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シグルド/繋がれた牢の中で

本作から第4章が始まります。

第3の大陸を舞台にアキトとシグルド両パーティが冒険します。

例によって最初はシグルド編からのスタートです。

 極寒の大地キリアスに転移して早々、俺達は武装した集団に取り囲まれた。


 隊長らしき男が俺たちに言う。



「着いて来い」



 そのまま雪山を登ると、隠れ里の様な場所に辿り着く。


 なぎ倒された家が散見されるなど、所々に破壊活動の跡が見られ、家の中から頭の両脇から2本の角を生やした人間がこちらに畏怖の眼差しを向けている。



「貴様らには牢に入って貰う」



 そこは里の中央に位置する大きな屋敷の地下牢だ。



「話し合いもせずに牢に入れと? 少々乱雑な扱いだな」


「貴様らがあの悪魔の手先でないと分かり次第、この非礼を詫びよう。『疑わしきは罰する』それがこのヘルメスの掟だ、悪く思うな」



 ロウリィが俺の後ろで小さな声で言う。



「ヘルメスは竜人の隠れ里です」


「竜人?」


「はい。その身体に竜の力を宿した一族ですね」


「そこ、無駄口は叩くな!」


「わわ、怒られちゃいました……ではまた後で」



 俺達は地下へと誘われ、武器を取り上げられた挙句、そのままそれぞれの独房に入れられた。


 明かりは2本の松明のみで心もとない。



「しばらくここで大人しくしていろ。じきに呼びに来る」



 それだけを言い残して去って行く男の後ろ姿にリーヤが怒号を飛ばす。



「ふっざけんな! ぶち込まれた理由くらい言ってけよ!」



 鉄柵を蹴り飛ばすリーヤに対しローゼリアがその場にしゃがみながら語りかけた。



「無駄だよ、私たち人間扱いされてないっぽいし。てか床つめたぁ……」



 外が極寒の大地ということもあり、壁と床、更には鉄柵に至るまで、全てが冷え切っている。



「でも真面目な話、なんで私たちこんな扱い受けてるわけ? そりゃ勝手に転移したのは謝るけどさー、ちょっと酷過ぎない?」


「ここに転移したのだって、故意じゃないですもんね」


「だよねー? それなのにまるで悪者扱いだもん。へこむわぁー……つめたっ!」



 鉄柵にもたれ、余りの冷たさに即座に離れるローゼリア。


 それにしても、オーレリアでは王だったこの俺が牢屋か……想像もしていなかったな。



「シグルド、なんでにやけてんだ?」



 不意にリーヤにそう指摘された。



「こんな状況の中で笑えるなんて、もしかしてお前あっち系なのか?」



 ……あっち系?



「リーヤ、あっち系とは?」


「はぁ? それを女のあたしに聞くなよ。ロウリィ、解説頼むわ」


「わたわた、私ですかっ!? 私だって女ですっ!!」



 ロウリィが薄暗い中でも分かるくらい顔を赤らめた。



「なんで私なんですか!? 未成年です! 大人のリーヤさんが解説してください!!」


「ほぉ? 物知りアイテムマスターともあろうお方が解説できないと? あ、さては知らないんだな?」


「し、し、しぃ……!! 知ってますとも!!」



 上手く乗せられたロウリィは、こちらを向いて俯き加減でこう呟く。



「あ、あの……世の中には過酷な状況であるほど、か、かか、快楽を覚える人種が……いるんですよ」


「あー言っちまった。はずかしー」


「ぶっ飛ばしますよリーヤさん!!」



 鉄柵を挟んで喧嘩を始めた2人を置いといて、俺はローゼリアと会話を始める。



「ねぇ、シグルド。あの人達、私たちを『悪魔の手先』とか言ってたよね? この里の破壊の跡もその『悪魔』がやったのかな?」


「そう考えるのが妥当だろう。そして俺たちはその悪魔の仲間入りを果たした訳だ。勘違いも甚だしいがな」


「まったくだよね。とにかく今は待とっか」


 

 ――それからどれくらいの時間が経っただろう。


 いくら待てども、奴らが再び降りてくる気配はない。



「もう外は夜になっちゃってますよね? お腹が空きました……飴しか持ってないしなぁ」



 ロウリィがそう言い終えた瞬間、ギュルルゥという大きな音が鳴る。


 それは、地下牢全体に広がるほどの腹の虫の音だった。



「ロウリィちゃん、そこまでお腹空いてんの?」


「ちっ! 違います!! 私じゃないです!!」



 手を大きく振って反論するロウリィ。



「恥ずかしがることないんだぜ? シグルドの前だからって」


「だから違うって言ってるじゃないですか! あとシグルドさんは関係ありません!! というか、そういうリーヤさんが一番怪しいです!!」


「あ? あたしじゃねぇよ」


「じゃあ誰だって言うんですか!?」



「すまん、わしじゃ」




「あーあなたですか……って誰!?」



 その声が聞こえたのは俺の隣の牢だった。


 今の今までそこに人がいることすら気付かなかった。



「いや、三日三晩なんにも食べとらんでな。申し訳ない」



 まるで老婆の様な口調だが、声質は若い女性のそれだ。


 その声の方を見ると、そこには両手を鉄柵に繋がれた女性がいた。


 薄暗くてよく見えないが、ローゼリアやリーヤとそう歳は変わらない様に見える。



「い、いつの間にそこに?」



 ローゼリアの問いにその女性はギュルルと腹の虫を鳴らしながら答える。



「おっとすまん。いつからって初めからじゃよ」


「うっそ、全然気付かなかった……」


「わっはっは、わしは気配を消すのが得意でな……おっとまた腹が鳴った」



 またしてもギュルルという大きな音が牢屋に響く。三日三晩何も食べなければあぁなるのは頷ける。



「うぅむ、このままでは飢え死しそうじゃ」


「こんな飴玉ならありますけど、どうですか?」



 ロウリィが服から飴玉を一粒取り出した。



「おぉ!? くれるのか!? 遠慮なく貰おうか!」



 両手を繋がれた彼女は口を大きく開けて待機する。



「あ、でもどうやってあげれば良いか……」


「貸せ、あたしが投げ入れる」



 リーヤがロウリィの手から飴を奪い、牢を跨いだ先の彼女の口に放り入れた。



「んむ!? 頬が落ちそうな甘さじゃのぉ! 一気に好物の極みに到達したわ」



 ご満悦を絵に描いた様な表情だ。


 同時に松明の明かりに照らされ、八重歯が特徴的な女性であることが確認できた。



「いやぁー助かったぞ。これでもう3日は生きられそうじゃ」


「なら良かったです。それで、お姉さんはなんでここに捕まってるんですか?」


「わしか? 悪魔の手先だと言われて捕まっておる。もちろん、無実じゃが」


「なら俺たちと一緒だな」



 女性は深く頷く。



「うむ。ほんと、あいつは頭が固くて叶わん。わしは無実じゃと言ったのに。どれもこれも、あの預言者の戯言のせいじゃな」


「あいつ? 預言者?」


「あぁ、詳しい話はまた今度じゃな……ほれ、来たぞ」



 彼女が視線を向けたのはこの地下牢の入り口。


 ガシャガシャという足音と共に何名かの武装した兵士が下りて来た。



「ようやく、わしとおぬしらの疑いを晴らす機会が来たのかもしれんな」


「シグルド・オーレリア一向、並びにエスト・カエストスに告ぐ」



 その兵隊は取り出した書状を読み上げた。



「明日の早朝、貴様らを処刑する」


「「「はぁああああ!?」」」



 俺たちに唐突な死刑宣告が下された。



【シグルド編】第4章……開幕。

お気に入り登録して下さっている方々、本当に有難う御座います。

これからもご期待に添えるように書いていきますので今後とも宜しくお願い致します!

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