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15話 単純な子

 予選だけで今日はおしまいで、勝ち残った八人でのトーナメントが明日行われると控え室に戻った時に教えてもらった。


 トーナメントの相手は組の順番通りではなく、各試合終了後にくじ引きで決めるみたいだけど、組のラストである私はもう始めから場所が決まってるみたいだね。

ちなみに、騎士団長サマは決勝戦で出てくるらしい。

誰だ騎士団長サマは本戦から出てくるって言ったの、決勝にしか出てこない完全な賞金ストッパーじゃん。


「トートさんは第二試合で、相手はベニバナさんだね」


 おっけー名前だけでわかるやつ。あの女浪人さんでしょ、知ってる知ってる。


「第一試合の開始は今日と同じ十時からだよ、選手はまた自分の試合の一つ前、つまりトートさんの場合は十時くらいに選手控え室にいて欲しいかな。一応、決着がつくまでなら遅れても全然構わないけどね」


「ん、きょうとおなじばしょ?」


「えっと、トートさんはそうだね、本戦から選手同士は同じ控え室を使わないようになるから、表の左側の人はこっちの控え室、右側の人は反対側の控え室を使ってもらうことになるよ」


「わかった」


 そう言うと、再び緑色の参加証を手渡された。


「控え室に入る前に、入り口にいる兵士にこれを見せてね。昔不正があってからちょっと面倒になっちゃったんだよね」


「ん」


「さて、ああそうだ、チケットは要るかな?」


「ちけっと?」


「観戦のさ、家族とか知り合いとか、渡したい人がいるなら五枚まで用意できるよ」


「いちまいほしい」


「一枚ね、はい」


 私は渡された参加証とチケットを丁寧にショルダーポーチにしまった。


「じゃあ、気をつけて帰ってね、ってのもあれだけ強いのにおかしな話か。とにかく、明日は十時に第一試合開始だから覚えておいてね」


「ん、ばいばい」


 ずいぶん親切な兵士さんに手を振って別れ、階段を登ってお母さんの元へ向かう。予選が終了したからかだいぶ客は捌け、すぐにお母さんは見つかった。なぜか近くに冒険者マニアのおじさんたちも残っている。


「トート、あなた……」


 お母さんの声が若干震えている気がする、恐怖? しまったこっちのパターンか。

お金欲しかったし、私の強さを示しておけば今後冒険者したいとか急に言いだしても楽かなと思っていたけど、今この場で拒絶でもされたら正直しんどい。

なんていっても、この世界で私を育ててくれたお母さんだし。


「あ、あの、おかあさ――」


「あなたすごい強いじゃない! やるわね、絶対私でも勝てないわよ!」


 ガバッと抱きつかれる。声の震えはあまりの喜びからだったみたいだ、良かった、本当に良かった。


「でも本当、信じられないくらい強いわね、私たちに隠れて戦闘訓練でもしてたの?」


「う、うん。むかし、もんすたーたおしてた」


「たまにどこにも居なかったのはそういう事だったのね……」


「いやあすげぇな嬢ちゃん、明日は楽しみにしてるぜ!」


「良いもん見せてもらったぜ、まさか《新人》どころか、あの《無詠唱》も《完遂者》も倒しちまうなんてな」


「ん、よゆう」


「ははは、すげぇなぁ!」



◇リアーナ視点――――――


 昔から、私の娘は変わっていた。

普段はおかしい部分をなるべく見せないように努力をしているようだったけれど、親である私にはだいぶバレバレだったわね。


 特に隠しているつもりになっているようでも全然隠せていなかったのは、異常なほどの力だったかしら。

あの子、単純というか何か物を考えている時は別の事を考えるのは苦手みたいで、何か考えているような素振りを見せている時に重い物の移動を頼むと軽く運んで行ってしまうのよ。

それが大の大人が手押し車を使わないといけないくらいのものでも、ひょいっと軽く持ち上げてね。


 考え方も変わっている事が多かったわね、大人しくて聞き分けもよくて、バルバラがちょくちょくこぼしていた子育ての苦労なんて私は殆ど感じた事がなかったわね。

 普通は他の人と比べて明らかに怪力であるなんて知ったら自慢でもするでしょうに、妙に考え方が大人びているのかいつも隠そうとするのよ。無用な混乱を招かないようにしているのだろうからきっと頭が良いんでしょうけど、この子は抜けている所があるからよく分からないわね……。


 それにしても、今回の試合で漸く二年前のトート血まみれ事件の全容が把握出来たわ。

あの速度のファイアボールですら完全に見えていたようだったし、あれだけ動く事ができるならそこら辺の低級モンスターなんて楽勝でしょう、何と戦ったかまでは知らないけど。

 あの日は珍しく力加減を誤ったのか、初めての戦闘で力加減が分からなかったのか、派手にやらかしてしまったのね、きっと。


 冒険者としては特別凄くもないBランク下位の私と、Cランク中間程度のあの人の二人からなんでこんな凄い戦闘能力を持った子が生まれたのかは謎だけど、時折見せるあの人譲りの頑固さとか、私が小さい頃何度もやっていたような仕草とかを見ると、間違いなく私から生まれた、私たちの子だって理解できるわ。


だからこそ試合が終わってトートが私の顔を見た時、トートの考えが手に取るようにわかった。

この子は、自分の力による拒絶を恐れている、と。

きっと昔からそうだったのでしょうね、過度な力は恐れる人が多いと理解しているからこそずっと隠して来たのだろうし。


 そんなひた隠しにしていた力を私に見せてしまうのに今回大会に出たのはどういう意図があったのか分からないけれど、きっといつも通り何かちょっとした理由があって、他の事はあんまり考えずに参加したんでしょうね、そういう子だし。


 ただ、拒絶を恐れているのなら私は母親として、安心させるための言葉を投げかけてあげなければならないわね。

全然気にする問題じゃないわよ、気にしないでね、と。


「あなたすごい強いじゃない! やるわね、絶対私でも勝てないわよ!」


 そう言って抱きしめてあげた。顔は見えないけど、ゆっくりと抱き返してくれたから、きっとトートの不安は解消されただろう、良かった。



◇――――――



 明日は再び十時に闘技場だとお母さんに伝え、手を繋いで宝石宿に戻る。


「おかあさん、きづいてたの?」


 私の強さについて尋ねると、お母さんはクスッと笑った。


「もちろん、ある程度はね。でもまさか二つ名持ちの冒険者を倒せる程だとは思わなかったわ」


「そっか」


「明日もちゃんと応援するわよ、でも、気をつけてね」


「ん、がんばる」


 空いた手でキュッと軽くガッツボーズをして頷く、と、ふと思い出してショルダーポーチからチケットを取り出した。


「おかあさん、これ」


 明日の分の観戦チケットを先にお母さんに手渡す、参加者の家族や友人は先にチケットを貰えるらしい。本戦は毎年人気があるので、チケットが完売してしまう事も多いそうだ。


「そういえば、トートあなた防具とか要らないの?」


「んー……」


 防具を使うとか考えた事もなかったな。昔一応気になったから、モンスターを殴りに出かけた時に多少のダメージ覚悟で爪攻撃とか剣攻撃をかすらせてみたけど無傷だったし。


「だいじょぶ、きれない」


 むしろ私を切ったら大したもんですよ、なんて。


「ふーん」


 なんて声を上げながら、お母さんは私と繋いでいる手を持ち上げて二の腕をぷにぷにして来た。


「別段硬いわけでもないのよね、不思議ね、魔法?」


「ちがう」


 私は逆の手を強く握ってお母さんの前に差し出すと、お母さんは先ほどと同じように二の腕を握って目を見開いた。


「すごい、鉄みたいじゃない、これなら確かに切れないのも納得だわ」


 なにより、防具って簡単に洗えないだろうから臭いイメージが強い。身を守るためとは言っても、そういうのはあんまり着たくないよね。

それに今から防具屋さんに行ったとしても、私のサイズだとオーダーメイドになりそうだから今日中には手に入らなそうだし。

結果、防具は要らないという選択になるのだ。


「ま、今日はなにか美味しいものを食べに行きましょう、明日も頑張ってね、応援するわよ」

 

「ん」


 そう言って私は手を引かれ、レストラン街へ向かうのであった。

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