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楯無明人/黒い瘴気の正体②

「皆さんは『準魔剣』という言葉は聞いたことがありますか?」



 開口一番、イリスさんはそう口にした。


 

「『準魔剣』……久々に聞いたわ、その言葉」


「私も話には聞いたことがあるっす」


「2人とも博識だな。俺は知らないぞ」



 俺がそう言うとカヤがくるっとこちらを見る。



「半ば常識みたいなものよ。私よりも上の世代の人はその脅威を目の当たりにしているから知らない人はいないでしょうね」



 カヤのその言葉にイリスさんが続ける。



「ですがナルさんの反応を鑑みるに、既に風化しつつあるようですね。あれほどのことがありながら……時の流れは残酷ですね」


「あれだけのこと、というのは?」


「魔剣戦役」



 ぽつり、とカヤが呟く。



「魔剣戦役……それって20年前に勃発した戦争のこと、だよな? 英雄王シグルドが終わらせたっていう。六賢者に語ってはいけないってタブーにもなってる」


「えぇ。準魔剣が発端となって起きた戦争のことよ」



 準魔剣……戦争の引き金になるほどの物なのか。



「それでイリりん、その『準魔剣』と『黒い瘴気』にはどんな関係があるんです?」


「はい。あの『黒い瘴気』は言わば『準魔剣の副産物』です」


「準魔剣の副産物?」



 カヤの問いにイリスさんが答える。



「20年前の魔剣戦役では大量の準魔剣が使われました。そして準魔剣の強大な力は周囲の生態系にも影響を及ぼしましたのです」


「つまり、その準魔剣の力の影響を受けた魔物があの黒い瘴気の魔物たちということ?」


「そうです。もっと言うと、20年前に準魔剣が存在していた場所には黒い瘴気の魔物がいることになります」


「はいはい!」



 ナルが手を挙げて質問した。



「なんで黒い瘴気の魔物には魔法石が効かないんすか?」


「それは準魔剣が魔法石から出来ているからです。すなわち、黒い瘴気の魔物は魔法石の力を蓄えていることになります」


「つーことは、同じ属性だから効かないみたいな理屈か?」


「あなたはすぐにゲームに例えたがるのね。でもその通りよ」



 合ってんじゃんか。



「そして、わたくしが行使できる【討魔術式】。これは魔を祓うことの出来る術式。準魔剣と言えどそれは例外ではありません」


「だからナルちゃんの魔法石が効く様になったと」


「はい。ふふ、仲間にして下さればあなた方にもメリットがあるとお伝えしたでしょう?」



 イリスさんはニコッと微笑む。まじ天使。



「だから今後、黒い瘴気持ちに遭遇したらわたくしがまず瘴気を祓います。それからの戦闘になりますね。一手間かかりますが、現状それしかありません」



 準魔剣が何本製造されたか知らないが、昔の人は余計なことをしてくれやがったな。



「……黒の瘴気を纏った魔物、確かに脅威ではあるけれど、幸い私たちにはイリスさんがいる。油断さえしなければ対処可能ね」


「任せて下さい。この世界の魔を祓うというわたくしの目的にも繋がりますし、誠心誠意努めさせて頂きます」



 割とサクサクと仲間になっているが思いのほかこのパーティはバランスが取れているようだ。その一員として嬉しくもあるが俺の中では気になっていることが2つある。


 それは、俺以外に男がいないことと、前衛がいないこと。


 出来ることなら次はガッチリしたインファイターを仲間にしたい所だ。ひょいひょい逃げ回んのにもいい加減限界あるっての。



「さて、話は終わりよ。マギステルに向かいましょう」



 俺たちは森を抜け砂漠に足を踏み入れた。



「うわ歩きづら……確か、魔導兵器ってやつのせいだったよな?」


「そうよ。大陸のマナを吸い尽くした結果がこれ」



 カヤの言葉にイリスさんが補足する。



「しかもその魔導兵器の製造にも準魔剣が関わっていたのでは、という噂があります」


「うへぇ、また準魔剣っすか? 早速聞き飽きたっす」



 ナルよ、同感だ。



「まさに、この世界に大きな歪みをもたらした遺物、といったところね。準魔剣……一体どこの誰がどういった目的で造ったのかしら?」



 カヤのその言葉に全員が首を傾げた。


 考えても答えは出そうにない。



 ――魔剣戦役を終わらせた英雄王シグルドなら、その答えを知ってるのだろうか?


 いつか会うことがあったら、聞いてみよう。

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