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ロウリィ/錬金術師イスルギ・リサ

「魔杖レーヴァテイン、この私……イスルギ・リサが購入します!」



 群衆の中から現れたローブの女性はそう名乗った。



 ――イスルギ・リサ。


 数多の『錬金術師』擁する二大貴族の1つ、イスルギ家の中でも突出した力の持ち主だと知られている人だ。放浪の旅に出ているとの噂だったけどこんな所にいたとは。



「はい!? この杖はもう私が買ったの! 早い物勝ちだし」



 反論するローゼリアさん対し、イスルギ・リサは淡々とした物言いで返す。



「知ってますよ? だから、あなたから買いたいと申し上げているのです。5億ガルドで」


「なんとっ!?」



 ローゼリアさんは目を見開き、すかさず頭を振る。



「い、いやいや! この魔杖に値段は付けられない!」


「一瞬考えたな」


「うっさいシグルド! とにかく! 相手があのイスルギ・リサと言えども、この杖は売れないから」



 後生大事そうに杖を抱えるローゼリアさんに対し、イスルギ・リサは片頬をにやりとあげて答える。



「なるほど、噂に違わぬ物欲と頑固さね……ローゼリア・C・ステルケンブルク」


「? 私のこと知ってるの?」


「イスルギの人間が知らないわけないでしょう? 『C』を継承したあなたのことを」



 ローゼリアさんは一拍置いて答える。



「……あんたみたいな有名人に注目して貰えるなんて、光栄だなぁ」


「ふふっ、では特別にサインもお付けしますからその杖を譲って下さいませんか?」


「それとこれとは話が違う。残念だけど魔杖は譲れない」


「……そうですか」



 イスルギ・リサは落胆の表情を見せ、杖を構える。



「っ!? なんのつもり!?」


「ミルズの風習、あなた達がしたことと同じことです。骨董市にて買い手と売り手が揉めた場合……」


「力ずくってこと? 育ち悪いんじゃない?」


「ふふ、お互い様ですよ」



 錬金術師と時空魔導師が対峙する。



「シグルド、準備は出来てる?」


「出来ているが、女性を相手に戦うのは気が乗らないな」



 シグルドさんのその言葉にイスルギ・リサが返す。



「安心して。戦うのは私ではないから」



 イスルギ・リサは杖で地面を叩き、とある人物の名前を呼んだ。



「アルト、出て来なさい」



 その呼び出しにアルトという人物が……。




「「……」」




 来なかった。



「……あ、あれ? アルト? おーい、アルトぉ?」



 杖で地面をばんばん叩く最強の錬金術師。威厳の欠片もない。



「あらぁ? もしかして来ない感じぃ? 尻尾撒いて逃げたんじゃないのぉ?」



 そしてすかさず挑発するローゼリアさん。


 とっても悪い顔をしている。



「そ、そんなはずは! ちょっと、アルト! はっ! あいつもしかしてまた女を口説いてんのかっ!? くっそ……後でたっぷりお仕置きしてやるっ!!」



 既に涙目のイスルギ・リサ。


 本当に最強の錬金術師なのだろうか?



「くぅ……こうなったら私が直々に手合せします! 誰でも良いからかかって来なさい!」



 杖をブンブン振って私たちを挑発してるけど……なんか超弱そうだ。



「シグルド、どうすんだ? お前があいつやっつけるか?」



 合流したリーヤさんの問いにシグルドさんは端的に答える。



「断る。何度も言うが俺は女性とは戦わない」


「えぇ!? じゃあどうすんの!?」


「ロゼが戦えば良いんじゃね?」


「私が!? 杖無いよ!?」


「杖無しでも大概のことはやれんだろ?」


「そ、そりゃ威力は落ちるけど……あーもう!!」



 ローゼリアさんは前に立つ。



「やったろうじゃない! 私が相手よ、イスルギ・リサ!!」


「絶対負けないし! ギッタギタにしますから」


「こっちの台詞ですぅ!」



 うーわ、子供の喧嘩みたいでレベルが低そうだ。


 こうしてグリヴァース最強の錬金術師と最強の時空魔導師がここミルズの闘技場でぶつかり合うことになったのである。

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