ロウリィ/立案、マギステル潜入作戦
魔導兵器による砲撃が止んだすぐ後、私たちはリーヤさんの案内でエルフの族長の家へと上がらせて貰うことになった。
「ここだ。入ってくれ」
家の中には数人のエルフがいた。この人達がきっとレコンの重役を担っている人達だろう。その中で最も老齢と見受けられる男性がシグルドさんに頭を下げた。
「そなたがあの光を防いでくれたと聞く。一族を代表して心よりの感謝を」
「礼には及びません。頭をお上げ下さい」
物腰柔らかい雰囲気を纏ったシグルドさんは割と珍しいなと思っていると、
「いつもああだと良いのにねぇ?」
と小さい声でローゼリアさんが私に言った。
「エルフの長よ。私はあることの許可を頂きたく、ここに参じました」
「許可とな?」
「はい。結論から申し上げます。私たちはこれからマギステルへと潜入し、魔導兵器を全て無力化しようと考えています」
その言葉を聞いてエルフ一同が驚きの声をあげる。
「魔導兵器の無力化、じゃと? 本当にそんなことが可能なのか?」
「断言は出来ませんが十中八九、可能だと考えます」
シグルドさんがそう言うとリーヤさんが名乗り出る。
「シグルド! ならあたしも連れてってくれ!! あたしもあいつらに一矢報いてぇんだ!!」
「ならん」
間髪入れず答えたのはエルフの長だった。
「リーヤ、お前はこの町に残された最後の砦。シルフィーもいない今のレコンでマギステルの侵攻に対処できるのはもう、お前しかおらんのじゃ」
「ちっ、だからってこのままじゃいずれ皆死んじまう! さっきの砲撃だって、解放前のあたしじゃ防げなかったんだぞ!?」
「それでもならん。マギステルは敵の本拠地、帰ってきた者は誰一人おらん。そこに孫を送るなど、ことさらあり得ん」
長はシグルドさんに視線を向けて言葉を続ける。
「シグルドと言ったか」
「はい」
「悪いことは言わん、そなたも止しなさい。マギステルはまだ、ダモクレスを隠し持っておる」
――ダモクレス。
その初めて聞く言葉が気になって質問しようとしたけど、私よりも先に手を挙げている人がいた。
もちろん、シグルドさんだ。
「そのダモクレスとは?」
「マギステルが保有する最上級の魔導兵器じゃ」
長のその言葉にリーヤさんが補足する。
「古代のテクノロジーを模倣した最強の魔導兵器だ。大陸全土のみならず、世界全てを射程に収め、全てを焦土にする……らしい」
「らしい……か。その情報の出所は?」
「以前乗り込んだ奴の便りからだ。本人は帰ってこなかったがな」
リーヤさんは辛そうな表情で顔を背ける。
「……そうか。命を賭した貴重な情報ならば、尚更有効に活用せねばならない」
シグルドさんが長に向き直る。
「長よ、何があっても、魔導兵器の無力化という私たちの目的は変わりありません。そしてここからが本題です」
「本題とな?」
「はい。宜しければこの作戦にリーヤを加えたいのです」
またしても他のエルフがざわついた。予期せぬ提案だったのかリーヤさん自身も目を見開いて驚いている。
「なんと、リーヤを連れて行きたいとな?」
「はい」
シグルドさんはエルフの長とエルフの重役に対しこう続ける。
「ご安心ください、リーヤ不在の間は私がこの町に結界を張ります。先ほどの砲撃をも防ぐことのできる強力なものです」
「それは誠か?」
「はい」
シグルドさんの力強い眼差しで、虚言ではないということを理解した長はその提案を承諾した。
「よかろう、リーヤを連れ出すことを許可する。シグルド、一族を代表して感謝の意を。ですがどうか、命を散らすことだけは」
「約束します。この私が誰一人死なせません」
シグルドさんのその言葉からは強い決意が感じられた。
「シグルド、感謝するぜ。奴等に一矢報いる機会をくれて」
「礼には及ばない。リーヤ、その力に期待している」
「あぁ、必ずやその期待に応えるぜ。おいじじい、アレを持って行って良いか?」
リーヤさんが奥の部屋を指して言う。
「魔弓を持って行くのか?」
「あぁ。今こそアイツの力が必要だ。この騒ぎ、アイツだって穏やかじゃねぇだろうよ」
「……よかろう。その力、役立てるが良い」
リーヤさんは深く頷いて私たち3人を見る。
「じゃあ改めて。あたしはリーヤだ。クラスは一応『弓使い』ってことになってる。短い間になるが、よろしく頼む」
ローゼリアさんが最初に反応する。
「すごい! リーヤがいれば百人力だよ!」
「あたしも久々にロゼと肩を並べることが出来てワクワクしてるぜ。おいシグルド、出発はいつにするよ?」
「早い方が良いだろう。レコンに結界を張り終え次第出発するつもりだ。異論は?」
「ないない! 行こうぜ!!」
リーヤさんはシグルドさんの腕をグイッと引っ張って出て行った。
その後ろ姿を見て、
「むぅ……? なんか不穏な気配がする……」
ローゼリアさんがぼそっとそう呟いたけれど、実は内心、私も同じことを考えていたのだった。
シグルドさん、このままじゃハーレムが出来ちゃいますよー?
そして、
「おっと忘れもんした」
慌てて魔弓を取りに戻ってきたリーヤさんを見てほんのちょっと不安になったのは内緒である。
――さて、マギステルで私たちを待ち受けるものとは……。




