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サイナス/【デウス・エクス・マキナ】⑨

「運命を変える!!」



 シグルド・オーレリアが発したその言葉が開戦の合図となった。



(運命を変える……か。愚かな。運命を決めるのは神であるこの私だ)



 ――【デウス・エクス・マキナ】。


 今の私が持つ最強のユニークスキル。


 その最たる能力は『指定の事象と指定の時間軸を結ぶ』こと。言い換えるならば、ある事象をトリガーに時間を巻き戻すことが出来る能力。


 その『ある事象』を私は『自らの敗北』に設定し、『戻る時間軸』を『開戦の瞬間』とした。つまり、私が敗北を喫した瞬間、今この瞬間に時間が巻き戻る。


 更に、この【デウス・エクス・マキナ】にはもう一つの能力がある。


 この【デウス・エクス・マキナ】は過去と未来で受けた事象の一切を無効化することが可能であると共に、未来の記憶の一部を使用者である私にフィードバックする。つまり、これより先の未来において私の未知の能力を用いて【デウス・エクス・マキナ】が破壊される、あるいは私が生死に関わる重傷を負ったとしても時は巻き戻り、巻き戻った時間の中では同じ能力で私を傷つけることは出来ない。


 完全無欠に近い神とて、十人を超える英傑を相手に後れを取ることがないとも言い切れないからな。これくらいの予防策は取っていても罰は当たるまい。……いや、神であるこの私に罰を与える存在など、もとよりいないわけだが。……無駄話が過ぎたな。ゆるりと奴らの希望を摘み取っていくとするか。


 ――その後の展開は、絵に描いたようなものだった。


 勇者たちの活躍は目覚ましい物だった。世界を創造したこの私ですら知らない術式、攻撃手段を用いて幾度となく私を敗北へ追い込んだが、その度に時は戻る。戻った時の中では同じ能力は無効化され、手段が五十を超えた頃、遂に奴らの手が尽きた。


 目の前で無様に地に這いつくばる勇者たちに私は告げる。



「思い知ることになったな。運命を変えることなど決して出来はしないのだ」



 するとシグルド・オーレリアとその息子がそれぞれの剣を杖の様にして立ち上がった。魔剣グラムは真っ二つに折れ、フィクサという剣も今に砕け散りそうなほどにヒビが入っていた。


 シグルド・オーレリアが息も絶え絶えに叫ぶ。



「まだ勝負は……終わっていない!」


「親父の言う通りだ。諦めちまうのは、簡単なことかもしれないけどよ」


「諦めた先に、キールが望んだ優しい世界は存在しない。だから俺たちは、運命に抗い続ける!!」



 二人が立ち上がったのと時を同じくして他の者も立ち上がって武器を構えた。あのようなボロボロの身体で何が出来ると言うのだ。



「キール・A・テムジンか……。そうやって過去に縛られるところは、貴様の数少ない汚点だな、シグルド・オーレリアよ」


「特大ブーメランだな、神様」



 そう言ったのはあの少年だった。



「何が言いたい? ヤーパンの少年?」


「レミューリア・カーヤ・ミリウス。あんたと一緒に世界を創った女神様、だろ?」


「……それがどうした?」



 次の瞬間、少年は私の足元に転がっていた短剣と入れ替わる形で転移し、私に斬りかかった。



「足掻くか……だが遅い」



 私が出した魔力の剣と少年の光の剣が衝突し、鍔迫り合いの格好となった。



「あんたは、封印されちまったその女神様ともう一度会いたいが為に戦っている。それは親父が戦友を想う気持ちとなんら変わらねぇはずだろ」


「何を言うかと思えば……。キール・A・テムジンは故人だ。レミィとは違う。死者を偲ぶ気持ちを否定する訳ではないが、そればかりにすがることは過ちの一つだ」


「本質は同じだろうが!」



 グッとこちらを押す力が強まった。これほど傷ついた身体のどこに、こんな力が……。



「同じだと?」


「あぁ同じだよ。愛とか恋とか、尊敬の念とか、細かい点で違うかもしれねぇが、大事な人を想って戦ってるって点では、あんたも親父も同じだ。だからあんたに、親父を否定する権利は、ないっ!!」



 少年は力を振り絞ってフィクサを爆発させたものの、その行動はとうの昔に覚えた。よって、【デウス・エクス・マキナ】が発動している今、その攻撃が私に届くことは無い。



「なるほど。貴様もその想いとやらを武器に戦ってきた類の人間か。親が親なら、子も子だな。最後に教えてやろう。想いがあるから人は振り返る。想いがあるから人は足を止める。想いは所詮、足枷にしかならないのだ」


「だからそれを……お前が言うなっての! 誰よりも女神様を想ってるお前がさぁ!!」



 少年の持つフィクサという光の剣が強い光を放った。



「何をしようと無駄なこと。貴様の持つ攻撃手段は全て……はっ!!」



 私は反射的に少年から距離を取った。


 なぜそうしたのかは分からない。まさか……恐怖したから……? いや、それはあり得ない。神であるこの私が人間の少年に恐怖するなど……。


 少年は私に言う。



「なんで今一歩引いたのか……それは、俺がたった今発現しようとした能力が、あんたにとって未知の能力で、自分の敗北に繋がる力だと判断したからだ。違うか?」


「……貴様、マキナの本質に気付いているのか?」


「まぁ、なんとなくな。だが、気付くのがほんのちょっと……遅かったみたいだ」



 少年の持つフィクサが粉々に砕け散り、少年は丸腰となった。


 私はマキナの腕を振り上げ、少年の腹部を貫いた。



「ぁがっ……!?」



 赤い鮮血が周囲に飛び散る。



「見給え異国の未来人、これが現実だ」



 私は少年を貫いた状態のまま、顎で少年の仲間たちを指す。



「やっ……やめ……」


「貴様に絶望を送ろう。【デウス・エクス・マキナ】……シークェンス・ドリット。……ブラスト」



 私の【デウス・エクス・マキナ】が放った光線が全てを薙ぎ払った。


 錬金術師の魔術壁をも粉砕し、直撃を受けた者達の見るに耐えない姿が辺りに散らばった。



「これが絶望だ、ヤーパンの少年。貴様が全幅の信頼を置いた者たちは、等しく肉片と化した」


「カヤ………ナル……くそっ……くそぉ……」


「さらばだ。幼き勇者よ」


「俺たちの……負け……なの……か………………」



 少年は静かにマキナの手の中で息絶えた。



「終わった……くっくく……アァーッハッハハ!! 私の勝ちだ!! 神の前に全てひれ伏した!!」



 あぁ、これで私の戦いは終わった。


 この無意味な世界は終わり、新たな世界が始まるのだ。


 もうすぐで会えるぞ、レミィ。

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