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ローゼリア/不意の死刑宣告からの

 転移早々、地下牢に繋がれた私たち4人。


 牢獄で出会った女性、エスト・カエストスと話し込んでいると武装した兵隊が下りてきて書状を取り出した。



「明日の早朝、貴様らを処刑する」


「「「はぁああああ!?」」」



 私たちに唐突な死刑宣告が下され、私とリーヤ、ロウリィちゃんの叫び声が揃う。



「いまなんて!?」


「死刑っつったかお前!?」


「聞き間違いですよね!? そうですよね!?」



 私たちの訴えはさも無かったかの様な扱いを受け、その兵士は言葉を続ける。



「貴様らはこのヘルメスに対し重大な罪を犯した。よって処刑する」


「いやいや待てよ!」



 リーヤが鉄柵を掴んで反論する。



「あたしらが何したってんだ!? ただ転移してきただけだぞ!?」


「転移? ふん、しらばっくれるか。侵略の間違いであろう?」


「侵略だぁ!? てめぇこそ何を」


「これは預言者様による決定事項だ。明日の朝まで自らの罪を悔い改めるが良い」



 兵士は聞く耳持たんといった様子で私たちに背を向けた。



「待て」



 呼び止めたのはエスト・カエストス。



「その決定、カストルは承知の上か?」


「無論だ。処刑の日時を明日と決めたのもカストル様だ」


「……なるほど」



 そして兵士は出て行った。



「ちょ、ちょっとどうする!? 私たちこのままじゃ無実の罪で殺されるよ!?」


「こんなのあんまりです! まだやりたいこと何も出来てないのに!!」


「ロウリィのやりたいことってどうせシグルド柄みだろ?」


「ち、ちち、ちが……ちがぁ……」


「顔赤いぞ?」


「後で絶対ぶん殴ります!!」



 あの2人ほんと仲良しだなぁ。



「さて困った。実に困ったのぉ」



 エスト・カエストスは飄々としながら天を仰ぐ。



「身に覚えのない罪で死刑とは、浮かばれんぞ」


「ねぇ?」



 私はエスト・カエストスに声をかけた。



「ん?」


「私たちがこうなってる原因、預言者って何者?」


「ただの若い小娘じゃよ。未来のことが分かるとか胡散臭いことを言うガキじゃ」


「未来のことが分かる? 予測系スキル持ち?」


「わしには分からん。が、奴はこの里が魔物に襲われた直後に自らを救世主と名乗り現れおった。その後、奴は魔物の襲来を悉く予見し、里を守っておる」


「中身だけ聞けば良い話だね」


「うむ、良すぎるくらいじゃ。次第に里の者はその小娘に心酔していった。気付けば里の中枢を担うまでになっておるわ」



 エスト・カエストスの言葉にリーヤが続く。



「あたしらがこんなことになってんのはその預言者のせいってことか」


「うむ。わしの場合は『魔物は半竜人に吸い寄せられている』とお告げが出てな、この通りじゃ。お前さん達もおおかた、そんな感じじゃろ」


「それで侵略者扱いか、ふざけてやがんな」


「エストと言ったな? 半竜人とは?」



 そう問うたのはシグルドだ。



「竜人と人間の間に生まれた子の通称じゃよ。人間との交流の少ないヘルメスでは貴重な存在でな。わししかおらん」


「それが今は悪魔の手先扱いか、悲しいな」


「まったくじゃよ。なぁおぬし、シグルドと呼ばれておったな?」


「あぁ。シグルド・オーレリアだ」


「なぁシグルド、わしに作戦がある。乗るか?」



 彼女のその表情は至って真剣そのものであるが、どこかこの状況を楽しんでいる様にも見受けられる。




「悪い作戦じゃなさそうだな」


「わはは! 当たりじゃ。よく聞け」



 彼女は私たちを順番に見てから静かにこう言った。



「脱獄するぞ」


「だ、だつっ!?」



 私は咄嗟に自分の口を塞ぎ、小さな声で彼女に言う。



「ちょ、脱獄って本気?」


「もちろんじゃ。お前らもここで死にとうないじゃろ?」


「まぁ確かに死にたくはないけどさ、無実の罪に対して罪の上塗りって嫌じゃない?」


「上塗りもなにも、はなっから無罪ならその後何をしても無罪じゃよ」


「言ってること滅茶苦茶じゃない!? シグルドも乗っかる訳じゃないよね!?」



 正面の牢にいるシグルドを見ると彼は右腕に魔力を込めて鍵をいじっていた。



「【技能創造】……【解錠】」



 カチン、と小さな音が鳴り牢屋が静かに開く。



「ふむ、やれるものだな。やはりこのスキルは伊達ではない」


「あんたなにやってんの!?」


「スキルで開くのを確認していた。後は決行のタイミングだな」



 シグルドはエストに向き直る。



「脱獄はいつにする? 夜が深まってからが適切だと考えるが」



 彼女はシグルドのその言葉に、とんとん拍子で話が進んでいるのが信じられないといった様子できょとんとしている。



「おぬし、何の疑問にも思わんのか? わしが大罪人だったらどうするつもりじゃ?」



 それにシグルドは端的に答える。



「美人の言うことには大人しく従え……これは俺の戦友の言葉だ」



 シグルドの戦友……キールという人物のことだろう。


 聖剣使いのアルトリウスに瓜二つで、どうしようもなく女好きな人だったらしい。



「その流れじゃと、わしが美人だと言っておるのか?」


「あぁそうだ。だからお前の作戦に乗ろう」


「ぷっ……く、くくっ」



 エストは俯いて肩を揺らす。



「わはは! よくも臆面となく……イィーヒッヒ……あっはは!!」



 引き笑いをしながら身を悶えさせる彼女。



「よいよい、気に入ったぞシグルド・オーレリア。わしはお前みたいなイカれたやつが大好きじゃ」



 その言葉にロウリィちゃんが口をあんぐりと開いて驚き、リーヤがけらけらと笑っていた。



「さて、決行のタイミングじゃが」



 エストによる閑話休題。



「深夜2時が良いじゃろう。それから2時間は見回りが来ないからの。脱獄がバレるまでの間に逃げ仰せられるじゃろうて」


「了解だ。死刑執行まで猶予があって助かったな」


「その点、あいつには感謝せんとならんのぉ」


「あいつ?」


「いや、こっちの話じゃ」



 てなわけで、てきぱきと脱獄計画が決まった。


 余りのてきぱき加減に不安を覚えざるを得ない。


 脱獄ってそんな簡単にいくもんかなぁ?

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