リーヤ/魔杖レーヴァテイン
変態ナンパ野郎を巻いてシグルド達に合流した。
「いたぞ、ローゼリアだ」
シグルドが指差したのは骨董市の人だかりのど真ん中。
「え? どこでしょう?」
「見えないのか? あそこだ」
そこでは……。
「んもう! いくらなら売ってくれるの!?」
「最低価格50万ガルドだってさっきから言ってんじゃねぇか嬢ちゃん」
「ごじゅーまん!? 高過ぎ!! せめて3とかにならない?」
「30万か? それならまぁ」
「違う違う、3万ガルド」
「さぁ帰れ」
「嫌だぁああ!! 絶対その杖が欲しいのぉ!!」
こ・ど・も・か!!
「おいリーヤ、最早確認するまでもないだろうが……」
シグルドがあたしに問う。
「リーヤはいわゆる『どケチ』だ」
「知ってはいたが……改めて見ると、強烈だ……ふ、ふふっ」
シグルドは店主に怒鳴るローゼリアを見ながら肩を揺らす。
「シグルド?」
「初めてだ。純粋に面白いと思った、この世界が」
「……そっか、そりゃ良かった」
なんだよ、やっぱ良い顔で笑うじゃねぇか。
「で、ロゼが食い下がってんのは、なんだありゃ? ただの錆びた棒じゃねぇか」
ロウリィが返す。
「確かに見た目かなり錆びてますけど、杖って言ってますし、杖ですよきっ……と!?」
ロウリィは勢い良く人込みに突撃して行き、ぐいぐいと人込みを掻き分けてロゼのもとに辿りつく。
「ローゼリアさん! これって!?」
「あ、ロウリィちゃん! 聞いてよ!」
「これ! 魔杖じゃないですかっ!?」
……魔杖?
……は? まじで?
「リーヤ、どうだ?」
「あぁ、シグルド。ちょっと待ってろ」
あたしは腰に付けている折り畳まれた弓に問う。
(……起きろ、ダーインスレイヴ)
――なんじゃ? 気持ちよく寝とったのに。
(すまねぇ。魔具の気配、近くに感じるか?)
――ん? あー……感じるぞ。これは、杖のやつじゃな。
(分かった、ありがとう。寝てて良いぜ)
――言われんでも。
あたしはダーインスレイヴとの対話を終える。
「……シグルド。間違いない。あの錆びた杖、ありゃ……魔杖だ。激レアなんてもんじゃねぇぞ」
「だからあっという間にあの騒ぎなのか」
あたしは再びロゼとロウリィの方に目を向ける。
「この杖が魔杖だって!? ……最低価格を5千万ガルドに上げる!!」
「えぇええええ!? さっき50万だって言ってたじゃん!?」
「いや待て……5億だ! 魔杖ならそれぐらいは下らねぇ!!」
あー……これだからミルズの競売は。
「ごごご、ごめんなさい! 私が大声で喋っちゃったせいで!!」
「ロウリィちゃんは悪くないよ! 悪いのは全部このどケチ親父!!」
びしっと店主を指差すロゼ。
全部ブーメランみたいに戻って来てんの気付いてねぇんだろうな。
「よぉし分かった!! それならミルズの伝統に習って力づくでやったろうじゃない!!」
ロゼが鼻息を荒げて腕を捲る。戦うのお前じゃねぇじゃん。
「良いだろう! だが、俺の店の用心棒は強いぜ? 旦那!!」
現れたのは大剣を持ち、全身にジャラジャラと鎖を巻いた大男だった。
重くないのかね? 絶対見かけ倒しだろあれ。
「仕事か?」
「はい! あの女がケチつけて来まして!」
「ケチつけてきたのはどっちよ!?」
どっちもどっちだろお前ら……。
「この女を殺せば良いのか?」
「殺す必要はありませんが、二度と喋れない程度に」
「させると思っているのか?」
ロゼとロウリィの前にシグルドが割って入る。
「シグルドさん!」
「シグルド!? おっそい!」
「すまない。ローゼリアと店主のやり取りが面白くてな。見惚れていた」
「はぁ!? 私は必死だったんだよ!?」
「その必死な様子が面白かったっと言っているんだ。無駄話はこれぐらいにして」
静かにグラムを抜き放つシグルド。
「店主よ、ルールは決まっているのか?」
「は? んなもんあるわけねぇだろ? 強いもんが勝つ! それだけよ」
「なるほど、至極単純明快だな……なら、俺の勝ちだ」
シグルドがグラムを鞘に納めた瞬間、大男の武具が細切れになって地面に落ちた。
「んなっ!?」
「この杖は貰っていく。金はここに」
「待ちなさい」
群衆の中から女性の声が聞こえる。
「その杖、私が買います。5億ガルドで」
人込みを掻き分けて現れたのは……1人の錬金術師だった。
「魔杖レーヴァテイン、この私……イスルギ・リサが購入します!」
それがリサとの出会いだった。




