ローゼリア/始まりの町と黒龍
「着いたよ、ここがエインヘル。別名、始まりの町って呼ばれてる」
私がそう言うとシグルドはきょろきょろと辺りを見渡して、うろちょろとしだした。
「ローゼリア、この宙に浮く石は何だ? 絶え間なく水が溢れている」
「魔法石だよ。属性は水だね」
「魔法石……不思議だ。水車もないのに水が……凄いな」
そのまま町の中心に向かって進むとシグルドは町の中央にそびえたつ時計塔に興味を止める。
「あの時計塔は?」
「あれが冒険者ギルドだよ」
私とシグルドはギルドに足を踏み入れる。
「たのもー」
受付にいる見知った女性に声をかける。
「あ、ロゼちゃん!」
私をロゼちゃんと呼ぶこの女性は幼馴染のシルフィーだ。
銀髪の令嬢といった佇まいのエルフで、おっとりしている女性である。
「シルフィー、冒険者手形ちょーだい。こいつの」
シルフィーは私の隣できょろきょろと挙動不審にしているシグルドを見る。
「はじめましてですね? 私はシルフィー・ハートネットです」
「ん? あぁ、俺はシグルドだ。世話になるな」
自己紹介を終えたシルフィーはカウンターの下から紙を取り出した。
「これに必要事項を記入して出してくれる? 査定するから」
「分かった。どれくらい時間かかりそう?」
「30分もあれば終わるよ」
「おっけ。ねぇシグルド、ちょっと時間が出来たから防具を買いに行こうよ」
それに対しシグルドは返事をせず、ギルドの入口の方を見ている。
「シグルド? 外に何かあるの……っ!? 地震!?」
突如襲った強い地震により多くの人が床に伏した。
「ロゼちゃん! この揺れなに!?」
「知るかぁ!!」
「ローゼリア、外の様子を見てくる」
シグルドが外へ駆け出す。
「シグルド!?」
私もおぼつかない足取りで外へと向かうと、シグルドは港の入り口で立ち止まっていた。
「ちょっとシグルド! 単独行動厳禁!」
「ローゼリア。みんなを避難させろ」
「え? 避難? なんで?」
「なるべく海から遠くへ! 急げ!!」
シグルドがそう言い終えた瞬間、轟音と共に海が割れた。比喩ではなく、言葉の通りの意味だ。
海がぱっくりと割れ、黒い龍が這いあがってくるのだ。
私は反射的にステータスを確認する。
【名前】ヨルムンガルド
【ステータス】
測定不可
「黒い……龍だよね? ステータスも測定不可って……嘘でしょ!?」
「現実だな、残念ながら」
海の中から這い出て来ていた黒龍は規格外の大きさを誇っていた。海面に出ているのは身体の半分程。おそらく全長数キロというスケールだ。
「鳴くぞ、耳を塞げ」
「え?」
次の瞬間、黒い龍は口を天に向けて咆哮を上げた。私はその音の余波で吹き飛ばされそうになる。
「きゃっ!?」
足がふわっと浮いた瞬間、シグルドが私の体を抱いて支えてくれた。
「あ、ありがと」
「礼には及ばない。このまま俺に掴まっていろ」
シグルドは音圧が止んだのを確認して私を離す。
「ローゼリアは避難を開始してくれ。俺はあいつを倒す」
「倒す!? ステータスだって測定不可なんだよ!?」
「測定不可か。こいつの切れ味を試すのに相応しいかもな。もっとも、抜く機会があれば、だが」
シグルドは右手を海へと向けて魔力を込めた。
「力が漲ってくるこの感覚……そうか、そういうスキルなのか、これは」
シグルドは右腕の魔力を解き放つと同時に再び大地が震えだし、海が大きく波打ち始める。
「ちょ、あんた何したの!?」
「【技能創造】……これは、技能を自由に創造するスキルらしい」
「はぁ!? じゃあこの揺れはあんたがやってるの!?」
「そうだ。【大地掌握】というスキルを創造した」
「だ、大地掌握!?」
聞いたことはある。おとぎ話の中で。
その昔、大召喚士レミューリア様のみが持ち得たと言われる、天地創造のスキル。その力は大地を穿ち、隆起させ、割り、復元し、均したという。神の御業ともいえる技能。
私は反射的に巻物を取り出して確認した。
【習得スキル】
・大地掌握(NEW)
確かに、書いてある。しかもたった今習得したことになってる。
それを可能としているのはずっと一番に下で鈍く光っている【技能創造】というスキル。
「さて、足場を作るか。……【大地掌握】」
シグルドが右腕を振り降ろした瞬間、海底が隆起し一本の道が出来た。こんなの滅茶苦茶だ。
「では、避難は頼んだぞ」
シグルドは魔剣を携えてヨルムンガルドへと駆けて行った。




