楯無明人/スライムに敗北しました
広大な草原、それはRPGの定番。
草木が生い茂る中、生命の息吹を感じながら闊歩する。爽やかな風が頬を撫ぜる。
あぁ、異世界最高。
「何をにやにやしながら歩いているの? 普通に気持ちが悪いわ」
前言撤回。こいつがいなかったら最高なのに。
「もっと緊張感を持ちなさい。今のあなたじゃ、あのスライムが現れたとしてもどうすることもできないのよ」
腕を組んで偉そうに告げるカヤ。微妙にスタイルが良いのがむかつく。
「んなことやってみないと分からねぇだろうが。てかスライムにも勝てないは流石に盛ってるだろ」
「盛っていないわ。試してみる? ほら、あそこ」
カヤが顎で指した草むらがガサガサっと右へ左へ数度揺れた後……そいつは姿を現した。
ゼリー状の青い塊。
RPG冒頭出現率ナンバー1『スライム』だ。
「噂をすれば何とやらか!」
俺は鞄から初期武器である『紫の石刀』を取り出し、それっぽく体の前で立てて構える。
「やる気なの?」
「お前に俺の力を見せる良い機会だからな! さくっと倒して今までの罵詈雑言の謝罪をさせてやる」
「やる気は十分みたいね。それじゃあ、あなたがやられてしまう前におさらいをしましょう」
カヤはコールと宣言してこの世界のど定番『念写の巻物』を取り出す。
って、俺がやられるのは確定なんですか。
「この男のステータスを写し出して」
巻物に俺のステータスが表示される。相変わらず速力がちょっとだけ高いくらいのオール一桁。
「対して、これがあのスライムのステータス」
一方でスライムのステータスもオール一桁。互角なのがチョイ悲しくなるが、負けは無いだろう。
「カヤ、やれる気がしてきた!」
「呆れるを通り越して哀れね。じゃあ見ててあげるから頑張りなさい」
カヤは近くの岩場に腰かけ、鞄から水筒を取り出して水を飲もうとしている。ふっ、俺の活躍を見て盛大に吹き出すが良いさ。
「さてスライム、吠え面かかせてやるぜ。顔がどこなのか分かんねぇけどな! うぉおおおお!!」
駆けた勢いを上乗せするように振り上げた刃をまっすぐに、振り降ろす!!
――ぽにょん。
えらく間抜けな音が響いた。
「……は? なんかの間違いか? もういっちょ……そりゃ!」
――ぷにょん。
またしても間抜けな音が響いた。
「な、なんてこった……刃が通らないだと!?」
呑気に休憩中のカヤが俺に言う。
「ふぅー……で、終わった? 私の謝罪は必要かしら?」
あのにやついた顔がマジでムカつく。
「どうなってんだよ! ダメージ通ってる感じがしなんだが!?」
「だって通ってないもの」
「なんで!?」
「理由はいくつもあるわ。まず1つ目、それはあなたの攻撃力がスライムの防御力に劣っていること」
確かにさっきのステータスを比較してみた所、俺の力が『5』に対し、スライムの防御力は『6』。
僅かに『1』負けていた。
「たった1だけだぞ!?」
「その1が大事なのよ。この世界は残酷なの。パラメーターが高い者の方が勝つ。それだけの話よ」
んな馬鹿な……!?
「じゃあステータスで勝ち負けも全部決まっちまうのか!?」
「いいえ、そうではないわ。次に2つ目、あなたのその武器が弱すぎるのよ」
俺は手に握る紫の石刀に視線を落とす。
「普通、武器を装備すれば大なり小なり攻撃力は増すものよ。でもあなたのステータスは増えていない。つまり、その紫の石刀に殺傷能力は皆無。素手で戦っているのとなんら変わらないわ」
「まじかよ!? 見た目に違わずこいつ使えねぇじゃねぇか!」
すぐそこの海に投げてしまいそうになる気持ちを静める。
「最後に3つ目、それは相手のスキルにあるわ」
カヤは再び巻物を取り出し、俺にそれを見せた。
【習得スキル】
スライムボディ:物理攻撃を通しにくくする柔らかボディ。
「物理攻撃が通りにくい!?」
「そうよ。ステータスでも負けていて、仕掛けているのが物理攻撃で、あなた自身にそれを打開するスキルがない。結論、あなたは死ぬ。以上」
ぴしゃりと言い放ち水筒の水をぐびぐびと飲むカヤ。
何かを言い返してやりたいが、これだけ具体的な証拠を出されると、ぐぅの音も出ない。
「それじゃあ、スライムは放っておいて、当初の目的通りエインヘルに向かいましょうか」
スライムも倒せない俺が魔王を討伐?
出来るわけないだろ常識的に考えて。




