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楯無明人/『槍使い』:ウィリアム・ベルシュタイン①

「私が相手になるわ」


「錬金術師の君が?」


「私では不服かしら?」



 カヤは魔杖を構える。


 ――魔杖レーヴァテイン。


 改めて言うまでもないが、この世界で最高峰の杖である。よくよく考えてみると、それを俺たちのパーティが所有してるってすげぇよな。



「ううん、僕の力を証明できるなら、一向に構わないよ。イスルギさん」


「今にその笑みを歪ませてあげるわ。準備は?」


「いつでも構わないよ」


「それじゃあ……こちらから行くわよ」



 カヤは右手を前に出し、詠唱と共に魔力を放出する。



「【操風術】」



 凍える様な風と共に辺り一面の雪が舞い上がり、視界が不明瞭となる。



「なんだ? 急に風が……」


「あれは風を操る術式です。カヤさんは、うひゃひゃ……んもう! 餌は後です!」



 服の中で暴れるウサギを鎮めるイリスさん。


 ウサギになりたい。



「イスルギさん、君はこの風で何をするつもりなのかな?」


「見ていれば分かるわ。もっとも……」



 ウィルの問いに対し、カヤが前に出していた右手の拳をぎゅっと握る。



「見えればの話、だけれどね」


「っ!?」



 次の瞬間、ウィルは反射的に真上に飛んだ。


 

「ん? なんであいつ飛んだんだ?」



 俺の疑問にナルが答える。



「あれは『風の鎖』っす」


「風の鎖?」


「はいっす。イリりんも言った様に【操風術】は風を操作するスキルっす。極めればああやって対象の拘束にも使えるんす」


「不可視の鎖ってことか。チートくせぇな」



 俺が感心していると、着地したウィルがカヤに言う。



「『風の鎖』とはなかなかだね。その様子だと『風の槍』も作れると思って良いのかな?」


「さぁどうでしょうね? 私を苦戦させれば出すかもね」



 不敵に笑みを浮かべるカヤ。



「流石は高名な方の娘。実力も申し分ない、か」



 ウィルは帽子を目深に被り直してから白銀の槍を構える。


 

「僕もそれに答えるとしようか……行くよっ!」


 

 力強く地面を蹴り、槍を真っ直ぐにカヤに向ける。



「猪突猛進ね、安易よ」


「安易? それはどうかな?」



 その突き攻撃に対しカヤは壁を出すだろう、この場にいる全員がそう思っていた。


 それがいつもの流れだったし、事実、途中まで詠唱していた。



「対物理障壁、アトモ……くっ!?」



 槍が直前に迫ったその瞬間。


 カヤは血相を変えて身を後方に翻し、槍の突き攻撃を躱した。


 当然、俺たちは不思議がる。


 いつもなら憮然とした態度で壁を出し、どんな攻撃であろうと漏れなく弾くのが錬金術師であるカヤのファイトスタイル。


 それなのにカヤはわざわざその攻撃を躱した。



「あれ? なんでカヤっちは壁を出さなかったんです?」


「出しても無意味だったからです」



 イリスさんがそう言った。



「それってどういうことです?」


「それがあの槍、スクラフィーガの能力……そうですよね?」



 イリスさんは自らが持つ『金色の杖』に向かって問いかけた。


 まるで、あの杖に意志でもあるかのようだ。



「今の判断は正解だったね。六賢者の血がそうさせたのかな?」


「……さぁ、どうかしらね」



 カヤの頬からは一筋の鮮血。


 カヤは袖でその血を拭い、反撃の魔術を詠唱する。



「【重力操作】……潰れていなさい」


「なっ!? くっ、足が……」



 ウィルが何かに押し潰される様にガクッと膝を突く。



「あなたを中心に半径1メートルの重力負荷を上げたわ。分かりよく言い直すと、今のあなたには自重の5倍の重みがかかっている」


「はぁ……はぁ……なるほど、5倍、ね」



 動くのもままならない彼にカヤが問いかける。



「さぁ、観念する?」


「ううん、まだまだ……こんな、重み……うおぉおお!」



 ウィルは白銀の槍を薙ぐ。


 ブンッ、と槍を振るったその瞬間、カヤの魔術が弾かれた。



「まさかっ!? 力技で!?」


「こんな重量、あの人の特訓に比べれば軽いものだよ」



 ウィルは再び槍をぴたりと構える。



「これで終わらせる! はっ!」



 ダッと地面を蹴り急速接近して来るウィルに対し、躱すのが間に合わないと判断したカヤは瞬時に壁を構築する。



「くっ、アトモスフィア!」


「貫け! スクラフィーガ!!」



 ウィルの突撃槍がカヤの壁にぶつかる。


 その時、俺は……いや、俺たちは初めて見た。



 ――カヤの防御壁が粉々に砕かれる所を。



 魔王の一撃すら容易く弾いて見せるほどの絶対防御、それが打ち砕かれたのだ。



 その衝撃で辺りの雪が舞い上がり視界不良になる。



「くっ……何も見えねぇ……!!」



 俺は悪い予感を胸に抱きながら視界が明瞭になるのを待った。



「……勝負ありですね」



 イリスさんが呟き、ナルが続く。



「はいっす。カヤっちの……勝ちっすね」


「え?」



 舞い上がった雪が全て舞い落ちる。


 そこには、槍を突き上げたウィルの背後で、杖を突きつけるカヤの姿。



「……僕の悪い癖だね」


「その様ね。勝利への確信が油断を生んだ……私の勝ちよ」



 両者は武器を納めた。



「僕の負けだ。君たちの仲間になれないのは残念だけど、僕は去るよ」


「待ちなさい」



 カヤはウィルを呼び止める。



「あなたの力は本物よ。パーティに加わることを許可するわ」



 こうして、俺たちに5人目の仲間が加わった。

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