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楯無明人/血の覚醒

 

『アキト』



 俺を呼ぶ男の声。


 ナルとの魔法石採掘の時や、カナル山でトカゲに襲われた時に聞こえた声と同じ声。



『アキト、お前には苦労をかけた』



 その男の声は俺に詫びた。



「誰だか知んないが、俺が自分で歩んだ道だっての。謝られる筋合いはねぇよ」


『そうじゃない……そうじゃないんだ』



 男は言い淀む。



『アキト、お前はこうなる運命だったのかもしれない』


「は?」



『いずれグリヴァースに召喚され異世界を冒険する……これはお前の定めだったのかも知れない』



 言っていることがよく分からない。



「なぁ、あんた何言って……」


『聞け、アキト』



 男は再び俺の名前を呼び、話題を変える。



『マギステルにも、俺の力の残滓は残っている。俺の力を使え』


「あんたの、力?」


『俺の剣を取れ。力を求めろ。その剣は必ずお前の思いに応えてくれる』


「あんたの、剣? それって!」


『アキト。お前は決して、無意味じゃない。お前が生を受けた意味は必ずある。それを示せ、いまここで』


「俺の……生まれた意味……」


『俺たちはずっとお前を見守っているぞ、アキト』




 どくん、と心臓が跳ねる。




「うぉおおあぁああ!!」



 俺の叫び声を聞いてモルドレッドが槍を振り下ろす手の動きを止めた。



「ナンダ……コレハ……!?」


「あぁあああああ!!」


 

 右腕は砕かれている。動くのは左手と両足。


 だが、それで十分だ!!



「英雄王の剣! 俺の手に戻れ!!」



 俺は左手を地面に転がる剣にかざすと、短剣は吸い寄せられるように俺の手に納まる。



「よし! 今度こそ出ろよ……光の刃ぁ!!」



 ヴゥンと短剣の刃先から真っ直ぐに光の刃が伸びる。片手用直剣『英雄王の光剣』、これならやれる!!



「ソノヒカリハ、ナンダ!?」


「せぁっ!!」



 俺は左手を振るい、光剣で魔槍を弾き飛ばす。モルドレッドの手を離れ、宙を舞う魔槍。



「バカナ!? ナゼ『重撃』ガハツドウシナイ!?」


「知んねぇよそんなの! はぁああっ!」



 モルドレッドの鎧に光剣の切っ先がぶつかる。切っ先がわずかに鎧に食い込んでいる。



「【斥力装甲】モ、ハツドウシナイダト!?」


「突き刺されぇえええ!!」



 俺はグッと突き刺す力を強める。それに対しモルドレッドは両手で俺の左手を掴む。



「ヤラセナイ!」


「やってやる!! お前を倒す! 絶対に!! 俺の……俺たちの力で!!」



 手負いの俺の膂力と、大男の膂力。流石に分が悪く、少しずつ光剣を引き抜かれていく。



「オオオオォ!!」


「あぁああああ!! 刺されぇえええ!!」



 その時、パチッと俺の光剣から火花が散る。


 この力には覚えがある。


 あの時、俺の指が爆発した力……【火の心得】!


 力を貸せよ! その為のスキルだろうが!!



「光剣よ……!! 爆ぜろぉお!!」



 光剣の切っ先がキラッと光った後、轟音と共に強烈な爆炎を放った。その衝撃でモルドレッドの腕が離れ、のけ反る。



「ナッ!?」


「ここだぁあああ!!」



 目一杯に左手を伸ばし、地面を蹴り、光剣をモルドレッドの腹に突き立てる。



「グハッ!?」



 切っ先は鎧を貫通し、モルドレッドの体内に到達した。



「はぁ……はぁ……! まだ、やるか?」


「ア、アタリマエダ。オレハ……マドカノユメヲ、カナエテ、カエルンダ!!」


「良いぜ、仕切り直しといこうか!!」



「降参ですわ!!」



 観客席から聞こえた甲高い声。


 声の主はマドカだった。



「モルドレッドの鎧には傷が……ぐすっ……ありますわ」



 マドカは涙しながら言葉を紡ぐ。



「だから、私たちの負けですわ」



 しんと静まり返る闘技場。



「マドカ……スマナイ、オレハ……」


「モルドレッド、行きますわよ」



 マドカは踵を返して観客の中に消えて行った。



「……アキト、トイッタナ?」


「あぁ」


「ツギハ、カツ」


「次も負けねぇよ」



 モルドレッドは魔槍を拾い、闘技場から去って行った。



「この死闘の勝者は……タテナシ・アキト!!」



 主催者のその言葉を聞いて安堵した俺は、力無くその場に倒れた。

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