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シグルド/『魔眼の射手』:リーヤ・ハートネット③

『ブチッ』という音がした方に視線を向けると、それがリーヤの髪留めが千切れ飛んだ音だと分かった。



「……大人しく聞いてりゃ……てめぇは殺す……絶対に……ぶち殺してやる」



 リーヤが腰に畳んで納めていた弓を展開させると同時に、事情を知るであろうローゼリアが俺たちに叫ぶ。



「シグルド! ロウリィちゃん! こっちに来て! 早く!!」



 空気が震え、地面が大きく揺れる。



「な……なんだ、この魔力は……!?」



 俺はこの世界に来て初めて恐怖した。


 外見が化物でこれなら分かる。未知の生き物であれば未知の能力を秘めていても何ら不思議ではない。


 だが、目の前にいるのは俺と歳の代わらぬ女性。エルフという種族ではあるが彼女は『人』だ。


 人間が、あれほどの魔力を放つことがあるのか?



「あぁーあ、駄目だ、完全にキレちゃった……」



 ローゼリアが小さな声で呟いた。



「ローゼリアさん! リーヤさん大丈夫なんですか!? 髪が逆立ったりしてますよ!? それにこの魔力、尋常じゃないです!」


「大丈夫、リーヤの命に別状はないよ。むしろ危ないのは私たちの方。巻き込まれないことだけを意識して」


「どういうことだ?」


「詳しい話は後。とにかくリーヤの前にいないこと! ……ダモクレスは終わったね、あとあの後ろの部屋にいる下衆男も」



 ローゼリアが言う様にダモクレスの背後の壁上部にはガラス張りの部屋の様な物が見えた。その中に今までの声の主がいるのだろう。



「ロウリィは俺の陰に隠れていろ」


「はいっ!」



 俺はロウリィを背後に隠し、リーヤの背中を見つめる。リーヤを挟んで数十メートル先には巨大な砲門を空に向けたダモクレス。



「シグルド! 先に言っておく!」



 リーヤが前に視線を向けたまま俺を呼ぶ。



「この旅が終わったら、あたしをお前のパーティに加えてくれ。お前といると面白い事の連続で胸が躍る。絶対荷物にはなんねぇからよ」



 リーヤの魔力がさらに強くなり、周囲に風を巻き起こし始める。



「……あぁ、良いだろう」



 俺のその言葉を聞いて彼女はニヤリと笑い、



「……起きろ、ダーインスレイヴ」



 魔弓ダーインスレイヴを……中央で2つに割った。



「あれ割れんの!? もう弓じゃないじゃん!」



 ローゼリアが言う通り、真っ二つに割れたことによりあれは最早『弓』とは呼べない形状と化している。形は歪だが、あれは双剣か?



「3人とも見といてくれ。これから仲間になるあたしの……本気を!!」



 リーヤは両手に持った曲刀を体の前で十字に構える。



「メレフだったか……お前みたいなクソ野郎はぶち殺してやる。慈悲なんか与えねぇぞ」


『い、いきがるなよ!? そんなに離れた所から何が出来る!?』



 リーヤは男の言葉を無視して刀を振り上げる。


 その瞬間、刀身に赤色の魔力が宿る。



「……断ち切ってやるよ、全部」



 リーヤは振り上げた双剣を四度薙ぐ。


 その斬撃に合わせるように4つの『光の刃』が目にも止まらぬ速度で飛んで行った。4つの内3つはダモクレスを切り裂き、残りの1つはガラスの部屋へと直撃した。



『なんだ、これは!? まぶし、ぐあぁああああ!!』


「千切れとけよ、クソ野郎が」



 リーヤは双剣をもう一度弓に戻してこちらを振り向く。



「胸糞悪さはまだ消えねぇが一先ず、任務は折り返し地点だ……な……」



 ふらっとよろめいたリーヤを受け止める。



「リーヤ!? おい!」



 肩を揺するとすやすやと寝息が聞こえ始めた。



「ぶち切れると魔力を使い果たして寝ちゃうのも相変わらずかぁ」



 ローゼリアが俺の隣に並んでリーヤの顔を伺いながら言う。



「相変わらずというと、心配いらないってことで良いんでしょうか?」


「うん、放っときゃ起きるよ。でも丸一日はこのままぐっすりだね」


「丸一日!? それじゃあここから脱出する時は?」


「シグルドが背負って帰ることになるかな」


「あらーシグルドさんの仕事が増えちゃいましたね」


「背負うくらいどうということはない」



 寝ているだけか、良かった。



「ダモクレスの破壊は完了した。準魔剣を回収する。さっきの魔導兵器の製造場所に戻るぞ」



 ――ビィー! ビィー!



 天井の明かりが全て赤に変わる。



 ――ダモクレス、起動しました。発射まで残り15秒。



「なんだと!?」



 俺たちは一斉にダモクレスを見る。リーヤによって切断されたはずの砲門が不完全ながらも再生を始めており、その主砲はこちらを向いている。



『ごふっ……ひゅー……ひゅー……古代のテクノ……なめるな。貴様らだけは……ここで……サイナス……さ……ま』



「くっ、事切れる前に発射ボタンを押したのか!?」



 ――ダモクレス発射まで残り10秒。9、8、7……



「ローゼリアはリーヤを頼む! ロウリィは2人にしっかりと掴まっていろ!」


「分かった!」


「はい!」



 俺は3人の前に立ち、魔剣グラムを抜く。


 これで砲弾を斬り裂く。合わせて盾もいるか? イージスの盾で防げると良いが。



 ――4、3……



「シグルド、私たちの命預けたよ」


「シグルドさん、信じてます」


「あぁ、絶対に死なせやしないさ」



 ……キール、俺に力を貸してくれ。



 ――2、1……ゼ



 その時。


 流星の様な一筋の光がダモクレスを貫いた。

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