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ローゼリア/準魔剣と魔導兵器

 魔導兵器工場の製造区画を進む私たちの前に異様な光景が広がる。


 開口一番、リーヤがぽつりと呟く。



「薄気味悪ぃな。吐き気がする」



 眼下に広がるのは開けた空間。一言で言い表すなら実験施設だろうか。


 高さも10メートルは優にあり、奥行きは無限とも言えるほどに広がっている。転落防止の手すりを挟んだ眼下には大きなガラスの筒が等間隔に並んでいて、多数の細い管がそこから伸びている。



「え? あの管に繋がってるのって……剣、だよね?」



 台座におさまった『剣』がそこにはあった。視認出来るだけで3本はある。



「……悪い感はよく当たるものだな」



 シグルドはふわりと手すりを飛び下りて台座におさまっている剣の近くに歩み寄る。



「シグルドさん、もしかしてその剣は?」


「あぁ、準魔剣だ。これを見る限り、魔導兵器は準魔剣の構造をトレースして作られているようだ。通りで気配が似るわけだ」


「つーことは元を辿れば全部その準魔剣とやらのせいだってことか? レコンのあの被害や、この大陸の砂漠化も全部?」


「リーヤの言う通りだ。もっとも、これを悪用しているマギステルが諸悪の根源であることには変わりないが」


「どちらにせよ、その剣も回収しないといけませんね」




『そんなことさせると思ってんのぉ?』



 唐突に聞こえた男の声。


 私たちは一斉に身構える。



『廃棄区画からもうここまで忍び込んで来るとは、やるねおたくら。にしても反応は1人だったはずだけど4人もいたとはねぇ。僕ちん驚いちゃった』


 

 この声はあちこちのスピーカーから聞こえるようだ。



「……シグルド、あいつ」


「あぁ、俺たちを廃棄区画から侵入した奴だと勘違いしているようだな」


「あ? じゃあ、あたしたちはその雑に侵入した奴のせいで見つかったってのか? ちっ、誰だか知らねぇが会ったらシメてやる」


「ほんと災難ですね。でも見つかっちゃったのは変わりありません。それで、どうしましょう?」



 ロウリィちゃんの問いにシグルドが答える。



「逃げるのは容易いが、逃げては目的が果たせなくなる。魔導兵器の無力化を優先する」



『今、逃げるのが容易いって言ったの? 馬鹿だねぇ、ここは敵の本拠地だよ?』



 ドタドタという足音が入り口の方から聞こえ、そちらを方向を振り向くとそこには大量の兵士がいた。その手には怪しげな光を放つ武器が握られている。形状は様々で、鎌の様な物もあれば剣や槍の様な物もある。



『おたくら魔導兵器を無力化するって言ったね? でもざぁんねん、おたくらはここで試し斬りの相手になってもらいまーす。近距離特化型の魔導兵器のね』



「おいシグルド、あっという間に囲まれちまったが? あたしが弓で……」



 腰に装着している折り畳まれた弓に手をかけようとしたリーヤをシグルドは制止する。



「落ち着けリーヤ。既に終わっている」



 シグルドが右手を前に掲げた瞬間、それぞれの兵士の体の一部分が発光を始めた。目を凝らしてみると光っているのは『魔術の刻印』だ。



「魔術の刻印? あんたいつの間に?」


「この状況は容易に想定出来たからな。通路に罠を仕掛けておいた。通った者に自動で刻印を施す結界魔術だ」



 割と複雑な術式を一瞬で……どこまで器用なのだこいつは。



「で、あの刻印の効果は?」


「見ていれば分かる」



 シグルドは前に出していた右手をグッと握る。



「出て来た所悪いが、しばらくそこで伏していろ」



 その一言で私たちを取り囲んでいた兵士がばたばたと一斉に倒れた。どうやらあれは睡眠の刻印だったようだ。


 その光景をカメラで見ていたのか、慌てたような声がスピーカーを通して辺りに響く。



『な!? 何をした!? だだだ、だがまだ僕ちんには奥の手がある! ぽちっとな』



 突然ゴゴゴ、と足元が揺れ始めた。



「なにこの揺れ?」


「ローゼリア、下手にうご」



 シグルドの言葉の途中で複数枚の壁がせり上がり、それらは次の瞬間には天井に到達。私たちは2人ずつに分断されてしまう。



「しまっ……!?」



 あまつさえ出口に通じる通路までも塞がれてしまった。



「ロゼ、無事か?」



 すぐ近くにいたリーヤが私に問う。



「うん、何とかね。でも2人と分断されちゃったみたいだね。退路も絶たれたし」



 せり上がった壁は特殊な金属でできているのか、容易く破壊できそうにない。


『空間湾曲』で捩じ切っても良いんだけど向こう側がどうなってるか分からないしなぁ。



「ちっ、うぜぇ壁だな。どいてろ、ぶっ壊すから」


「出来るの?」


「あたしと『こいつ』が揃ってりゃ、それくらいは出来んだろ」



 リーヤが腰に着けている折り畳み式の弓を手に取った瞬間。


 異様な機械音と共に、私たちの背後から魔物が現れた。

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