒にどれが良いか悩んだ結果、癒しの柔箱セットになった。農作業、重労働だもんね。


「お、ありがとなトート」


「ん」


 結構喜んでくれているようだ、良かった。

さて、帰ってきて早々だけどリッカちゃんにも会いたい。


「りっかちゃんにも、おみやげわたしてくる」


「ああ、行ってらっしゃい」



 そう遠くない距離をトコトコ歩いて、リッカちゃんの家のドアを叩く。

思えば一ヶ月近くこっちに居なかったのか、なかなか久しぶりの感覚だね。


「りっかちゃん、いるー?」


「はーい」


 パタパタ家の中から音が聞こえて、ドアが開くとリッカちゃんが笑顔で出てきた、最近会えてなかったからこの笑顔を見ると安心する。

一時期寝込んでいたため伸びていた髪は昔のようにセミロングに整えられている、やっぱりリッカちゃんはロングよりセミロングぐらいの髪型が似合うね。見慣れているってのもあるんだろうけど。


「トートちゃん、どうしたの? 今日は暇だよ」


 首を傾げて私を見るリッカちゃんに何か違和感があるけど、なんだろ、顔かな、いや、目? もっと綺麗な青だったような気がするんだけど……これは群青色って言うのかな、あれ? こんな色だったっけ。


「あ、うん、め、どうかしたの?」


「目? 何か変かな、別になんともないよ?」


「そっか」


うーん、気のせいかな、それなら別に良いんだけどさ。


「おみやげ、もってきたよ」


「わあ、嬉しい! 王都のお話聞かせてくれる? 上がって上がって」


「ん、おじゃまします」


 家に入るとバルバラさんがリビングで寛いでいるので挨拶する、しまった、リッカちゃんのお土産で頭いっぱいになっててバルバラさんへのお土産を忘れていた。

んでもお母さん買ってるかな、買ってた気がするな、大丈夫だろうな。


 そのままリッカちゃんの部屋まで通される、もうすっかり元気になった彼女の部屋は綺麗に片付いていて、読書台も綺麗に拭かれているようだ。

……心なしか、本が増えている気もする。


「そういえば、ほん、いっぱいうってるのみたよ」


「いいなあ、私の持ってる本、全部お父さんが書いたやつだから。たまには他の本もちょっと読んでみたいな」


「え?」


 あれ、お父さんが書いた? 確かにお父さんから貰ったって言ってたし、昔ちらっと見た時全部手書きだったけど、あれお父さんが書いたんだ、結構分厚かったけど、お父さん作家とかなのかな。


「どんなのかいてあるの?」


「えっとね、噛み砕いて説明すると、その辺に生えてる草の名前とか、魔物の素材とか、それを利用した錬金学みたいな内容かな」


「れんきんがく?」


「錬金術わかる?」


「うん、いろいろまぜて、べつのものにするんだよね」


「あはは、間違っちゃいないけど……とりあえず、それを勉強するためのものだって思ってくれれば分かりやすいかな」


「そんなむずかしそうなほん、よんでるの?」


「難しくはないよ、要点さえ覚えちゃえば簡単、多分ね。うちに道具はないし、私は試した事ないけどね」


「へぇ……」


 リッカちゃんのお父さんって全然見ないと思ったけど、もしかしてどっか遠くで錬金学の教師とかやってるのかな、学校が存在するのか分からないけど、そういうのありそうだよね。


 でも、そうなるとリッカちゃんの持ってる本は原本になるのだろうか。

リッカちゃんのお父さんって見た事ないし、配達とかで送ってくるのかな、なんてどうでも良い事を考えていると、リッカちゃんがずいっと身を乗り出して来た。


「そんな事より、王都のお話しようよ」


「あ、そだね、これ、おみやげ」


 机に向かうリッカちゃんに三十センチくらいのカンテラを掲げる、正面から見ると台形で、持ち手の辺りに装飾が施されている、ちょっとお洒落なカンテラだ。


 なんか魔法が施されているとかで、火を付けると白くなって、普通の明かりより目が疲れない明かりになるとか。

本を読むならこれがあると便利かなって買って来たけど、どうだろう、ちょっと火を付けて貰ったのを見たけど、確かにライトっぽい光になって見やすかったから、なかなか良いものだと思う。


「うわあ、凄いおしゃれだね」


「うん、りっかちゃんに、にあうとおもって」


 この装飾の繊細さとか、と思って発言したら、リッカちゃんはとても嬉しかったのか飛びつくように抱きついて来た。


「わー、ありがとう!」


「わぷっ」


 病気が治った頃のように私は真正面からリッカちゃんのボディーを食らう。

私だから良いものの、他の人食らったら多分倒れるよこれ、カンテラまだ持ってるのに危ないよ。


「はいはい、かんてらおいてからね」


 やんわり押し返して、カンテラを机の上に置く、割と冷静に対処しているように見えるだろうけど、内心ばくばくだ。なんて言っても後ろでドッペルゲンガー見てるし。


 ああ言ったけど、リッカちゃんはカンテラを置いたからってまた抱きついてくる事は無くて、大人しく椅子に座るようだ。

私も椅子に座りながら、ちらりとドッペルゲンガーを見ると、鼻で笑われた。


『妾の事は気にせずともよい、居て居ないようなものじゃ』


ぐぬぬ、居るでしょうがそこにー!


 もうね、私としてはトラウマなの、《あの時》も居るって知ってれば、心の準備もできただろうし、こんなに心の傷に残る事はなかったのに……。


「それで、王都はどうだったの?」


「ああ、うん、えっとね――」


 やっぱり村で生まれた子って都会が気になるのだろうか、なんて思いながら、私は王都に着いてからの話をゆっくり始めた。

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