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リーヤ/魔眼と魔弓と魔剣

 パチッと目を覚ますとテントの中だった。



「ふぁー、よく寝たぜ。どこだここ?」



 隣ではロウリィがすやすや可愛らしい寝顔で寝息を立てている。



「あぁー肩いて、久々にやっちまったもんな……」



 首をぐりぐり回しながらテントの外に出ると辺りは夜だった。



「あ、やっと起きた」



 焚火の前にいるロゼがあたしにそう言って微笑んだ。隣にいたシグルドがそれに続く。



「リーヤは寝相がすごいな。堪らず出て来てしまった」



 彼の頬は少し腫れている。



「え、もしかしてあたしが寝ぼけてぶん殴った?」


「肘だ。同じ様なものだが、思いのほか痛くてな」



 シグルドはふふ、と静かに微笑んで焚火に視線を落とした。



「あ、ねぇ聞いてリーヤ。今後の旅の目的地が決まったの」


「目的地?」


「あぁ、俺達は王都に向かうことになった」


「リヒテルに? これまたなんで?」


「思い出して欲しい、マギステルでの一幕を。工場区画に潜入を試みた時の事だ」



 工場区画に入った時っていやぁ、シグルドが武器商人を装った時の事だろ?


 あん時は確か……




 ――強力な武器のご紹介に参りました。


 ――となると、お前らはリヒテルの使者か。通って良いぞ。



「……あぁー、なるほど。よくそんな細かいこと覚えてんな。でもそれってかなり真っ黒な匂いがしないか?」



 あたしの言葉にロゼが続く。



「でしょ? なんで『王都の使者』って名乗ったらマギステルの工場区画に入れるのか……準魔剣と王都リヒテルには何らかの繋がりがあるって証明されちゃったし、行かないわけにはいかないよね」


「点と点が線になっちまった訳か……どうにもきな臭ぇと思ってたんだ。2つ隣の大陸がこんなことになってんのに、やつらちっとも重い腰を上げやしねぇ。リヒテルだってダモクレスの射程に入ってたはずなのに安全圏にいるかの如く、傍観者気取ってやがったからな」



 それにロゼとシグルドが順番に返す。



「それって王都の人間が相当な脳天気か……」


「裏があると見て良いだろうな。それを確かめる為に、俺たちはそこに行くことにした」


「なるほど。じゃあレコンに戻ってじじいたちに報告済ませたら出発だな。シルにも連絡入れとくか」


「リーヤが冒険に出るって知ったらシルフィー驚くかもね」


「あいつのことだからついて行きたいって言い出すかもな。ギルドが忙しくて無理そうだが」



 あたしとロゼがそんな会話をしている最中に手を上げている男が1名。



「質問良いか? 聞きたいことが2つある」


「ん? あぁ、良いぜ」


「リーヤとローゼリア、それとシルフィーはどういう関係なんだ?」


「幼馴染ってやつさ。小さい頃、ロゼが頻繁にレコンに来てたんだ」



 あたしの言葉にロゼが続く。



「私、小さい時ミザエルとカルナスを行ったり来たりしててさ。レコンにもよく泊まったりしてたんだ。リーヤとシルフィーとはその時からの仲なの」


「幼馴染……か。その絆、大切にし続けるといい」



 そう言うシグルドの表情はとても優しさに満ちたものだったが、同時にその表情の奥に憂いの様なものが見て取れた。こいつ、何を背負っているのだろう。



「もう1つの質問だが」


「あぁ」


「リーヤのあの力についてだ。あの魔力は尋常ではなかった」


「はは、お前も大概だと思うけどな。そうだな……端的に言うと、あたしは生まれつき『悪魔』を飼ってんだ」



 その言葉にシグルドは目を細める。



「本当だよ。リーヤは生まれつき『悪魔の目』を持ってるの」


「悪魔の目?」


「あぁ【魔眼】ってやつだ。ほら、この右目を見てみろよ」



 私は右目に魔力を集中させて【魔眼】発動させる。今の私の眼球には特異な模様が浮かび出ていることだろう。



「その眼の模様……それが、魔眼か?」


「そういうこった。視野が広がって視力も飛躍的に向上するんだ。弓使いには打ってつけだろ?」



 あたしは魔眼を閉じる。猛烈に腹が減って仕方なくなるし、使う魔力の量も尋常じゃないしな。



「だけど生まれつきこうだからよ、あたしたちは何かと大変な扱いを受けたんだ」


「あたし『たち』? ……そうか、彼女も」


「察しが良くて助かるよ。今度はあたしから質問良いか?」



 シグルドは数度目をぱちくりさせてから返事をした。



「あぁ、なんでも聞くと良い」


「それ、魔剣だろ?」



 あたしはシグルドの脇に置かれている剣を指さす。



「分かるのか?」


「まぁな。教えてくれたのはコイツだけどな」



 『コイツ』とはこいつのことだ。


 ――魔弓ダーインスレイヴ。


 あたしの愛弓にして相棒。普段は折り畳まれた状態で眠っているけど、久々に起こした時に教えてくれた。近くに『同族』がいると。



「魔弓が教えてくれたってどういうこと?」


「詳しく話すと長くなるから省略する。とにかくそういうことだってことだ。名前は?」



 シグルドが自らの魔剣を手に持って言う。



「グラムだ」


「グラム、か……固有能力は?」


「?」



 シグルドは首を傾げる。



「まさかお前、知らねぇのか?」


「何を?」


「魔具に固有能力があるってことだよ」



 あたしの言葉を聞いてシグルドはロゼをじとーっと見る。



「へ? い、いやいや、私も知らないし! 魔具なんて持ってないもん! なんで教えてくれなかったみたいな目はやめてよね」



 腕をぶんぶん振るうロゼに対し、はぁとため息をついてシグルドは話を続ける。



「話を戻すが、固有能力とはなんだ?」


「魔具それぞれに備わってる能力だよ。ちなみにあたしのダーインスレイブは『可変』な」


「『可変』……あの双剣がそうか」


「そう。簡単に言えば遠近で使い分けができるってこと。で、お前のグラムはどうなんだ?」



 シグルドはグラムに視線を落とす。



「分からない。こいつは俺に語ろうとしている様だが……」


「なんで応えてあげないの?」



 ロゼのその言葉にシグルドは少しの沈黙の後、答える。



「剣と語る趣味は無い……とでも言っておく」



 シグルドはそっと立ち上がる。



「少し、風に当たってくる」



 すたすたと歩いて行くその寂しそうな背中をロゼは心配そうな目で見つめている。



「行って来いよ」


「え?」


「放っておけないんだろ? 火は見ててやるから」


「……うん、行ってくるね」



 ロゼはシグルドの後をついて行った。

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