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ロウリィ/ミルズ骨董市

 この大陸カルナスではかつて、大規模な骨董市が開催されていた。


 開催場所は西北端にある町ミルズ。各々が名品だと思う物を持ち合って即売会をする、そんなイメージだ。


 ただ、ここ数年は諸事情で中止となっていた。



「まじか。マギステル陥落の話、もう大陸中に広まってるらしいぜ」



 伝書鳩からの文を受け取ってリーヤさんが簡潔に読み上げた。



「ねぇリーヤ、巻物でやり取りできるこのご時世に伝書鳩? 古くない?」


「伝書鳩バカにすんなよ? この愛くるしい顔見てみろ」


「んー? ……はっ! ちょっと可愛いかも……」


「だろ?」


「むぅ……なんか悔しい」



 という親友同士のやり取りは置いといて。


 ミルズの町で骨董市が復活したのは他でもない、私たちのおかげなのである。



「人が集まる場所など魔導兵器の恰好の的だからな。骨董市とやらが中止になっていたのも無理はない」


「ですが、シグルドさんの活躍でそれも復活しました」


「俺だけのおかげじゃない。皆のおかげだ」



 シグルドさんは隣で伝書鳩を愛でている2人を見て、その次に私を見た。



「ロウリィもよく頑張ったな」



 ふわっと右手で私を撫でるシグルドさん。


 なんか最近、今まで以上に雰囲気が柔らかくなった気がする。以前の様な他を寄せ付けない感じが薄れたのだ。なんでだろう?



「それでだ、1つ聞きたいのだが?」



 ふふ、質問の多さは相変わらずだけど。



「はい、なんでしょうか?」


「その骨董市では主に何を取り扱っている?」


「アンティークと武具が半々ですね。ただその武具も貴族の家で甲冑が持ってた、みたいな感じなので実用性に富んだ物は少ない印象です」


「詳しいな。行ったことがあるのか?」


「もちろんです。商人の娘ですから。お父さんに連れられてよく目利きの練習をさせられてました」


「なるほど、では今回もロウリィを頼ることになるな。頼んだぞ」


「はいっ! 私がきっとローゼリアさんにぴったりな杖を見つけてみせます! ので、シグルドさんも頑張ってくださいね?」



 私の言葉にシグルドさんが首を傾げる。



「ん? 俺も目利きを?」


「あぁ違います。シグルドさんのお仕事は目利きじゃないですよ」


「?」



 そこで他の2人が合流した。



「そっか、シグルドは知らなくて当然だよね」


「知らない方が幸せな気がするが、教えねぇ訳にはいかねぇだろうな」


「2人とも何を話している? 俺に仕事があるのなら喜んで引き受けるが」



 シグルドさんの言葉に2人があくどい顔でニヤリと笑う。あんな大人にはなりたくないものである。



「あ、言ったな? じゃああたしは今回休憩で。頼んだぜ、シグルド」


「? あぁ、任せろ」



 何も知らないのに引き受けちゃう辺りがお人好しと言うかなんというか。


 まぁそこもひっくるめて好きですけど。


 あ、今のは内緒だよ?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『骨董市』という言い方をしているけど早い話が『競売』である。


 売る人は少しでも高く売る。買う人は少しでも安く、質の良い物を買う。実にシンプルだ。


 しかし、ミルズの骨董市は1つだけ特異な風習がある。


 なんやかんやで売り手と買い手で折り合いがつかない時、それは起こる。



「早い話が、売り手と買い手が戦うの」


「いまなんと?」



 シグルドさん、流石に驚きを隠せない様子。



「ミルズは今でこそ落ち着いてるけどその昔はならず者が闊歩してる町だったんだって。その時からの風習だよ」


「話し合いで解決しなかったら力でねじ伏せろってこった。乱暴な町だぜまったく」



 とかなんとか言いながらリーヤさんは口笛を吹いて他人事の様な表情である。ついさっきシグルドさんに丸投げしたばかりだからなぁ。



「つまり、ローゼリアが店主と揉めて戦闘に発展したら俺が盾になれば良いのか?」


「そうそう、そういうこと」


「お安い御用だ」



 あー引き受けちゃった。


 というか『盾』という言葉を用いている辺りイマイチ理解していない様子。



「なぁロウリィ」



 リーヤさんが私を呼ぶ。



「はい? どうかしました?」


「シグルドってさ、やっぱちょっとズレてねぇか?」


「あ、気付きました? あれが異世界のスタンダードなのかもしれないですね」


「へぇー……でもなんか良いよな、ああいう男」


「へ?」



 リーヤさんはニヤっと頬を上げて私を見る。



「お、今お前動揺したか? 隠し事出来ないタイプだな」


「し、してないです! どどど、動揺なんてしてないです!」



 顔がぽわっと熱くなっていくのを感じる。



「はは、可愛いなお前、ほれほれ」


「わわ、髪がくしゃくしゃになっちゃいますから!」


「したらあたしがセットしてやんよ。ポニーしか出来ねぇけど」


「それくらいなら自分でも出来ます!」



「2人とも行くよー! もうすぐなんだから!」



「はーい!」


「おう、今行く! ま、頑張れよ! 恋する乙女」



 ぱん、と私の肩を叩いて去って行くリーヤさん。


 むぅ……他人事だと思ってぇ!!



「ロウリィちゃーん!」


「いま行きますー!!」



 私たちはミルズの町へと踏み入れる。

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