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12話 なかなかやる人たち。

 開始の合図と同時にフード姿の男が地を蹴ると、その瞬間存在が希薄になった。

観客席から眺めているのに注意していないとすぐにその男を見失ってしまう感じなので、やっぱり暗殺者(アサシン)系みたいだ。


 男はそのまま、手に持ったナイフで近くに居た冒険者の脚の腱を必要最低限の動きで切り裂いた。

きっと切られた側はなにが起きたのか判っていないのだろう、驚愕の表情を貼り付けたままその場に崩れ落ちる。


 崩れ落ちた冒険者を見て、別の冒険者が(ようや) くフードの男を認識するが時すでに遅く、フードの男が冒険者の足を切ったナイフを投擲した後だった。

投げられたそれは迫るフードの男に対応するために構えを変えようとした冒険者の腕に刺さり、剣を取り落す。

手から離れた剣は、地面に落ちる前にフードの男の手に収まっており、切っ先は冒険者の喉元に突きつけられていた。


「さて、どうする?」


「……降参だ」


 こうやってアサシンフードが一瞬で敵を倒している間、他の場所でも当然動きがあった。



 騎士は昨日街で見たような動きやすそうな軽鎧ではなく、全身鎧を着込んでいた。

ああ言ったのって全身着るとすごい重量になるって聞いたことがあるけど、闘技場内の騎士は重量を感じさせることなく両手剣を振るっている。


「ぬんっ!」


 バットのスイングのように振り出された両手剣を、盾を片手に持った冒険者が受けるも、力を受け流さなかったため場外まで吹き飛ばされてしまった。


「うわぁ、すごいちから」


 思わず私も呟く、お前が言うかって話だけど。


 相手を場外に弾き飛ばした騎士はやはり力自慢のようで、両手剣をまるで木の棒のように軽く振り回している。

リーチだけでも有利なのに、それを軽く振り回されては当然他の冒険者も敵わず、バタバタ倒れていった。



 女浪人はそんな光景を興味なさげに眺めていた、《私の敵はここにあらず》といった感じなのだろうか。

あまりに堂々と突っ立っているためか他の参加者も近寄りがたいらしく、誰にも襲われないまま試合は着々と進行している。


 やがて人数が減ってきた頃、アサシンローブにも騎士にも敵わないと踏んだ冒険者が女浪人にターゲットを移し駆け寄った。

女浪人は変わらず興味なさげな顔のまま刀を滑らせるように抜くと、冒険者の横を駆け抜けながら一閃で綺麗に武器を弾き飛ばす。

諦めの悪い冒険者は逆の手で短剣を引っ張り出すが、振り向く前に背中を蹴られ、騎士の前に押し出される。


「やれやれ、往生際の悪い奴だ」


 女浪人が呟き、騎士により冒険者が再び吹き飛ばされたのとほぼ同時に、アサシンローブの短剣と女浪人の太刀が凄まじい金属音を奏でた。


「油断ぐらいしろよ」


「あんな雑魚は数に入りはせぬ、油断などするわけないでござろう」


 刃を合わせた二人が同時に後ろの方へ飛び退くと、間に凄まじい威力で両手剣が振り下ろされた。


「私も鍛錬のために参加しているのでね、仲間に入れてもらおうか」


「……チッ」



 なんて会場が盛り上がっている間、もちろん冒険者マニアのおじさんたちやお母さんも盛り上がっていた。


「こう強い奴らが同じ組になっちまったのは勿体ねぇなぁ!」


「予選がある程度つまんないのは仕方ないが、なんでこう強い奴らを固めちまうかねぇ」


「あの三人は、ざっと見ただけでもBランク上位の実力はあるわね……」


 と、こんな調子で喋っている中、私はあのアサシンフードがなぜ参加していているのか気になって仕方がなかった。

だって普通暗殺者がこんな目立つ場所に出ないでしょう、事故に見せかけて参加者を暗殺するとか、会場を盛り上がらせて別チームが要人を暗殺するとか、そんなイメージしかないし。


「ぬうっ!」


 なんて考えていると、騎士の両手剣が根元から折られていた。


「無闇矢鱈と武器を振り回すなど、折ってくれと頼んでいるようなもの。お主は力だけでなく、もう少し技の鍛錬を積むべきでござるな」


「成る程。……お二人のどちらを見ても体術のみで敵う相手ではないな、私はここで降参しよう」


「うむ、潔いのは好きでござる。さて……」


 女浪人がアサシンフードに向き直る。アサシンフードは少し離れた位置で、様子を伺うように立っていた。


「お主、影の者でござろう? なにゆえ大会に参加した」


 私が聞きたいことを女浪人が聞いている。わざわざ聞くような事ではないと思うけど、もし暗殺目的なら止めたいとか、そういう正義の人なのだろうか。


「その質問は、この勝負に関係あるのか?」


 律儀に聞き返すアサシンフード、すると女浪人は肩をすくめた。


「いや? ただ面倒毎に巻き込まれるのは御免でござるからな。影の者が暗躍するような大会であるなら、今ここで早々に去ろうかと考えた所でござる」


「……ふん、安心しろ、賞金目当てだ」


「ならば結構、相手をするでござるよ」


「珍しい武器だが、さて、俺に通用するかな」


 言い終えると同時に、アサシンフードの存在感が更に希薄になる。某ゲームの姿が消える迷彩を思い出すレベルだ。


「隠蔽魔法か、厄介だな」


「あそこまで見えなくなるって事は相当な練度だぜ」


 やっぱり魔法なのか、この世界に来て初めて見た魔法が姿が消える魔法って……って思ったけど、それより先に肩こりと腰痛を治す魔法を見てたわ。

え、魔法しょぼくない? いや便利なのは判るんだけどさ。


 消えたとはいえ、私には判る。隠蔽魔法を使うくらいだし、自らの音をほとんど出さない訓練を積んでいるんだろうけど、集中すれば聞き取れる程度の音は発しているし、姿の方も背景との”ズレ“が目立つ。


 女浪人の方は、逆に目を閉じて俯いたまま刀の柄に手を置くように当てている。

多分あれは居合の型なんじゃないかなと思うけど、私は詳しくないから判らない。

とにかく、アサシンフードが来るのを待っているように見える。


白小夜(しらさや)流――全天の構え。もう、拙者に近づく事は叶わぬ 」


 アサシンフードは女浪人の言葉を試すように背後から迫るも、女浪人は即座に反応して空間に斬撃を見舞う。

反応する可能性を考慮していたアサシンフードは軽くその斬撃を避けるが、一歩離れた場所で硬直してしまった。


 数秒後、何度か攻める方法がないか試すも、全て斬撃を返されて元の位置にもどされる。

完全に守りの姿勢に入ってしまった女浪人を崩すすべもなく、このままでは試合はどうなるのかと思っていると、女浪人が口を開き刀を滑らせるように抜いた。


「位置は特定した、いざ!」


 もはや跳ねるようなとても大きな一歩を踏んだ後、手に持つ刀は返り血を浴びており、女浪人は一度刀を振って血を払うと鞘に収めた。


 チンッ、と刀が鞘に収まる音がすると、先ほどまで殆ど姿の見えなかったアサシンフードが姿を現して倒れていた。


 時代劇で見るあれだ! なんて私は勝手に感動していたが、私の周りの観客たちも本日初の強者が現れた事に興奮を隠せずにいるようだ。


 この興奮に包まれたまま第四組の試合が始まっちゃったら、第一組や二組レベルだと可哀想だななんて思ったりもしたが、試合の進行は無慈悲にも今まで通り進んで行く。


 一応、第四組も冒険者マニアのおじさんが言うにはこの辺りの冒険者は少ないそうだ。

なら、頑張れ四組の人たち! と、グッと拳を握りつつ、私は選手たちに心の底から応援をした。

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