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楯無明人/カヤとマドカ①

「いやー仕事したっす」



 一汗かいたと言わんばかりに右手で額を拭うナル。



「お疲れ様です。凄い火柱でしたね」


「えっへへ、あれくらいは造作もないっす」


「それにしてもナルちゃんは知恵が回るのね。流石はロウリィさんの弟子だけあるわ」


「それほどでもぉ」



 とナルがデレデレに喜んでいる中、あの煩わしい声が聞こえてきた。



「オォーッホッホ!! まさかあなた達もここまで上がって来るとはね」



 イスルギ・マドカだ。隣には鎧の大男、モルドレッドもいる。



「あなた達も、というと、マドカも勝ち進めた様ね。ナルちゃんの真似事をして」


「あ、あれはうちの運搬者もやろうとしていましたわ!! たまたまそちらのちんちくりんが先に点火しただけですわ!」


「まぁまぁ、お二人とも落ち着くっす」



 喧嘩中の2人の間に、元凶のちんちくりんが仲裁に入る。どんな構図だ。


 マドカはひらっとマントを翻し、俺たちに背を向ける。



「最後に優勝するのはこの私、イスルギ・マドカのパーティーですわ! 行きますわよ、モルドレッド」



 モルドレッドは静かに頷き、マドカと共に去って行った。



「あの鎧の大男……やはり只者ではないですね」



 イリスさんがその去りゆく背中を見て言った。彼女の瞳は『金色』に変わっている。



「イリスさん、目の色が……!?」


「はい。わたくしの眼は魔に反応しますから。あのモルドレッドという男は何らかの魔の力を行使できるということでしょう。それもとても強大な……。もしかして彼はあの武器のどれかを」



 主催者のアナウンスがイリスさんの言葉を遮る。



「この決闘大会もいよいよ佳境となって参りました! 残されたチームは4チーム。この中で魔杖を手にするのは誰になるのでしょうか!?」



 佳境ということもあり、観客も主催者もヒートアップしている。



「そして次なる競技ですが『魔法力』を競って頂きます」


「魔法力か……」



 となると、うちのパーティーでは2択。



「体が鈍ってしまいそうなの、私に行かせてくれるかしら?」



 カヤが首を鳴らし、腕を回しながら名乗りを上げる。



「カヤさん、頑張ってくださいね!」


「カヤっち、応援してるっす!」


「えぇ、行ってくるわ」



 カヤは闘技場の入口へ歩み始め、俺とすれ違い様に、



「絶対に勝って来るわ」



 と言い残して去って行った。絶対勝つって? すげぇ自信だな。


 

「よぉお前ら、ここまで勝ち上がるとは大したもんだな」



 カヤと入れ替わりでリーヤさんが上の席からぴょんぴょん飛び降りてきた。六賢者の彼女も今やレコンの長、本来なら最上部のVIP席での観戦のはずなのだが。



「退屈だあんな場所。頭かてぇじじいばっかでよ」



 おぉ……なんという言い草。



「それで、次はカヤの番か?」


「はいっす! 意気揚々と降りて行ったっす」


「ほぉ、そりゃ楽しみだ。娘の成長を見守る親の気持ちってこんな感じかもな」



 VIR席がよほど窮屈だったのか、椅子の上であぐらをかくリーヤさん。スパッツとはいえ、男の俺には目に毒だ。


 最中、イリスさんがリーヤさんに問う。



「リーヤさんはカヤさんのことを小さい頃から知っているのですか?」


「ん? あぁ、今でこそあんなクールぶっちゃいるが、昔はオドオドしててよ。そりゃ可愛いのなんのぉう!?」



 ひゅん、とリーヤさんの横を火の玉が通り過ぎる。


 飛ばしたのは地獄耳カヤだ。



「おっと、怖ぇ怖ぇ。母親似だなありゃ」


「カヤの母親?」



 ――イスルギ・リサ。


 カヤの母親にして六賢者の1人。つまり、同じ六賢者のリーヤさんの元同僚の様なものだ。


 彼女なら、カヤの母親が呪いを受けた経緯とか知っているのだろうか?それが分かれば、解呪する方法だって……いや、それを聞くのは俺じゃないな。余計なお節介になっちまう。



「さて、始まるみたいだぜ」



 リーヤさんの言葉通り、闘技場に2つの大きな物体が搬入される。



「なんだ……ありゃあ!?」



 搬入されたのは2つのドーム状の鉄の塊。まるで小さな要塞だ。



「あれは『エーテル兵器』っつー機械だ。魔導兵器を改良した代物だな」


「魔導兵器? それってこの大陸のマナを枯渇させたっていうあの?」


「あぁ。それを『エーテル』っつー特殊な燃料で動く様に改造したのがアレだ」



 リーヤさんが顎でくいっとあの機械をさした。



「さぁ! 機械の搬入も終えた所で次なる競技と参りましょう! エーテル兵器起動!」



 主催者の合図で2台のドーム状の機械が起動し、ウォーミングアップとばかりに機銃を動かし始めた。



「この4名にはこの兵器を『制圧』して頂きます。方法は問いません。撃ち出されるのはカラーボール。被弾したら脱落です」



 司会者のその言葉にリーヤさんが呟く。



「方法は問わねぇと言っちゃあいるが、表面に近接攻撃を通さねぇ類いのバリアが貼られてんな」



 そう呟くリーヤさんの右目には『変な模様』が浮かび上がっていた。イリスさんの眼もそれに反応するかの様に再び金色に変化する。



「リーヤさん? その右目、もしかして……魔眼でしょうか?」



 恐る恐る問うイリスさんに対しリーヤさんは屈託のない笑顔で答える。



「おう、見るのは初めてか?」


「えぇ、噂には聞いていましたがまさかリーヤさんが『右目』を持っているとは。しかも制御出来ているなんて、凄いですね」


「はは、こいつとは長い付き合いだからな」



 というやり取りの最中、主催者は開始の号令を始める。


 闘技場には4名いる。


 その内2名はカヤとマドカだ。


 同世代の錬金術師がここに揃った。


 イスルギ・マドカ……一体、どれ程の使い手なのだろうか。

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