サイナス/【デウス・エクス・マキナ】⑩
「運命を変える!!」
「っ!?」
な、なんだ……何が起きた!?
目の前にいるのは、私が先ほど壊滅させたパーティだ。何故傷一つ負っていないのだ? いや、それよりもこの光景は……。
混乱のさなか、シグルド・オーレリアが渾身の力でグラムを縦一閃に振り下ろした。
「うぉおおおおおっ!!」
「くっ!?」
この攻撃をマキナの右腕で受け止めた。反応が一瞬遅れたせいでマキナの体勢がほんの少しぐらついてしまう。
「貴様……! 一体私に何をした!?」
「この状況に特別な説明が必要か? ロザリー!!」
「分かってる!!」
シグルド・オーレリアの背後にいるローゼリア・ステルケンブルクが魔力を解き放った。
……おかしい。【デウス・エクス・マキナ】を凍結させて打ち砕く算段ではなかったのか!? シグルド・オーレリアは氷刀をまだ使っていないぞ!?
「氷の精霊よ! 私に力を貸して!! 凍てつけ、シーヴァグラフ・ダイヤモンドダスト!!」
「ちぃっ!? 打ち消せ! マキナ!!」
彼女の氷魔術は十三回ほど前の時空で既に見ている。空間全域を凍結させるほどの威力を持つ最上級魔術だったが、その攻撃を記憶したマキナにはもう通用しない。
私は【デウス・エクス・マキナ】の能力を発動して攻撃を打ち消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
「っ!?」
「うぉおおおおおっ!!」
シグルド・オーレリアが再び私に斬りかかった。
「貴様……何をした!? なぜ時が巻き戻っている!?」
「何を言っている? 妄言で俺を惑わせるつもりなら無駄だ。ゆくぞグラム……大地の剣!! おおおおっ!!」
シグルド・オーレリアの魔力に呼応して巨大な地震が起き始めた。
足元の大地が大きく裂け、隆起している。これは三十回ほど前の時空で見た技だ。
地属性最強のユニークスキル【大地掌握】を魔剣グラムに同調させている。それにより大地はシグルド・オーレリアの意のままに動く。
かつて本で読んだことがある。どこかの国の軍人が遺した本だ。それによると、真に戦に強い者とは『軍事力を多く保有する者』ではなく『天候や自然を味方に出来る者』であるらしい。今なら分かる。大地を味方につけるということは勝敗そのものを左右しうる程の事象なのだ。私はそれを成し得るのは女神であるレミィだけなのだと思っていた。
「くっ!? 貴様、またしてもレミィの力を!! だが、その力では私は倒せない!! 打ち消せ! マキナ!!」
私は【デウス・エクス・マキナ】の力を用いて、シグルド・オーレリアの大地の剣を打ち消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
「馬鹿なっ!?」
「うぉおおおおおっ!!」
シグルド・オーレリアの攻撃に対しマキナが間に合わず、私は魔力の剣を出現させて対抗した。
「貴様だなシグルド・オーレリア! まだ私の知らない能力を隠していたのか!!」
「まだ? まるで既に何処かで俺の能力の全てを見てきたかの様な口ぶりだな」
「大地の剣、凍結の剣、爆炎の剣。お前の手の内は全て把握していた筈だ!!」
「なるほど……敵状視察の為に俺たちの内部に潜り込んでいただけあるな。だが、まだ誰にも見せていない技もある。【技能創造】……【属性演舞】……八尺瓊勾玉!!」
シグルド・オーレリアの背後に色とりどりの勾玉が無数に出現した。それぞれの玉に別々の属性が宿っており、特級クラスに匹敵する魔術を詠唱無しで放つ事が出来る。シグルド・オーレリアの奥の手の一つだ。
この男は誰にも見せた事はないと言っていたが、十八回前の時空で私は見ている。よって【デウス・エクス・マキナ】の前では無力と化す。
「決着をつける!」
「無駄だと言っている!! マキナ!!」
私はマキナで能力を無力化した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
「何故だっ!?」
「うぉおおおおおっ!!」
「打ち消せ! マキナ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
その後、私がマキナの能力を発動する度に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
時は戻った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
何度も何度も同じ事を繰り返していく内に。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
ある答えに辿り着いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
それは私にとって、余りにも身近な能力であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
この能力を有するのは神たる私のみなのだと、私は可能性から真っ先に排除していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「運命を変える!!」
「何故だ……! 何故マキナの能力を使うと時が戻るのだ!? これではまるで……っ!?」
私の目の前に答えはあった。
シグルド・オーレリアの向こう側。
ヤーパンの少年の背後にソレはあった。
「ばっ……馬鹿なっ!?」
「随分と驚いてんな神様。お化けでも見た様な顔だ。俺の背後にあるものが何なのか、あんたが一番よく知ってんだろ?」
ヤーパンの少年の背後に、時計の文字盤を背負った機械仕掛けの神が居座っていた。
「デウス……エクス……マキナだと?」
一体、どういうことなのだ!?




