楯無明人/【デウス・エクス・マキナ】⑤
「運命を変える!!」
親父がその言葉を発した瞬間、不思議な感覚が俺を襲った。
この光景をどこかで見たことがあるという感覚。既視感やデジャビュと呼ばれる現象だ。
「雑魚はあたしらに任せろ!」
「こやつらを倒したらわしらもすぐに合流する!」
リーヤさんとエストさんのこの言葉に対しても同じ感覚を感じた。
「アキト」
親父に呼ばれる。
「えっ……? あ、あぁ、なんだ?」
「怖気ているのか? 無理もないか。俺が攻めている間【慧眼】であの背後の機械の能力を看破してくれ。お前にしか出来ないことだ」
「出来るかどうかはわからねぇが、やるだけやるさ。親父も気を付けろよ」
「お互いにな」
俺たちが作戦会議を終えた後、得体の知れないユニークスキル【デウス・エクス・マキナ】を背後に発現しているサイナスが言う。
「出来過ぎだな」
それにグラムを抜刀している親父が返す。
「……何がだ?」
「始まりの二人であるシグルド・オーレリアとローゼリア・ステルケンブルクが敗れ、その子である少年が私の前に立ちはだかった。更になんの因果か、その少年は私の祖国が存在する世界の出身だという……まるで御伽噺だ」
またしても違和感が襲う。俺はこのやり取りをどこかで……いや、これはデジャビュ。ただの脳の錯覚だ。緊迫したこの状況が起こしたに違いない。
「あぁほんと、出来過ぎだよな色々と。でも良いのか? 勇者とラスボス、王道的には勝つのは俺たちだぜ?」
「運命は既に決定されている。神である私が敗北するなど有り得ない」
次の瞬間、親父が一瞬で間合いを詰めて魔剣グラムで斬りかかった。サイナスはその一撃を背面の巨大な機械【デウス・エクス・マキナ】の右腕で防いだ。
「ほぅ、定められた運命に抗うか」
「変えられない運命など、有りはしない!」
なんだこの感じ……。あのままだと親父が危ない……そんな気がする。
「では貴様達の全てを賭して変えてみせると良い。すぐにそれが無意味なものであった事を悟るだろう……やれ、マキナ」
「親父! 後ろに飛べ!!」
「っ!?」
親父が不可視の衝撃波に吹き飛ばされ柱に叩きつけられた。もう少しだけ早く声をかけることが出来ていれば……。
「ぐっ!?」
「親父!!」
「っ……問題ない。敵の観察を怠るな。アキトは前だけを見ていろ。……配置転換!!」
親父は再びサイナスの前に転移してに斬りかかったが、再び機械の腕に阻まれてしまう。
「滑稽だなシグルド・オーレリア。今の貴様と私では圧倒的な力の隔たりがある。それが理解出来ない男でもあるまい?」
「理解しているつもりだ。二十年前ですらあの様だった。真の力とやらを解放した今のお前に勝つ事は簡単なことではないだろう」
「それを理解していながら、なおも抗うとは……理解に苦しむな」
サイナスの言葉に対し親父はグラムに魔力を込めながら答えた。直感で俺は親父が【デウス・エクス・マキナ】を凍結させるのだと理解できた。
「俺はこれからも抗い続けるさ。それが茨の道だとしても、血反吐を吐く程の困難が待っていたとしても、諦めてしまったら運命は決して変えられないからな! ゆくぞグラム!!」
親父はグラムを氷刀に変え、その斬撃により【デウス・エクス・マキナ】が瞬く間に凍結した。この後に続くのは母さん……そんな気がした。
「っ……小癪な真似を!」
「ロザリー!」
「そう来ると思ってたよ!! 砕け散れ!!【上級地属性魔法】……ストンスタンプ!!」
俺が思っていた通り、母さんは巨大な石像の足で凍結状態の【デウス・エクス・マキナ】を砕こうとした。しかし、紙一重の所で分厚い氷を割りながら出て来た右腕に防がれてしまう。
それが予見できた俺は想定していたよりも一歩早く、サイナスへの攻撃を開始した。
「無駄だと」
「足元がお留守だぜ! 神様!!」
俺は一瞬の隙をついてフィクサで攻撃するも【デウス・エクス・マキナ】の左腕に阻まれた。フィクサに宿る『沈静化』や『脆弱化』を上乗せしても傷一つ付かないなんて……心が折れそうになる一方で、こうなる気もしていた。なんだこの感じ……俺は何処かで同じ体験をしてたのか?
「ちっ、硬いなそれ!!」
「ヤーパンの少年。次は貴様の番か?」
「あぁ、俺たちの番だ。出ろ、幻影剣! 三光!!」
俺が出現させた三本の剣がサイナスの【デウス・エクス・マキナ】の左腕と衝突した。
「何をするかと思えば、魔力の剣か。その様な子供遊びの武器で……っ!?」
ピシッと機械の左腕にヒビが入った。この感じもどこかで……。
「貴様……! その光の剣にも私の武具の力を込めているのか!?」
「神様なら見抜けると思ったが、力の差があるとつい油断しちまうのは神様も一緒らしいな! 集え三光!! 百花一閃・菊一文字!」
俺の背後で実体化した大剣の一振りが【デウス・エクス・マキナ】の左腕を斬り落とした。
「くっ……よもやマキナの左腕を斬り落とすとは……。だがその技、刹那の反動があるらしいな」
「あっはは……やっぱり見逃してくれねぇよな」
「まずはお前からだ、ヤーパンの少年」
【デウス・エクス・マキナ】の右腕が俺を串刺しにしようとしたその瞬間、俺の目の前に魔術壁が出現した。
その魔術壁を出したのはカヤだ。カヤが出したのは『消滅の楯』。あれに触れたものはどんな物質でも消滅させることが可能。カヤが編み出した最強の魔術壁だ。サイナスはその存在を知らない。間違いなくあれに触れるはずだ。
「幼き錬金術師よ、その程度の魔術壁でマキナの攻撃が防げると思っているのか?」
サイナスの【デウス・エクス・マキナ】がカヤの消滅の楯に攻撃を加えようとしたその瞬間……サイナスが攻撃を中断させた。まるでその楯の危険性に気付いている様だった。
「……消滅の楯か。面白い発想をする」
「なっ……!?」
「小賢しいことをする。今一度言おう。貴様らがどの様な小細工を弄しようが、神であるこの私の前では無駄な事だ」
その次の瞬間、カヤの『消滅の楯』がフッと消えてしまった。
「消された!? 一体何が……?」
「幼き錬金術師よ。貴様の力では、この私を止めることなど」
直後、リーヤさんが放った視認出来ない矢もサイナス直前で消滅した。あれを看破できるのは【慧眼】を持つ俺ぐらいのもんだったのに……。
「なっ……!? あたしの矢が消えた!?」
「視認出来ないだけではなく、宿した魔力も感知出来ないとは。面白いことを考える。この私を持ってしても反応することすら出来ないとはな」
続いて【黒鎧槍】状態のモルドルさんがサイナスの頭上に転移し魔槍を振り下ろすも、サイナスはそれを予見していたかの様に転移して攻撃を躱した。『配置転換』を用いたタイムラグ無しの転移に反応した!? そんなことが出来るのか!?
転移を終えたサイナスが俺に視線を向けて口を開く。
「他の者に能力を譲渡できる能力か……存外、最も厄介なのは貴様なのかもしれぬな、ヤーパンの少年よ」
「くっ……何が起きてんだ……!?」




