ローゼリア/出征
「みんな! 急いで! 近くに怪我人がいたら教えて!」
私は町の入り口で避難誘導に努める。
「ロゼちゃん!」
ギルドの受付嬢のシルフィーが私に駆け寄る。
「東側の避難、完了したよ! 怪我人の手当ても町にいたプリースト達にお願いしたから大丈夫だと思う」
「わかった、ありがとう。私たちも逃げないとね」
町を脱出し、海から離れるように逃げているとシルフィーが私に言う。
「ねぇロゼちゃん! あの黒い竜止めなくて良いの!? 私とロゼちゃんならきっと」
「リーヤがいればあるいはって感じだけど2人だとちょっと大変だよ」
その時、背後で轟音が鳴った。
「シグルド!?」
反射的に彼の名を呼びながら振り向くと、空を真っ二つに割るような火柱が目に留まった。
「ろ、ロゼちゃん! な、なにあれ!?」
「分かんないよ! でも私行かないと!」
「行くって、まさかあそこに!? 危ないって!」
「それでも行くの!」
私はシルフィーをその場に残して町へと引き返す。
「はぁ……はぁ……なに、あれ?」
眼前の海洋の数キロ先に巨大な灰色の靄の様な物が見えた。その靄は風は吹くとともに霧散し、跡形も無く消える。
「避難しろと言ったはずだが?」
「わぁっ!?」
慌てて後ろを振り向く。
「シグルド!? だ、大丈夫!? てかあんた、ヨルムンガルドに向かっていったんじゃ……」
「あぁ、倒してきた」
「たお……した?」
私は再び沖の方へと視線を向ける。
騒動が起きる前となんら変わらない凪いだ海。変わっていることがあるとすればシグルドが【大地掌握】のスキルで作った細い足場が出来ていること。
その事実が今までの一連の出来事が夢幻ではないことを証明している。
「ほんとに倒しちゃったの? あんな化け物を」
「あぁ、【灰燼】の炎で燃やしておいた」
「あの化け物を燃やした!? どうやって!? あんなに頑丈そうな鱗、簡単に燃えるわけ」
「【技能創造】、この力を使った」
――【技能創造】
自分が思い描くスキルを、自由に創造するスキル。あの大召喚士レミューリア様のみが持ち得たと言われる【大地掌握】すらもその例外ではない。
威力、汎用性、共に最強なんて言葉では片付かない無敵のユニークスキル。
「ローゼリア?」
「え、な、なに?」
「シルフィーが呼んでいるぞ」
「ロゼちゃーん!!」
遠くで手を振っているシルフィー。その周りには避難していた他の人たちもいる。
「竜の気配が消えたから戻って来たのー! 倒したってことで良いよねー?」
私はそれに手を振って応える。
「みんな、嬉しそうだね」
「あぁ、やはり悪くない。平和が一番だ」
シグルドが小さな声でそう呟いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、これがシグルドさんの冒険者手形だよ」
シルフィーがシグルドに薄いカードを手渡す。
「やったねシグルド!」
シグルドはシルフィーから冒険者手形を受け取り、不思議そうな表情をする。
「良いのか? 審査の途中だったのだろう?」
「良いも何も、あなたは町を救った英雄ですから。審査をするまでもありませんよ。これはこの場にいる人たちの総意です」
「そうか。では、有難く頂こう」
シグルドは冒険者手形を先ほど買い揃えたばかりの軽装鎧の懐にしまい込む。
「さて、ローゼリア」
「うん?」
「俺がこの世界ですべきこと、それは世界を救うこと、そう言ったよな?」
「うん、言ったよ?」
シグルドはギルドの入口へと体を向ける。
「では、救いに行こうか、世界を」
「へ? 具体的になにすんのか分かってんの?」
「困った人たちを助ける。それがこの世界でやるべきことだと理解した」
「いや間違ってないんだけど、拡大解釈が過ぎるというか」
「では行こうか」
「あ! ちょっと! 私たちがやらないといけないのは準魔剣の収集だって! 勝手にどっか行くなぁ!」
聞いているのかいないのか、すたすたとギルドを出て行ってしまうシグルド。
「なんかロゼちゃんのパートナーに向いてるよね、シグルドさん」
「それ褒めてる? 褒めてるんだよね!?」
私とシグルドの旅はここから始まった。
まずは仲間を集めないと。
最初はそうだな……やっぱアイテムマスターがいいかな。




