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楯無明人/伝説の剣、盗まれる

 ――新緑の町、レコン。


 そこは新緑の町と呼ぶに相応しいほど自然に満ち溢れていた。町を縦断する様に清流が流れており、大部分がエルフながらも、多様な民族が生活しているのが見て取れる。



「ようやく、ここまで復興できたのね」



 カヤがぽつりとそう呟いた。



「ようやく、って?」


「この町レコンは魔剣戦役の際に一度壊滅状態に陥っているのよ。当然、大勢の人が亡くなった」



 カヤが視線を向けた先には集合墓地の様な物があった。



「私がまだ小さい時は一丸となって復興させている最中だったわ。カルナス中の民族が手を取り合ってようやく、ここまでになった」



 カヤの言葉にイリスさんが続く。



「だから今のレコンは様々な種族が暮らす平和で長閑な町となっているのです」


「なるほどな……ん?」



 腰のホルスターに納めている『英雄王の剣』が微かに震えている。



「アキトさん、それ震えてるっすよ?」


「あぁ、なんでだろうな?」



 俺はホルスターの金具をぱちんと外し、短剣を引き抜くと、その切っ先からはわずかに『光の刃』が現出しかかっていた。これは、英雄王の光剣になるフラグか?



「……なんで今更……俺がいくら念じても出なかったのに」


「もーらいっ!」



 何かが視界の端を横切ったかと思いきや、スッと俺の手から短剣の気配が消える。



「……はっ!?」



 俺は横切った影に視線を向けると、そこには見知らぬエルフの男の子がいた。



「珍しい剣だなぁ、高く売れそうだ。貰って行くねぇ」



 その男の子は脱兎の如き速さで町の奥に向かって駆けて行く。


 俺たち4人は一瞬だけ何が起こったかを理解できずにその場に立ち尽くす。


 開口一番叫んだのはナル。



「ど、泥棒っすうぅうう!!」



 ナルのその声で、俺は英雄王の剣を『盗まれた』のだと理解した。



「ちょ、え!? マジ!?」


「伝説の武具を盗まれるなんて、目も当てられないわね」


「他人の物を盗むだなんて、悪い子ですね。捕まえてお説教致しましょう」



 カヤとイリスさんが猛スピードでその男の子を追いかけていく。


 カヤは見慣れているが、イリスさんもそれに匹敵する速度で走れることに驚きを隠せない。魔法職が前衛職より速いって……。



「アキトさん! なにをぼうっとしてるんです!? 行くっすよ!」


「お、おう!!」



 俺とナルも少し遅れて2人の後を追う。


 短剣を盗んだエルフの男の子は俺の100メートル前方を駆けている。建物をひょいひょいと飛び移ったり入り組んだ路地出たり入ったりしていることもあってあと一歩で捕まえられない。



「くそっ、なんつー身軽さだよ!」


「まるでお魚を咥えた猫っすね」



 そんな某アニメの歌詞の様なやり取りをしながら追いかける俺たち。カヤとイリスさんが建物の角を右に曲がったのを確認し、俺たちもその路地へと入る。



「おっとぉ!?」



 そして急ブレーキ。


 曲がったすぐそこでカヤとイリスさんが前を見て立っていた。



「どうしたこんな場所で立ち止まって!?」


「追いかける必要が無くなったから止まっているのよ」


「は?」



 俺は2人の体の隙間から顔を出す様にして前を見ると、そこにはエルフの女性が立っていた。


 長い銀髪をポニーテールにしていて、見た目ではイリスさんと同年代の様に見える。


 ワイルドさが前面に出ているからか、シルフィーさんに匹敵する綺麗な容姿を持ってはいるが俺の第一印象は『カッコいい女性』だった。



「ルードてめぇ、また盗み働きやがったのか。どうしようもねぇ奴だな」



 そう言う女性の右手には首根っこ掴まれてぶらぶらと宙釣り状態になっている盗人の男の子。



「は、離せよぉ!」


「馬鹿か? 離すわけねぇだろ。これから母ちゃんにたっぷり叱って貰わなきゃなんねぇからなぁ」


「嫌だぁあああ! 許してリーヤさーん!!」



 ……ん? リーヤさん?



「捕まえてくれてありがとう、リーヤさん」



 カヤが彼女に歩み寄ると、彼女はこちらに視線を向ける。



「ん? お前カヤじゃねぇか!」


「えぇ、お久しぶりね」


「その様子じゃ元気そうだな。リサは?」


「……相変わらずよ」


「そっか」



 リーヤさんは右手に持った男の子をまるで土嚢でも担ぐかの様にひょいと持ち上げる。



「ゆっくり話したい所だが、あたしはこいつを家まで連れてかなくちゃならねぇ」


「怒られたくないよぉおお!」


「怒られるようなことをしたんだから当然だ。たっっっぷりと母ちゃんに絞って貰え」


「うえぇえええん!! 鬼! 悪魔!!」


「いででっ! 引っ張るな!! ふぁや、ふぁたしの家でまっふぇろ」



 暴れる子供に頬をつねられたりポニーテールを引っ張られたりしながらリーヤさんは去って行った。



「……なんか、思ってたよりもフランクっすね」


「はい、六賢者と呼ばれる方ですからもっと威厳に満ちた方を想像しておりました」


「リーヤさんは昔からずっとあんな感じよ。中身も見た目も」



 見た目、と聞いて俺は質問する。



「なぁ、女性に歳の事を聞くのはどうかと思うのは承知の上なんだが」


「あなたの言いたいことはよく分かるわ。20年前の魔剣戦役で現役だった彼女が何故今も20代前半の容姿をしているのか、でしょ? 答えは簡単、エルフだからよ」



 カヤの言葉にイリスさんが続く。



「エルフは長寿の一族。わたくしたちと多少歳の取り方が異なるのです。身体的な成長は20を境に緩やかになるのが特徴ですね」


「へぇそりゃ不思議な……ん!? リーヤさんってシルフィーさんの双子の姉って話だったよな!? ってことはシルフィーさんって……俺が思ってたよりもずっと年上!?」


「えぇ、シルフィーさんも私が子供の頃から変わらないわね」


「まじか!? いやしかし、俺のラブリーエンジェルの座は揺るぎない……!」



 異世界に来て俺の守備範囲が増大した。ばっち来い年上女性。



「さて、女に現を抜かす阿呆は置いておいて、先に行っていましょうか」


「行くってどこに?」


「族長の家よ。そこでリーヤさんを待ちましょう」


「了解。……あっ」



 英雄王の剣、結局返して貰ってねぇし……。

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