楯無明人/魔法石使いナル
突破した俺たちは観客席で次の試合に関して話していた。
「2回戦は『応用力』を競うらしいっす。使うのは魔法石みたいっす」
「ということはナルちゃんの出番ね」
「任せて下さいっす! それにしても、この決闘大会はほんと幅広い分野で競うんすね」
2回戦のアナウンスが流れたのはその時。
「それじゃあ行って来るっす!」
「えぇ、行ってらっしゃい」
「ナルさん、頑張って来て下さいね」
「行って来い」
「はいっす!」
ビシッと敬礼して闘技場へと下りて行くナル。
それと時同じくして円形の闘技場に10個の『巨大な氷』が運ばれて来た。
「氷?」
「出場者と同じ個数ね」
「あれをどうするのでしょう?」
そこでタイミングよく主催者のアナウンスが入る。
「皆様にはこの氷を解かして頂きます」
……なにそれ?
「魔法石、それは冒険をするうえで、否! グリヴァースを生きる上で欠かせない物。それを如何に上手く扱えるかを競います。ちなみにこの氷、隣の大陸キリアスから調達した特別性。容易くは解けません。制限時間は30分、少しでも解け残りがあれば失格とします」
「なるほど、開会式の『力だけじゃ突破できない』という言葉の意味はここにある様ね」
カヤのその言葉にイリスさんが返す。
「先ほどのうさぎちゃんでは『捕縛力』、今回は魔法石の『応用力』。この先もあると考えると、1人で勝ち進むのは困難ですね。全能力が突出したオールラウンダーがいれば話は別でしょうけど」
「それは言うほど簡単な話ではないわね。往々にして何かを極めれば、何かは欠落するものだもの」
うん、防御極振りのこいつが言うと説得力あんな。
「なにかしら?」
「なんでもねぇよ」
「そう。さて、始まるみたいね」
カヤがそう言い終えた時、競技が始まった。ナルを含めた10人が各々の氷の前に立つ。
「開催者の方は先ほど、キリアスの氷と仰いましたよね?」
「えぇそうよ。解けることを知らないとさえ言われる超高純度の氷。保冷剤として用いるなら最適だけれど」
「あえて解かすとなると、骨が折れそうですね」
イリスさんとカヤの会話の通り、挑戦者の方々は持参した火の魔法石で氷に直火を当てているが薄皮一枚解けている気配すらない。
「まじで? これ30分で解けるか?」
「普通なら無理でしょうね。でも、うちのナルちゃんはその点、普通じゃない。特別よ」
「アキトさん、あれを見て下さい!」
イリスさんに促されてナルを見ると、そこでは謎の作業が行われていた。
「なにやってんだ?」
まず氷を囲う様に石のブロックが積み上げられている。
次にナルはそのブロックの中に火の魔法石をいくつか放り投げた。
「ナルさん、何をするつもりでしょう?」
「分からないけれど、無意味な行動とも思えないわね」
頭の上に『?』が浮かんでいる俺たちを余所に、ナルはテキパキと作業を進める。
次に彼女が取り出したのは風の魔法石だった。
ナルは風の魔法石をブロックに埋め込み、最後に大きく頷いた。
準備完了ということだろう。
「さて、お手並み拝見ですね」
イリスさんが期待を込めた眼差しで見つめる。俺も隣でナルを見ていると、下のナルと目が合った。彼女は俺たちに手を振って『耳を塞ぐっす』という意味のジャスチャーを送る。
「耳?」
俺たち3人は揃って耳を塞ぐ。
次の瞬間、空気を震わせるほどの轟音と共に、ナルの氷が炎の渦で包まれた。
突然の出来事に会場が一気に騒然となる。
「あ、あいつ何したんだ!?」
「火と風のハイブリッド……やるわね」
「氷は!?」
ナルの氷を凝視すると、火柱の火力で融解していくのが確認できた。あのまま数分もしないうちに完全に解けるだろう。
「す、すげぇぞあれ……っておい!?」
他の選手に目を向けると一様にナルの真似事を始めていた。
「真似された!?」
ナルがやっていることは行動としては単純。
石で囲んで火の魔法石を点火し、内部に風を送り火柱とする。言ってしまえば、やってることはそれだけ。
形は容易に真似出来るが……。
「そう簡単に真似できるものではないわ。石の置き方、火力、風の送り方、全てが最適な条件を満たした場合にしか成立しない。熟練者の技よ、あれは」
カヤが言う通り、他の選手の中でナルの真似事が出来たのはたった3人。
それ以外の数名は火が点かない、あるいは火柱にならず炎が霧散した。
結果、俺たちを含めた4チームが3回戦へと駒を進めたのだった。




