ローゼリア/聖剣携えし英雄王
ダモクレス発射のカウントがゼロを迎えることはなかった。
「え……止まったの?」
私が眠っているリーヤを抱いたままダモクレスに視線を向けると、そこには1本の剣が突き刺さっていた。
グラムとは対照的な、神々しい気を放つ剣だ。その剣の正体を確かめるためにスキルを行使しようとした瞬間、ダモクレスに1人の男が降り立った。
「誰……あの人?」
その男はダモクレスに突き刺さっている剣を引き抜いてこちらに大きく手を振って歩み寄って来た。爽やかな印象を受けるその男性、私たちに手を振るってことは知り合い?
ロウリィちゃんに視線を向けても彼女は首を横に振るだけ。
私も知らない人となると……。
「シグルドの知り合い?」
「……な、なんで、ここに……」
カラン、と魔剣グラムが床に落ちて音を立てる。
「シグルド?」
「会いたかった……」
シグルドはその男を目掛けて駆けた。
「キール!! キールなんだろ!?」
シグルドはその男性の肩を掴み、激しく揺らす。その行動に対しそのキールと呼ばれた男性は戸惑いを見せた。
「ちょ、男に抱きつかれる趣味は無いんだが!? てかお前誰だよ!?」
シグルドはぴたりと動きを止める。
「キールじゃ……ないのか?」
シグルドは力なくその場に崩れ落ちる。あんなに落胆している彼は初めて見た。
「まったくなんだってんだ……なぁ、そこの麗しき女性達?」
その男はシグルドから目を離して私たちを見る。
「この男、訳ありか? 俺をキールとかなんとか、変な名前で呼ぶんだが?」
「いや、それが私にもちょっと」
男はシグルドを見下ろしてやれやれと肩を竦める。
「まぁ良いか。それにしても散々迷っちまったぜ。廃棄区画から入ったは良いけど、ダモクレスっつー決戦兵器を破壊するためだけにどれだけ時間かけてんだって話だよな。奴に繋がる手がかりもねぇし、飛んだ徒労だぜ。我ながら呆れるわ」
男は手に持っていた剣を鞘に納める。
「廃棄区画? じゃああなたがもう1人の侵入者?」
「侵入者? いや別に侵入したつもりはねぇぜ? 堂々正面から入ったからな」
「正面からって、そんな無茶な」
「無茶じゃあない。俺は最強だからな、多勢に無勢だろうが、相手の手の内だろうがそんなのは些細な事さ。おっとそう言えば……」
その男はマントの中から数本の剣を取り出した。
「なぁおたくら、これ知ってる? ヤバそうだから俺が持ってはいるんだが、処理に困っててな」
なんと、彼が手に持っているのは上のフロアで使われていた準魔剣だった。
「あ、それ!」
「お、知ってる感じ?」
「うん。処理に困ってるなら私たちにくれない?」
「そりゃ構わないが、デート1回でどうだ?」
人差し指を立ててウィンクをする男性。
「却下。でもそれは頂戴」
「じゃあそこの大きい鞄の君は?」
「お断りします。でもそれは貰います」
「かぁー2人とも釣れないねぇ。そこもまた俺の好みだ。今日の所はこの素晴らしい出逢いを記念して。この俺の愛と共に差し上げるとしよう」
「愛以外は貰っておくね」
私は男から準魔剣を受け取る。
「あぁそうだ。ついでにこの建物の中にある魔導兵器は片っ端から沈静化させといたから」
「沈静化?」
「そ、沈静化」
男はもう一度腰の剣を引き抜く。眩い光を放ちながら抜き放たれる直剣。
「聖剣エクスカリバー、こいつの能力さ。かっちょ良いだろ?」
親指を立ててウィンクをする。なんかいちいちカッコつける人だな。
「おっと、そろそろ戻らねぇと術師殿に怒られちまう。おたくらもこんな所にいないで早く脱出しなよ?」
男は踵を返し立ち去ろうとするが、シグルドがそれを呼び止める。
「待て!」
「ん?」
「お前本当に……キールじゃないんだな?」
男は首を傾げる。
「そんなに俺とそのキールって男は似てるのか?」
「……瓜二つだ。顔も、その軽薄な言動も」
「そうかい。だが残念だったな、俺はキールってやつじゃあない」
そして、男は自らの名を名乗る。
「アルトリウス、それが俺の名前だよ。また会おうぜ、強き者よ」
シグルドは、立ち去るその男の背中が見えなくなるまで一点に見つめ続けていた。




