表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/81

20話 魔法剣はつよそう。

 《魔法剣》のヴィルジリオさんと騎士オルニカさんは、二人とも堅実な人だからか地味な戦いが続いている。

ちゃんと全試合見てたから二人ともしっかり基礎がなってて強いってのはすごくよく分かるんだけどさ、やっぱり地味だね。


 特にヴィルジリオさんはあの巨体から力任せの戦い方をするかなと思っていた分ギャップがある、思ったより繊細に戦う人みたいだ。


 最初ヴィルジリオさんに《魔法剣》なんて二つ名が付いているから魔法剣士とかなのかなと思っていたら、単純に魔法効果(エンチャント)付きの剣を使っているから魔法剣と呼ばれているらしい。


 ただ、その前の予選でも第四戦でも効果を発動した様子はなくて、どんな効果を持っているのか私は知らない。

切り札として使いたいのか、燃費が悪くてギリギリじゃないと使えないのか、それともエトワールさんが使っていたブーツの様にもう効果は発動しているけど傍目(はため) には分かりづらいのか。うーん、どうなんだろ。


「トート、何か食べ物とか飲み物とか買ってくる?」


 首を傾げて試合を眺めていると、お母さんが聞いてきた。


「うーん」


 たしかに喉が乾いてるかも、確か一階でつまんで食べられるような食べ物も売ってたみたいだし、何か買ってこようかな。


「ん、いこうかな」


「私が行ってくるから良いわよ、トートは試合見てなさい。次の相手なんでしょう?」


「おにくたべたい、のみものも」


「はいはい、じゃあ、ちょっと待っててね」


「ん」


 オルニカさんは剣を剣で弾いて、時たま小さな盾のような鉄板が張り付いた手甲で剣を受け流しては攻撃をやり返し、受けるのが難しそうな時は小さく跳ねて避けていた。

クライプさんと戦ってた時も互角だと思ったのに、こっちでも互角の戦いを繰り広げている。


 ただ、オルニカさんすごーいと思っていたのも束の間で、ちらっとこっちを見たヴィルジリオさんと目が合った。

ヴィルジリオさんはすぐに視線を戻したけど、なんだかチラチラこっちを気にしている節がある。


 ……なるほど、手を抜いてるのね。

じゃあ絶対魔法剣は見せないだろうなと思うと、急に試合を見る気が失せた。


 そういえば、試合と言えばルーティは今何をしているんだろうか、今日もあの駐在所で案内をしてたりするのかな。

ちょっと話しただけだったけど、面白い子だったし気も合いそうだったからまた会いたいな。


 あー、また会いたいって言ったらリッカちゃんは今何してるのかな、暇そうに本でも読んでいるのだろうか。それとも家のお手伝いかな。

癒しが、癒しが欲しいよー。

せっかく元気になったのに、リッカちゃんが言ってた通り家の手伝いが多かったのか王都に来る前はあんまり遊べなかったしなあ。


 それしてもお土産は何にしよう、なんかちょっと魔法的な、素敵なインテリアみたいなのがあれば是非プレゼントしてあげたいんだけどな。

こう、ガラスでできた綺麗なライトとか、全部砂が落ちると柔らかく光って時間を教えてくれる砂時計とか無いのかな。


 それとも本かな、適当に選んだ本で喜んでくれるかな? いやー無いか、どんな内容の本が好きなのかも知らないし、別に興味もない本渡されても困るだけだよね。


 どうせならこの戦いも見てもらいたかったな、「トートちゃんすごーい」とか言われたかった……うーん、いや、リッカちゃんは怖がっちゃうかな? 戦いとか無縁そうだもんね。


「トート?」


 お母さんの声で我に帰る、ヴィルジリオさんがこっちを気にして手を抜いてるっぽいし、試合があまりにもどうでもよくなって妄想にトリップしてしまっていた、危ない危ない。


「ん、ありがと」


 私が妄想の世界に入り浸っていたのが分かっていたのか、なぜこのタイミングでとクエスチョンマークを浮かべたままのお母さんから飲み物を受け取る。


 これ、地味にすごいんだけど、コップにちゃんと蓋がされていてストローまで付いてて、変に柔らかいけど材質は紙でもプラスチックでもないっぽい、なんだろこれ状態だ。


 もしかして、私の住んでいた村があまりにも未開の地なだけで、この世界の技術インフラは前世ぐらいあるのかな。

移動が馬車だし、流石にそこまでは無いか。

でも宝石宿も自動で水が出てくる装置とかあったし、歪だけど、便利なものは魔法か何かで色々と作られてるって事なのかな。


「トート、どうしたの?」


 おっといけないいけない、また意識が別の方向に飛んでいた。

とりあえずお母さんの持つ大きな葉っぱに盛られた焼肉っぽいものに手を出そうとした時、リング上で大きな爆発が起きた。


 驚いてそっちを見るとオルニカさんが何か使ったっぽくて、ヴィルジリオさんが煙に包まれていた。

ええ、っていうか結構すごい音したけど大丈夫なの、即死案件じゃ無いのこれ。


「残念だったな、百パーセント勝てる相手にこそ、油断をするなってのが爺さんの遺言だ」


 ドヤ顔でオルニカさんが勝利宣言みたいな事をしてる。

大きな爆発がしたって事は、何かこっそり爆発する道具を使ったんだよね、多分。


「きしのひと、せいせいどうどうじゃないんだ」


「ん? ええ、そうね、昔からアリエス王都騎士団は冒険者の登用も多いから、あんまり正々堂々ってイメージは無いわね」


 私の呟きにお母さんが反応した、騎士って貴族で構成されているイメージがあったから戦闘前に名乗りを上げて正々堂々が当たり前だとおもっていたけど、考えてみれば孤児のルーティが見習いとはいえ入団してるんだもんね、この国は貴族と平民の軋轢はあんまり無いのかな。

まあ、そもそもこの世界の『騎士』がそういうものな可能性もあるけど。


「ふん、一度も油断などしていないさ、私は集中していたとも」


 煙の中からヴィルジリオさんが現れる、なんか爆発見事に食らったっぽくてボロボロだけど……。


 ほらー、オルニカさんもお笑い芸人のツッコミ担当みたいな顔してるし。

(いや嘘やん自分今めっちゃ気ぃ逸らしてたやん!)

って顔してるじゃん。

私もそう思う! 私は途中から見なくなっちゃったけど、こっちチラチラしてたし!!


「だからこそ貴様に見せよう、我が《魔法剣》を!!」


 カッコいい事言ってるけど、要は油断してたら余裕なくなったから全力を出さざるを得なくなったって事だよね。

でもこの世界の人は爆発に耐えるのか、エトワールさんも鎧の上から殴ったからちょっと力込めちゃったけど意外に大丈夫そうだったし、強い人たちは体も頑丈っぽいね。


 爆発食らっても平気って事は、筋肉とかだけじゃなくて魔法的な力も働いているのだろうか。

そもそも私のこの体も力を入れると硬くなるけど、別に私自身マッチョじゃないし筋肉関係なさそうだもんね、なんなんだろ、うーん、よく分かんない。


 んでも、気になるからと言って次の試合で全力で殴りかかってみて腕とか足とか吹っ飛ばしちゃったりしたら、観客に引かれないだろうか。

もう今の段階で、入場した途端観客席から化け物だの魔物に育てられただの言われてるから今更ではあるんだけどね。



 ちょっと脱線したけど、リング上では効果を発動した魔法剣が淡く緑色に発光しているのが分かる。

オルニカさんもその効果を知らないらしく、注意深くヴィルジリオさんの様子を伺っているみたいだ。


 でも、《魔法剣》なんて二つ名が付く時点で大半の人がその効果を知ってそうだと思うんだけど、観客席を見回しても、これから何が起こるのかとリング上に注意を寄せている人が多い、どういう事なのだろうか。


「《魔法剣》が魔法剣を使ったぞ……」


「魔法剣が発動したら勝てるものは居ないと言われるが果たして……」


 耳を澄まして観客の声を聞いていると、決して人前では見せない奥義っぽい。

となると、やっぱり燃費が悪くて長時間使えないって考えるのが妥当かな。


「行くぞ、騎士よ!」


 オルニカさんとヴィルジリオさんがお互い剣を構えてから、ダンッと大きく一歩踏み出したヴィルジリオさんが崩れ落ちるように急に膝をついた。


「……おいおい」


 ただのやせ我慢をしていたのか、思っていた以上にダメージが大きかったらしい、オルニカさんが呆れている。

ヴィルジリオさんは何事もなかったかのように立ち上がって、叫んだ。


「来い、騎士よ!!」


「行くかっ!」


 もはやコントみたいになってるけど、オルニカさんは腰に付いた小さなポーチから宝石のようなものを取り出すと、ヴィルジリオさんに投げた。


「く、くそおおおおおお!!」


 ヴィルジリオさんはそれが何か分かるらしい、悔しそうに叫びながら腕を交差させて頭を守ろうとする。

宝石がうまくヴィルジリオさんの足元に落ちると、床に触れた瞬間再び小規模の爆発が起きた。

さすがにもう耐えるだけの体力は残っていなかったようで、ヴィルジリオさんは吹っ飛ばされた上に気絶して敗北だ。


 結局、魔法剣がなんだったんだか知ることができなかった、Aランク冒険者だし二つ名になるレベルの《何か》はちゃんとあるんだろうけど、ねえ。


爆発効果(ボムエフェクト)珠玉(ジェム)ね、最初のなんて特に高かったでしょうに、惜しげも無く使うのね」


「たかいんだ」


 お母さんが隣で呟いている、まあ、あの状況でヴィルジリオさんに近寄るのは魔法剣の餌食にしてくれって言ってるようなもんだし、良い判断だったと思うけども。


「さて、相手はうまく道具を使って戦う相手みたいね、トートは何か対策あるの?」


「ん、わかんない」


 そもそも冒険者用の道具を知らないのだ、対策も何も考えつくはずもなく。


「でも、あのていどなら、よゆう」


 さっきの爆発現場を指差して伝えるとお母さんは苦笑いで頷くが、その後少し難しい顔で指先を顎に置いた。


「ちょっと怖いのは毒とか麻痺とかかしらね、そういったの食らった経験ある?」


「たぶん、ない」


 昔戦ったモンスターに毒持ちとか居たとしてもかすり傷すらできなかったから無意味だったし、麻痺も同様だね。幸いなのか、そういった粉とか飛ばしてくるようなモンスターとは出会った事なかったし。


「そう、じゃあ、三十分くらい時間あるのよね? ショッピング行きましょうか」


「ん、なにかうの?」


「もちろん、対策するための道具よ」


 そんな事を言って、お母さんは私の手を取った。きっと何かアテがあるのだろう、元冒険者の知恵を借りるべく、私はお母さんと闘技場を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ