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27話 挨拶とプレゼント。

「戻ったよ、レブナント卿。最悪だね、最悪だ」


 薄暗い部屋に声が響いた、声の主は金髪で肩ぐらいまでのショートカットに血のように紅い瞳、首には大きな傷跡が見受けられる女性だ。


「最悪とは?」


 レブナント卿と呼ばれた人物が尋ねる、こちらは丸々太った男性で、金や宝石ばかりの悪趣味な装飾に身を包んでいた。

今は何やら書類に目を通していたようで、一般のものより大きな椅子に窮屈そうに座っている。


 女性はレブナント卿の座る机の前まで歩くと、気だるそうに口を開いた。


「あの子ね、バニルミルト倒したよ」


「今、なんと?」


 事実が飲み込めず聞き返したレブナント卿に対して、女性は一度面倒臭そうにため息を吐くと、もう一度同じ言葉を口にする。


「あの子ね、バニルミルト倒したよ」


「ま、まさか、それでは計画は――」


「うん、少し面倒になったな、《兵器》の獲得が急務になったね」


「しかし、あれはすぐに無力化されてしまうのでは?」


 狼狽えながら発言したレブナント卿を見て、クスクス笑いながら女性は言った。


「相手がバニルミルトならね。でも、あの子になら効く。きっとあの子に対してなら最大の脅威になる」


「そんな事があり得るのですか?」


「あの子ね、確かに力も硬さも常人離れしていたけれど、魔法を使わなかった、恐らく魔法を使えないんだろうね」


「なるほど、力には力を。そう言う事ですな」


 その通り、と女性は頷き、また何か考えるように周囲をゆっくり歩き始める。

レブナント卿はあまり気にせず話を続けた。


「しかし、出来る事ならその少女をこちら側に引き入れたい所ですなあ」


 その言葉に足を止め、女性は鼻で笑ってから口を開いた。


「そうだね、出来る事なら。私も学者だから『無理』とは言わないけれど、まあほぼ不可能だろうね、お祭りではしゃぐ普通(・・)の子供だよあの子は。それに、接触するのも危険すぎる、手に負える相手じゃ無いよあれは」


「……なるほど」


 レブナント卿が唸ると、静寂が場を支配した。

女性は何やら考えていたようだったが、少しだけ首を傾げながら部屋を出て行こうとする。


「どちらへ?」


「研究所だよ、用があったら来るといい。それじゃ、兵器の方はよろしくね」


「うむ、早速手配しましょう」


 ドアを開けて女性は出て行き、書類に目を通していたレブナント卿も、書類をまとめて机の中に入れると、少し遅れて退室した。



◇――――――



 闘技場で優勝した日から三日経ち、王都に居る期間も残り一日となった。

王都に来てからルーティに道案内をしてもらったり、闘技場で優勝したり、お母さんと一緒にお祭りをぐるっと回って色々見て、とっても満足できた感じだ。


 結局優勝したあの日、賞金は保護者だしお母さんに渡しておいてもらっても良いかなと思ったけれど、お母さんも既に冒険者を廃業していたのでギルドカードを持ち歩いておらず、後日村まで届けてもらう事になった。


 三日間もお祭りで王都を歩き回ったりしたけど、驚くべき事にお母さんと離れる事が無かったので、ドッペルゲンガーとはまだ話せていない。

少しは話したかったんだけど、まあこっちは村に帰ればいくらでも話せるから良いでしょう。


 で、今日はルーティにお別れの挨拶を言いに駐在所までやってきた、明日は前の時と同じで朝出発するらしいからね、今日が会える最後の日だ。



「あれ、るーてぃは?」


 駐在所にはパッと見える位置からだと以前見た白髪で角刈りのおじいさんしか居なくて、私は窓の外から中をキョロキョロ探す。


「もしかすると、今日はお休みなのかしらね」


 お母さんが呟くと、視線に気付いたのかおじいさんがやってきた。

相変わらずごつい杖をついて歩きにくそうだ、もうちょい窓の近くに座ってれば良いのに。


「この前のお嬢さんか、聞いたぞ、あのバニル坊を倒したそうじゃないか。あいつも少々天狗になってたからな、助かったぞ」


「うん、ありがと」


「で、今日はなんだ、ルーティに会いに来たのか?」


「そう」


「今ルーティは買い出しに行っとるから、少ししたら戻って来るだろう、待ってると良い」


「ん、わかった」


 おじいさんは言い終えると、お母さんを見て手を顎に当てて何やら考えている。

お母さんの方もおじいさんを見て難しい顔をしているし、どうしたんだろ。


「お前、もしかして、おてんばリアーナか」


「その呼び方はやめて、やっぱりグリフレットさんね、久しぶりだわ」


「おてんば?」


 首をかしげてお母さんを見ると、苦笑いしながら「昔の話よ」と返された。

おじいさんは大きな声で笑っている、知り合いだったんだね。

そういえばグリフレットさんって昔の騎士団長なんだっけ、そうか、どっかで名前聞いたと思ったらここだったか。


「となると、この子はお前の子供か? いやあ信じられんな」


「そりゃ私だって年取れば落ち着くわよ、でもお互い老けたわね。足、どうしたの?」


「ああ、ドラゴンの呪いだ、だんだん悪くなっちまってなあ、最近やっと解けはしたんだが、どうにも良くならなくてな」


「大変そうね」


「いや、歩くのは面倒になったが、おかげでだいぶ楽できとるよ、忙しかった騎士団長もバニル坊が引き継いでくれたしな」


 むう、お母さんとグリフレットさんが話し始めてしまった、暇になってしまいそうだ、ルーティまだかな。


 ついには思い出話が始まって、本格的に暇になる。

お母さん、昔は割とやりたい放題やってグリフレットさんに咎められたりしてたみたいだね、思ったけど、そもそもBランクって全体で考えると上級冒険者なんだよね、お母さん結構凄かったのかな。


「おや、トート殿どうしたのでありますか?」


 聞き耳を立てながら地面に絵を描いたりしていると、ルーティが帰って来たようだ。

私は絵を描く手を止めて、立ち上がった。


「るーてぃまってた」


「ではちょっと荷物置いて来るので、もう少しだけ待ってて欲しいのであります」


「うん」


 ルーティは小走りで駐在所に入ると、片手で抱えていた紙袋を駐在所の机の上に置いて戻ってくる。


「それで、自分に何か用でありますか?」


「あしたかえるから、あいさつにきた」


「おお、そうでありましたか、短い間でありましたけど、わざわざ来てくれてありがとうでありますよ」


「これ、あげる」


 微笑むルーティに、昨日リッカちゃんのプレゼントを探すついでに購入した置物を手渡す、駐在所にも置いておける手のひらサイズの謎の物体だ。


「こ、これは……なんでありますか」


 ルーティが謎の物体を見て言った、うん、そうだよね、それが普通の反応だよね、私もそう思う。

タコの触手のようなものが色んな場所から十本ほど生えている一つ目の……花? 目が付いてて、その後ろから細い蔓のようなものが沢山生えていて、土台にまで繋がっている、謎の像だ。


「びょうきよけだっていってた」


……ドッペルゲンガーが。


「……そうでありますか」


 すごい、プレゼントは嬉しいけどこの美的センスはどうなのみたいな感じで、喜んで良いのか分からない絶妙な顔をしてる。

違うんだよ、お母さんと露店を適当に眺めながら歩いてたら、ドッペルゲンガーが反応したんだよ。


『おお、あれは素晴らしい病気避けの魔力が篭っておる、お買い得じゃ、買うがいい!』


なんて。

売ってる人も遺品整理だったとかで特に効果を知らず、「え、そんな変な像を買うの、良いの?」みたいな感じだったし。

でも、買った後ドッペルゲンガーがすごく満足そうにしていたから、きっとこれは本当に良いものなのだろう、バニルミルトさんとの戦いでも魔力を視認してたみたいだし、嫌がらせじゃないんだよ。


「でもプレゼントなんて嬉しいのであります、大事に飾っておくのでありますよ」


「うん」


「次はいつ来られるのでありますか?」


「ん、わかんない、いちねんご?」


 一応来年の闘技大会の出場はできるか分からないよってアンセルさんには言っておいたけど、できるなら来たい所だね、一応チャンピオンだし、決勝だけ出場して勝てば賞金も貰えるらしい。

まあ貰える賞金は減ってしまうみたいだけれど、一戦だけで他の参加者と同じ賞金貰うのも気が引けるし丁度良いかなとは思う。


「そうでありますか、また会えるのを楽しみにしているでありますよ」


「うん、わたしも、またね」


 これでよし、と、病気避けのお守りはどこまで効果あるのかは分からないけど、次会う時までは元気でいてほしいものだね。

私の方は終わったからとお母さんの方を見ると、あっちも話を終えて別れの挨拶をしているようだ。


「それじゃ、また適当なタイミングで来るわよ」


「ああ、まあ何かあったらバニル坊にでも伝えてくれ、俺はもう騎士団長じゃないからな」


「はいはい、じゃあね」


 お母さんはグリフレットさんに手をひらひら振って、私の方へ向かって来る。


「よし、挨拶は済んだ? 帰ろうか」


「うん」



 次の日は朝早くに起きて馬車に乗る、今回も護衛が居たけどDとCランクの混成三人パーティで、私を見て腰が引けていた。

馬車の護衛って募集のランクとかどうなってるんだろ、ザンバラさんとハノさんなんてAランク行っててもおかしくなさそうな仕草と雰囲気を纏った人たちだったのに。


「えっと、闘技大会の優勝者の、トートさんですよね?」


「ぼくら必要無いんじゃ……」


「ははあー、割の良い仕事だねぇー」


 リーダーっぽい紫セミロングの少女が私に尋ね、その後ろに居る気弱そうな茶髪ショートの少女が呟いて、どうにもやる気のなさそうな槍を持ったミントグリーン色長髪の少女がにこやかに言った。


 聞けば彼女たちも闘技大会を観戦していたらしい、あれ見てればまあ、腰も引けるよなあなんて思うけれども。


「ごえいがんばってね」


 私は積極的に動く気は無い、お金もらってないし!

にっこり笑って暗にその旨を伝えると、彼女たちも落ち込みながら頑張りますとだけ答えてくれた。

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