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楯無明人/旅の条件

 レコンの町の族長の家にて、六賢者リーヤ・ハートネットとの対峙である。



「ダチの娘が死ぬかもしんねぇと聞いちゃ黙ってらんねぇな」


「……リーヤさんは私たちの旅を阻むというの?」



 凄んでくるリーヤさんに対し、カヤも負けじと睨み返す。


 なにこれ怖いんですけど。



「アキトさんアキトさん、女って怖いっすね?」



 だからナル、お前どんな立場だよ。


 そんなことを思っているうちにゴゴゴ、と家の雰囲気が明らかに険悪なものになっていく。


 2人の言葉の応酬はなお続く。



「あたしが阻むっつったら?」


「たとえリーヤさんでも阻ませないわ。この旅には私の夢がかかっているんだもの」



 リーヤさんは目を細める。



「夢か……カヤ、夢の為ならお前は死ねるのか?」


「えぇ、死ねるわ。自分の夢の為なら、私は死ねる」



 こいつ……断言しやがった。


『次世代の錬金術師の育成』がこいつの夢。


 それは、カヤにとって命を賭けるに値するものらしい。



「そうか……じゃあ質問を変えるぜ。お前は自分の夢の為なら仲間を死なせることは出来んのか?」



 それに対し、カヤは一も二も無く答える。



「死なせられるわけないじゃない。そんな寝覚めの悪いことまっぴらゴメンよ」


「それは言うほど簡単じゃねぇぞ? どんなに強い奴でも守れる人数には限りがあるからな、あたしも昔はレコンの仲間を沢山失った。里で一番強いって言われてても無力な時は無力なんだよ」



 リーヤさんのその言葉には、戦争を経験した者のリアルや苦悩が込められているのかもしれない。


 それをこいつも気付いているはずなのに、カヤは彼女にこう言い放った。



「それでもやるのよ。何より、あなたたちが戦った歴史を無駄には出来ないもの」


「戦い……歴史……っ!?」



 リーヤさんはカヤの言葉聞いて頭が痛むかのように苦悶に満ちた表情を見せた。



「リーヤさん!? ごめんなさい私!」


「いや……大丈夫だ。気にすんな」



 荒い呼吸を落ち着けてリーヤさんはソファーに腰掛け、険しい表情を崩した。



「……話は分かった。カヤの覚悟もよく分かった。いじめて悪かったな」


「え? はなから止める気はなかったと?」


「当たりめぇだろ。てめぇだけの人生だ。誰が何しようがそれはそいつの勝手だ。ただ、生半可な覚悟で旅立った上で死なれちゃそれこそ寝覚めが悪ぃからよ。一応聞いといただけだ」



 リーヤさんはカヤを見てニヤリと笑みを浮かべこう続ける。



「だけどな、あたしにとっちゃ実の娘みたいなお前が死地に赴くのは心配でなんねぇのも事実だ。だからお前らにはその強さを示して貰う」


「強さを示す、ですか?」


「あぁ」



 イリスさんのその言葉に対し頷いたリーヤさんは思いもしないことを言い出した。



「お前ら、決闘大会に出ろ」



 ……は? ケットウタイカイ?


 一瞬、俺は耳を疑う。


 そして耳を疑ったのは他の3人も同じだった様だ。



「決闘大会……っすか?」


「あぁそうだ。そこでお前らの力を見せてみろ。充分な強さだと判断したら大手を振って送り出してやる。不十分だと判断したら猛特訓だな」


「猛特訓とは一体どの様なものなのでしょう?」



 首を傾げて問うイリスさんに彼女は不敵な笑みで答える。



「ふふふ、内緒だ」


「……はぁ」



 カヤはため息を挟んで言葉を返す。



「リーヤさん、あなたの気持ちは分かったわ。私たちを心配してくれているのも理解した。出ましょう、その決闘大会とやらに」


「お前ならそう言うと思ってたぜ」



 リーヤさんはまたしてもガシガシとカヤの頭を撫でる。



「く、くすぐったいと何回言わせるの……!!」


「はは、リサに似て素直じゃねぇなぁ。まぁそこも可愛いとこだが」



 ぽいっと雑にカヤを手放し、リーヤさんは説明を始める。



「その決闘大会は1週間後、マギステルで開かれることになってる。大陸中の猛者どもが集まってくるはずだ。力試しにはもってこいだろ?」


「大陸中の猛者……ね」



 カヤがぽつりとそう呟いた。俺は嫌な予感がしたのでカヤに声をかける。



「なぁカヤ、大陸中って言ったら……あいつらも出るんじゃ?」


「豪華な景品があるならまだしも、マドカが単なる力試しに興味を示すとも思えないわ」


「おっと、優勝チームには豪華景品が出るっつー話だ」


「……あらそう」



 あぁ、フラグが立っちまった……どうか回収されませんように。

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