シグルド/竜人部隊長カストル
武器庫で武器を回収し、屋敷を出ようとしたその時、けたたましい警報音が辺りに響き渡った。
「これは……!?」
「ふむ、わしらの行動はお見通しってわけじゃな」
エストが踵を返す。
「道を変えるぞ」
俺たちは地の利のあるエストに従った。
「この先が裏口じゃ。そこから出るぞ」
「まったく、お前はいつも騒ぎを持ち込むな、エスト」
その声と共に目の前の扉を塞ぐ様に1人の男が立ちはだかった。
「貴様は……あの時の」
そいつは俺たちを連行した竜人部隊の隊長の男だった。
その男に続くように武装した兵士が次々と現れ、俺たちは瞬く間に取り囲まれる。
「おいおい、またこの流れか? ったく、囲まれてばっかだぜ」
「うぅーむ、見つかってしまったか。相変わらず鼻はよく利くのぉ、カストルよ」
愚痴たリーヤに続くように、エストが口を開いた。
カストルと呼ばれた男がそれに返す。
「エスト、お前は小さい時から鬼ごとが好きだったな。決まって相手は弟のこの俺で、決まってこの扉から外に逃げていた。そして、決まってこの俺に捕まる。今回もな」
あの男がエストの弟?
「そこはいつも鍵が開いておるからな。まるで脱獄せいと言わんばかりじゃ」
「だとしても、もう少し静かに逃げれば良かったものの。ばれてしまっては元も子もない」
「隊長! それは!」
「ふむ、これは失言だったか」
カストルは右手を上げて部下に銃を構えさせた。
「さて、牢に戻って貰おうか。もっとも、己が力でこの窮地を脱することが出来れば話は別だが」
カストルは俺たちの顔を順番に見て、最後にエストを見た。
そして、微かに片頬を上げて微笑む。
まるで、エストに合図を送るかのように。
「シグルド」
エストが俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「この場を切り抜ける策はあるか?」
エストの問いに対し、俺を含めた全員が一斉に頷く。
「見ての通りだ」
「わっはは! 頼もしい限りじゃ。どれ、ひとつ見せてくれんか?」
即座にリーヤが腰の魔弓に手を添える。
「エスト、あたしらを試すってか?」
「有り体に言えば、そうじゃな」
「……良いぜ、乗ってやるよ。お前ら!」
リーヤが折り畳まれた魔弓を瞬時に展開した。
「あたしからやる! 準備しろ!」
リーヤの号令で各自が構えをとった。
「仕事だぜ。起きろ、ダーインスレイヴ!」
その合図で魔力の弦が出現し、同時にリーヤは天井に向けて弓を引き絞った。
弓を引き絞るのと同時に『魔力の矢』が顕現する。
「ロゼ!」
「うん! いつでも良いよ!」
「よし、撃つぜ!」
リーヤの放った矢が天井に突き刺さり、爆発した。
その爆発により大量の瓦礫が降り注ぐ。
「次は私の番! 【重力制御】、よいしょ!」
ローゼリアが魔杖を振る動きに合わせて瓦礫が落下の方向を変え、俺たちを取り囲む兵士の眼前に落下、その進路を塞いだ。
「ほぉ、ナイスな連携じゃな」
「まだまだ! 後詰はお願いね、ロウリィちゃん!」
「任されました。【物質転移】!」
ロウリィは鞄から転移させた丸い玉を握って振り被る。
「目が沁みたら、すみません!」
ロウリィがその玉を地面に叩きつけた瞬間、白い煙が辺りを覆い尽くした。
「煙玉か!? 衛兵達よ、接近し確保しろ!」
「げほっ……! い、岩が邪魔で近づけません!」
「やってくれるな。これでは捕らえられんか」
逃げるなら今のうちか。
「ロウリィ」
「短剣ですよね? 今送りました」
ロウリィの転移術式により俺の手に短剣が現れる。
「よし、お前ら俺に掴まれ」
全員が俺に掴まるのと同時に俺は短剣を窓の外に放り投げる。
「飛ぶぞ、舌を噛むなよ。……【配置転換】」
次の瞬間、風景が外に切り替わる。
「なんじゃ!? 一瞬にして外に!?」
「『外に投げた短剣』と『俺たちの位置』を入れ替えた。そういうスキルだ」
「瞬間移動というやつじゃな?」
「範囲は限られるがな。さぁ行くぞ」
無事脱獄に成功したかに思われたその時、禍々しい気配の接近を感じた。
悪寒にも似たこの感覚。
「なっ……この気配は……」
「どうしたのシグルド?」
「準魔剣の気配だ。近いぞ!」
次の瞬間、数十メートル先に巨大な魔力の渦が出現した。
「あれは……転移門か? なぜここに……」
そして、その転移門と思しき渦から魔物の軍勢が姿を表した。




