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11話 最初はこんなもんだってさ。

 観客席に向かう階段を登ると、お母さんが待っていてくれた。


「座って見るなら、あの辺りか、その辺りが良いわね」


 ちゃんと観客席の良さそうな部分まで探してくれていたらしい、私はお母さんにお礼を言うと、一階への階段とそこまで離れていないオススメの席を陣取った。


「私も楽しみになって来たわ」


 冒険者だった頃の腕が疼くのだろうか、お母さんは随分気分が高揚しているように見える。

 お母さんに借りている懐中時計を見ると、もう予選の第一組が開始される頃なのだが、観客席にはパラパラと人がいるだけで空席が目立つ。


「とうぎたいかい、にんきない?」


 思わず呟くと、お母さんは首を傾げた。


「予選だからじゃないかしら、予選で眼を見張る戦いなんて滅多にないんでしょう」


「なるほど」


 そんな会話をしていると、選手の入場ゲートからぞろぞろと戦士たちが巨大な円板の形をしているリングの上に登って来た。

凄まじい筋肉に大きな斧を持っているような人や、逆に細身でレイピアを腰に差している人、露出が多めの、いわゆるビキニアーマーに身を包んだ女性剣士も居る。

全部で十二人居るから、予選はバトルロイヤル形式みたいだ。


「うーん、第一組はこれと言った人物はおらんな」


「だなー、パッと見て勝ち進めそうなのはBランクのクライプくらいか」


 だいたい右後ろの方の近くの席から声がする、三十から四十代くらいのおじさんたちの声だ、冒険者マニアかなにかだろうか。


「Bらんく? くらいぷ、だれ?」


 振り向いて尋ねて見ると、おじさんは嫌な顔せずに闘技場の方に指をさして教えてくれた。


「まずクライプな、ほら、あの緑のマントの剣士さ」


「みどり……あ、わかった」


 年齢は二十代後半、体は別にマッチョなわけでもなく細くもなく、背が高いわけでもなく低いわけでもなく、持っている剣は年季が入っていそうな鞘だが特別おかしな形をしているわけでもない、なんとも特徴のない金髪碧眼の剣士だった。


「Bランクってのは、冒険者の格付けみたいなもんだ」


 私がクライプさんを見ていると、おじさんは私の疑問に答え始めた。

冒険者にはランクがあって、FからAまで(私が分かりやすいように勝手に脳内でアルファベットにしているけど)あるらしい。

Fランクの冒険者は駆け出しで、Bランクで大ベテラン、Aランクはもう全員に二つ名が付けられて名前を覚えられるほど少ないって具合らしい。当然、ランクの高さがその人物の強さに直結しているみたいだ。


「こう言っちゃなんだが、第一組はあまり面白そうじゃないな、全員この辺りの冒険者で固まっちまってる」


「騎士様が一人でも混じれば少しは展開が変わっただろうがな、これじゃ結果が見え見えだ」


「あのきんにくは?」


 つまらなそうに会話する二人のおじさんに、最初に見たとてもインパクトのある全身筋肉の男を指差す。両手斧が小さく見えるほど大きくて、鎧かと疑いたくなるほどの筋肉、あれは強そうだと思ったのだけれど。


「Dランクのゴンザレスか、ありゃダメだな。確かに攻撃は高威力だが、いかんせんやつは技がない、低ランクのモンスターなら問題ないが、他の冒険者相手だとまず攻撃を当てるすべを持たないだろうな」


「まあでも、あの見た目からは想像できないほど歌が上手いし、優しいから子供達にすごい人気があって憎めないやつなんだよ……戦闘には関係ないけどな」


「なるほど」


 なんだか勝てばポイントが貰えそうだ、それはそれとして。


「じゃあ、くらいぷ、ひとりがち?」


「ま、だろうな。見てるならクライプ見てると良いぜ、一対多数の戦い方も見れるだろうから楽しいと思うぞ」


「わかった」


 そんなこんなで試合が始まって、試合は冒険者マニアっぽいおじさんたちの言う通りに展開して行った。

クライプと呼ばれていた冒険者はやはり有名らしく、試合開始と同時に四人の冒険者に詰め寄られた。けれど一人目の剣を冷静に弾き、蹴りを入れてよろめかせて別の参加者の邪魔をさせると、よろめいた冒険者に注意が向いた瞬間に剣でバシ、バシ、バシ、バシってな感じだった。


 ゴンザレス氏の大斧見ててもこれ刃付いたままだよねとか思ってたけど、剣で切られた相手が本当にざっくり切れて、《真剣使うの!?》って思ったら、どうやら敗北判定と同時に回復魔法か何かが使われるらしくて、綺麗に元どおりになっていた。

あの回復魔法がどこまで通用するのか不明だ、よくあるファンタジーなんかだと《即死には対応できない》とか、《完全に切断してしまうと効果がない》とか聞くし。

ただ、やっぱりお祭りにふさわしい余興のようで、私はこっそりと胸をなでおろした。


 そんなことを考えているうちに、もう闘技場の戦いは佳境を迎え……ってほどでもないんだよね、本当に冒険者マニアのおじさんたちが言うようにクライプさんの一人勝ち。


 今残っているのは二人で、クライプさんと見ず知らずの十代ぐらいの男の子が剣を弾きあって接戦のようにも見える。でも、多分これはクライプさんがかなり優しいのか傲慢なのか《少しでも長く戦闘経験を積ませてあげている》だけで、クライプさんが攻勢に移ったら即試合は終了するだろう。


「あの子、筋は良いけど粗が目立つわね……」


 お母さんが隣でぶつぶつ呟いている、最初の方からこんな感じだったから、お母さんも昔はそこそこ強い冒険者だったのかもしれない。


「おっちゃんのいうとおりだった」


「だろ? まあこの戦いは見知った冒険者ばっかりだったからな、予想もしやすかったぜ」


 おじさんがドヤ顔すると同時に、さっきの青年も倒されて第一組の試合は終了したようだ。



 続く第二組の試合も、おじさんが言うには「まだこの辺りの冒険者が多いな」とのこと。

私はこの辺りもなにも冒険者が戦っているのを見るのが初めてだからそれなりに楽しいけど、おじさん的にはとても退屈らしい。


「そういえば、まほうみない」


「それはそうよ、根っからの魔法使いならこの狭い空間で戦うのはかなり不利だし、魔法も戦闘に組み込めるほどの冒険者なら魔法を使わずに予選突破くらい楽勝よ」


「そうだな、少なくとも第一組だったら、そんな冒険者がいればさっきのクライプでもかなりの苦戦を強いられただろうよ」


「なにより、消耗品の珠玉(ジェム)は優勝まで使うと考えると割に合わなすぎるし 、魔法効果(エンチャント) の付いた装備品なんてそれこそ高級品過ぎて、持てるのは高ランクの冒険者くらいだろうしな」


「ふーん」


 お母さんの説明におじさんたちが頷く、確かに魔法使いと言えば後衛ってイメージだったから魔法使いが居ないのは納得だけど、魔法も使える剣士って結構レアなのね。


 なんて雑談をしているうちにあっさり第二組の試合は終了して、金髪に白いメッシュの入ったなんとなくチャラそうな冒険者が片方をあげて勝利のポーズを取っていた。


「あいつはCランクのケレスか、そんなにレベルの高い相手もいなかったし、まあ言っちまえばこの勝利は運だろうな」


「どう見ても本戦のボーナス枠だな。ケレスもまだ伸び代はあるが、大会中の成長は厳しいだろう」


 と、辛口の評価である。あんまり面白い戦いでもなかったから雑談しながら横目で見ていたけれど、確かに言いたい事がよくわかる戦いだった。



 第二組の面々も会場を出ると、第三組のメンバーがリング内に上がってくる。

私はどっちにしろ誰が誰だか知らないので、もはや解説役と化している冒険者マニアのおじさん二人の解説待ちだ。

っと思ったけど、参加者の中に目立つ赤い鎧が居る。


「あれ、きしだんのよろい?」


「そうだな、毎年数人は騎士様も参加するな」


「いいの?」


「というか、実践経験を積めるし訓練の延長みたいなもんだからな。だからといって全員参加するとそれはそれで酷い事になっちまうから、適当に選ばれた人が参加できるらしいぞ」


「ふーん、なるほど」


「ちなみに、騎士団長様は毎年の優勝者だし、優勝者特典で本戦からの出場が決まってるな」


 さすがは騎士団長って所か、でも本戦からの出場ってシード枠で出てくるのかな? 私が八組だから、一つの組に本戦参加者一人なのだとすれば、トーナメントだと一人余るし。


「この組は厄介だな」


「ああ、予想できん」


 だ、そうだ。


「なんで? おかあさんわかる?」


「そうね……自信はないけど、あの佇まいがしっかりしてる女性と黒いローブの人がかなり怪しいわね」


「おっ、姉さんいける口だね」


「これでも昔はBランク冒険者やってましたから、下位ですけどね」


「なるほどなぁ」


 と、お母さんとおじさんたちが会話しているうちに、お母さんに教えてもらった人物を眺めて見る。

 片方、佇まいのしっかりしている女性の方は東国風というかあれは絶対《浪人》だ、間違いない、背中の中程まである黒髪を一本に束ね、擦り切れた袴姿で腰に大小二本の刀を差している。

よく聞く絶対強いタイプのアレだ、そもそも普通に考えて武者修行の旅みたいな事をしている人が弱いわけないし。


 もう片方は、黒いフードを頭からすっぽり被った膝くらいまでのローブ姿の多分男性。

膝を曲げているのか腰が曲がっているのか、姿勢が低いのが気になる。イメージで表すなら、魔術師(ウィザード) と言うより暗殺者(アサシン)って感じかな。


 騎士の人も今までの参加者と比べると断然強そうだし、この勝負どうなるかわからないと言った冒険者マニアのおじさんたちの言葉にも頷ける。


 闘技場内が今までにない異様な空気に包まれる中、開始の合図が響き渡った。


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