楯無明人/さらばカルナス、ようこそキリアス
「それにしても、イリスさんの回復魔術はすごいわね」
カルナスを目指す中、カヤが俺の右腕に視線を向けながら言った。
「あれだけ完膚なきまでに粉々に砕かれた腕があっという間に治るなんてね。それはもう、かんっぷなきまでに、こっなごなに」
「慎重に言い直さんで良い。右腕が痛くなるだろが」
死ぬほど痛かったんだからな!
「わたくしは聖女。プリースト系統の最上位職に位置します。それにナルさんが持っていた薬草が良いブースターとなってくれました」
イリスさんのその言葉にナルがピースサインをしながら返す。
「【薬草調合術】も師匠のお墨付きっす! イリりんの回復魔術が合わされば大抵の傷は治せるっす」
「ふふ、常々このパーティは上手く纏まっていると思うわ」
カヤが珍しく上機嫌だ。マドカに勝てたのがそんなに嬉しかったんかね。
「ねぇアキト?」
カヤは微笑みながら俺を見る。
「あ? 痛々しい言葉なら聞かんぞ」
「まざ聞きなさい。私ね、このパーティを見ているとよくこう思うのよ。どんな人間にも、意味はあるって。無意味な人間なんてこの世にいないのよ。誰にでも役割はあるものよ」
……無意味な人間なんかいない、か。
「へぇ、お前の言葉に心打たれたのは初めてだな」
「そう? いつも私の語る錬金術の理論に痺れていたように見えていたけど?」
それってあのくそ退屈な長話だろ? 痺れるもんかよ。
「お前、目悪いんじゃね? いつも眼鏡かけてろよ」
「本性を現したわね眼鏡フェチ。断固拒否するわ。あなたの好みに合わせる道理は無いもの」
「話を変な方向に膨らませるなっての!」
「ふ、ふふふ……ぷっくく」
「……ったく」
こいつ、こんな風にも笑うんだな。
「さぁ、そろそろ転移門が開くわ。行きましょうか」
カルナスの町を突き進み、転移門の前に並ぶ。
「次の大陸はキリアス。極寒の大陸よ」
「キリアス? なんかどっかで聞いたな」
イリスさんが答える。
「決闘大会でナルさんが融かしていた氷の産地として紹介されていましたね」
「グリヴァースで最低気温を叩き出す大陸っす。防寒装備無しだと数日もたないっすね」
そう言いながらナルは鞄から防寒装備一式を取り出す。
防寒着、カイロらしきもの、ストック人数分だ。
「さすがはナルさん、準備万端ですね」
「これも師匠の教えの賜物っす! 転移したら配布するっす。さぁ、れっつごー!」
一斉に転移する俺たち。
転移した瞬間にピリッとした寒さに包まれる。
「うっおおー……まじさみぃ」
眼前には雪国の山村の様な風景。山間ということもあり冷たい風が吹いている。
「ナルちゃん」
「はいっす! 風を引いてしまう前に私の防寒グッズを」
「君たち、ちょっと良いかな?」
俺たちの背後から声が聞こえた。
振り返ると見覚えのある男がそこにいた。
「お前確か……」
帽子を目深に被った細身の美男子。決勝戦の前、俺に話しかけてきた奴だ。あの時とは異なり全身を覆うマントを羽織っている。
「ウィリアム、だったよな?」
「あぁ、覚えてくれて嬉しいよ」
ナルがちょんちょんと俺をつつく。
「誰っすか?」
「あぁこいつは」
俺の言葉を遮ってウィリアムは自己紹介を始める。
「僕の名前はウィリアム・ベルシュタイン。ウィルで良いよ」
にこっと微笑むウィル。中性的な顔立ちをしているからか、ちょっとドキッとしちまったじゃねぇか。落ち着け俺。
「それでウィリアム、私たちに何か用があるのかしら?」
カヤの問いに対しウィルはその人懐っこい笑顔を即座に崩し、真剣な面持ちでこう言った。
「僕を君たちの仲間に加えて欲しいんだ」
……はい?
【アキト編】第3章後半……終
チータレ第3章は本作で終了となります。
外伝と設定資料を挟んで次回から4章が始まります。
囚われたシグルド達の物語からスタートです。
更新は数日後になると思いますので、宜しくお願い致しますm(_ _)m




