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シグルド/『魔眼の射手』:リーヤ・ハートネット②

 床からせり上がった壁によってローゼリア、リーヤと分断されてしまった。


 すぐ隣にいたロウリィが困り果てた顔で俺に言う。



「分断されてしまいましたね、シグルドさん」


「そうだな。敵地にいるんだ、こんなこともあるだろう」



『ふあはっは! 分断してやったぞ! 僕ちんの作戦ダイセイコーウ!』



 調子の良い様子で自慢げに話す男。俺たちはそれを無視して話を続ける。



「さて、この壁はどうしましょうか? シグルドさんなら壊せますか?」


「相応のスキルを創造すれば良いだけだ。容易いだろう」



『っておい! 僕ちんの話を聞けよ! この場面でボスをスルーって普通じゃないぞ!?』



「ちょっと騒がしい人ですね」


「同感だ。おい、少し黙っていてくれないか? その甲高い声が酷く耳障りだ」



『んなっ!? 僕ちんに命令して良いのはサイナス様だけなんだぞ!?』 



 ――サイナス?


 この男の上役に当たる者の名前か? 覚えておいて損は無いか。



『それに自分の立場を理解してるぅ? 四方八方が壁、まさに籠の鳥ってやつだよ? あぁー敗北に歪む顔がみたいなぁ! 特に男の方! その不遜な態度が折れる瞬間の……』



「なんかずっと喋ってますよ?」


「すまない、途中から聞いてなかった」



『ふひひ、それにしてもナイスな作戦過ぎるよ。戦力の分断と最深部のダモクレス起動までの時間稼ぎを一挙に行えるなんてね! このメレフに抜かりはない! ふあっはっは!』



「い、今この声、ダモクレスを起動するって!?」


「あぁ、急ごう。最深部だと言ったな」



 俺は右手を壁にかざす。



『は? 何やってんの? 頭イカれた? それはね、特殊な金属で造られた超絶無敵の』



「【技能創造】……【万物破壊】。壊れろ」


『んなっ!?』



 ゴンっという大きな音をたてて壁が円形に削れて倒れる。



「超絶無敵? 過分な言葉だな」


『えぇい! 小賢しい虫が! ダモクレスで木端微塵にしてやるよ! ふひひぃ!』




 俺とロウリィは壁の向こう側にいた2人と合流する。俺たちに向かって手を振って喜んでいたローゼリアに事態を手短に伝える。



「最深部に急げ! ダモクレスが起動するぞ!」


「えぇ!?」



 ローゼリアとリーヤが俺達と並走を始める。



「ちょ、ちょっと! どういうこと!? ダモクレスって言った!?」


「既に大陸破滅へのリミットが迫っているということだ」



 リーヤがそれに加わる。



「シグルドのスキルでどうにかなんないのか?」


「ダモクレスの構造を見てみないことには対処の仕様がない、とにかく急ごう」


「シグルドさん!」



 ロウリィが俺を呼ぶ。



「どうした?」


「巻物が真下に強大な反応を示しています」


「下か。3人とも衝撃に備えろ」



 俺は真下に手をかざす。



「【大地掌握】、裂けろ大地よ」



 大きな地響きと共に地面が左右に割れ始める。



「ねぇ、ねぇシグルド? 一応聞くけど……何してんの?」


「見ての通り、下の階層までの床を裂いている。一気に降りるぞ」



 次の瞬間、床が割れ、足場を失った俺たちは最下層まで落下する。



「あんた滅茶苦茶過ぎるってぇえええ!」


「お前凄い事すんなぁまじで。一緒に行動してから肝を冷やしてばっかだわ」


「リーヤさんもそのうち慣れますよ。私も慣れましたから」



 三者三様のリアクションのまま落ちていく俺達。しばらく落下しているとようやく足場が見えた。



「ローゼリア、着地は頼んだ」


「しんっじらんない! 死にたくないからやるけどさ!! えっとえっと!!」



 ぼふん、と巨大な枕に着地した様な感覚の後、無事着地する俺達。



「出来るじゃないか」


「あんたがやらせたんでしょうが! ビビった、マジでビビったっ!」



 涙目のローゼリア。後に彼女が高所恐怖症であることを知ることになるがそれは置いておこう。



「シグルドさん! 反応はすぐそこ……っ!? あれです!!」



 ロウリィが指さす先にあったのは、『巨大な黒き大砲』だった。



「あれが、ダモクレスか!」



 遠近感が狂いそうになる程のその大きさに『要塞』という言葉が脳裏を過る。



『ふひひ! 遅かったねぇ! 残念残念、たった今フルチャージを迎えましたとさ!』



 聞こえたのはあの声だ。



『僕ちんがぽちっとこのボタンを押せば発射されるわけだけどぉー、どこから吹っ飛ばそうかなぁ? あ、取り敢えずミザエルでも吹っ飛ばそうか?』



 その言葉にリーヤは体をぴくりと震わせた。ミザエルには、妹のシルフィーがいる。



「てめぇ……なんつった?」


『んー? よく見たらお前エルフじゃね? 全員ぶっ殺してやったと思ったけどなんで生きてんだぁ? あ、運良く町の外にいたとか?』



 この男、砲撃を防がれたことを知らないらしいな。



『にしてもさ、エルフってなんでこうすぐに侵入したがるわけ? こそこそと虫みたいにさぁ。まぁ虫もエルフも僕ちんからしたら一緒なんだけどね。ふひひ』



 体を震わせるリーヤをローゼリアが宥める。



「落ち着いて。刺激したらスイッチを押されちゃう」


「……くっ……努力はする……」



 リーヤは怒りをぐっと堪える。しかし、男は挑発を止めない。



『でもさぁ、僕ちんって優しいよねぇ? ちゃんと虫を故郷に送り返してやったんだからさ』


「……は?」


『いやー楽しかったよ。みんながみんな口を揃えて、熱い! 熱い! ってさ。大事な人の名前を叫んでるやつもいたなぁ』



 俺は男が発している言葉の意味を理解した。



「貴様……まさか……!!」


『おお、察しが良いねぇお前。そう、ムカついたから砲弾用の溶鉱炉にポイッとね♪ ふひひ』


「……」



 けらけらと不快な笑い声が響き渡ると同時に空気がピリピリと震え始める。



『でさー気になるんだけどぉ、何人死んだの? ねぇ教えてよ? 100いった? 僕ちんのキルスコアうなぎ登り!』



 ロウリィがもう聞いてられないと耳を塞ぎ、ローゼリアも歯をギリギリと噛み怒りを露わにしている。


 そんな中、リーヤは顔を俯けて動かない。



『ふひひ、何人生き残った? お前の大事な人はどうだった? 父親は? 母親は? 妹とかいたり? もしかしてお前だけが生き残ったとか? くぁー熱い! 熱い展開だねぇ!』


「……はぁ……胸糞悪ぃ奴だな、お前」



 明確に『ブチッ』という音が聞こえた。

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