楯無明人/イリスの魅力?
「御会場にお集まりの方々! これより決闘大会のルールを申し上げます!」
主催者らしき男がステージ上で挨拶をし、ルールを読み上げた。
カヤが言っていた通り、ルールはとても単純だった。勝負を行い、勝ち進めばそのうち優勝出来る。以上、それ以外は言うことが無い。
「ただし!」
と思いきや、主催者はこう付け足す。
「この決闘大会は総合的な能力を競います。力だけが全てではない、それをゆめゆめお忘れなきよう」
力だけが全てじゃない、か。もっとこう、天下一なんたらみたいなバトルをイメージしてたんだが、それだけじゃないっぽいな。
「集合」
主催者が挨拶を終えた後、カヤが俺たちを集めた。
「ナルちゃんが情報を収集してくれたわ」
「行って来たっす! 色々情報集めてきたっすよ。何から聞きたいっすか?」
「そうね、取り敢えず1回戦のルールを教えてくれるかしら?」
「はいっす。1回戦はどうやら『捕縛力』を競うらしいっす」
「捕縛? 何かを捕まえるってことか?」
「ですです。闘技場内に放たれた『ラピッドラビット』を捕まえた人が勝ち上がれるっす」
「ラピッドラビット?」
イリスさんが補足する。
「その名の通り、大変素早いうさぎちゃんのことです」
「あぁ、うさぎですか。……ちゃん?」
イリスさんはあわあわと赤面し顔を背ける。
「きき、気にしないで下さいっ!」
「はぁ」
「さぁ、ナルさん。説明の続きを」
「はいっす」
ナルは1回戦の説明を続ける。
「この決闘大会、想定以上のチーム数がエントリーしたので1回戦で一気に10チームまで減らすとのことです」
「そんな多くの人間がエントリーしたのか」
「魔杖がかかっているとなると当然ね」
カヤの言葉にイリスさんが続く。
「結局のところ、闘技場に放たれた10匹のうさぎちゃんをいち早く捕まえたチームが上がれるってことでしょうか?」
「その通りっす! ちなみにチームでのエントリーの場合、都度出れるのは1名。同じ人も複数回出れるっす」
そんな話をしていると1回戦開始のアナウンスが鳴った。
「そろそろ行かねばならないみたいね。さて、1回戦のラピッドラビット捕獲戦、誰が出る?」
カヤの問いに真っ先に手を挙げたのは、
「はい! わたくしに行かせて下さい!」
イリスさんだ。何故か表情が緩みきっていて幸せそうだ。
「やる気に満ちているわね」
「はいっ! 必ずやうさぎちゃんを捕まえてみせます」
「任せたわ」
「任されました。では、行って参ります」
イリスさんはスキップで闘技場へと向かって行った。
「イリスさん、浮かれてたなぁ」
「よほど動物が好きなんすね」
「クマのぬいぐるみを抱いて寝ているくらいだしね。さぁ観客席に上がるわよ」
観客席に上がってサッカーコート2面分の闘技場を見下ろすと改めて人の多さに驚く。ざっと数えて500人は下らないか。
そんな中でイリスさんは観客席の俺たちににこやかな笑顔で手を振っている。まじ天使。
「あの500人に対してうさぎは10匹、倍率で言うと50倍か。ほとんどのチームが落ちるってことだな」
「この時点で勝率は2パーセント。数字的に見ても、そう簡単には魔杖は手に入らないってことね」
「魔杖、響きの如く超激レアアイテムってことか」
「……あなた今、『2パー!? ガチャの最高レアリティの排出率かよ!?』と思ったでしょう?」
「お、思ってねぇよ」
こいつ俺の思考パターンをよく分析してやがる……。
あとその声真似は俺か? 俺なのか!?
「お二方! 始まるっすよ!」
ナルがそう告げた瞬間、開始の合図が鳴って外壁部の各扉が開かれた。
「お、ラピッドラビットの入場か? どれどれ、どの程度のもんか見てやるか」
入場口をじっと見るも、うさぎが入って来る気配はない。
「なぁ、うさぎ来なくね?」
「何を言っているの? 開門と同時に入って来たわよ」
「は?」
闘技場を広く見渡すとそこは人が入り乱れて混沌としていた。
「あいつら、何やってんだ?」
「うさぎを追いかけているのよ。あなたのステータスじゃ目で追えないようだけれど、確かに10匹いるわ」
「まじで!?」
俺は数回まばたきをして改めて闘技場を見渡すと、シュッと視界の端で小さい何かが動いた。
「今なんかいたぞ!? 輪郭とか全然分かんねぇけど」
「何かが見えた、それだけでも上出来よ。普通の人では見えもしない。あまりの速さに存在自体が伝説とされていた事のあるうさぎよ」
「ツチノコかよ」
観客の俺たちはぼぉっと見ているだけだが、闘技場の500人は熱気を纏ってうさぎを追いかけている。中には手当たり次第に砂に飛び込んでみたり網を投げていたりしてる人もいる。
当然、そんな手段ではラピッドラビットは掴まりもしない。
でだ、その中で我らがイリスさんはというと……人込みから離れた所で立ち尽くしていた。
「イリりん、人込み嫌いなんすかね?」
「そういう問題なのか? でもそうだとしたら捕獲なんて無理なんじゃ?」
「イリスさんを信じましょう。彼女は必ず捕まえると言っていたわ。『必ず』という言葉を軽々しく言う様な人ではないはずよ」
「あ、イリりんに動きがあるっす!」
ナルがそう言った時、イリスさんはその場にしゃがみ始めた。
そしてそのままの姿勢で、おいでおいでーと手を叩いている。その視線の先には何もいない。
「ん? 熱気にやられて幻覚でも」
「いえ、あれは……」
次の瞬間、イリスさんの豊満な胸に何かが飛び込んだ。
「ん!?」
それは1匹の小さなうさぎだった。
「「「嘘おぉおお!?」」」
俺たち3人が驚きの声をあげるとうさぎを抱いたイリスさんがにこやかにこちらに手を振った。まじ女神。
「イリスさん何をしたんだ?」
「さぁ? 本人に確認してみましょう」
そして本人帰還。
「わたくし、昔からよく動物に好かれるんです。待っていればきっと飛び込んで来てくれると思っていました」
「理屈じゃないとは……」
兎にも角にも初戦突破。
次はどんな勝負が待っているんだか。




